【Day1】
桜の舞うキャンパスは、ひどく目がチカチカした。
視界を埋め尽くす新入生たちは皆、明るく染めた髪色や少し背伸びをしたメイクで、自分の輪郭を自由に拡張しているように見える。
彼らが笑い、動くたびに、見えない極彩色の絵の具が空気に溶け出していくようだ。
靴底がアスファルトを擦る音、安い香水の匂い、真新しい革靴の軋み。
他人の体温と欲望が入り乱れる空間に、少しだけ眩暈がした。
「あの子、スーツの肩幅が全く合っていないわね。みっともない」
隣を歩く母が、すれ違った女子学生を一瞥して小さな声で呟く。
私は無意識に、自分の背筋をミリ単位で伸ばした。
母が採寸の段階から徹底的にこだわり抜いたこの漆黒のスーツは、私の体に寸分の狂いもなくフィットしている。
量販店のポリエステルのような安っぽい光沢など一切ない、上質なウールの重み。
私はこの広大なキャンパスの中で、誰よりも一番、正しい形をしている。
そのはずなのに、なぜか透明なパックに閉じ込められたまま店頭に並べられたような、ひどい疎外感があった。
誰も私を見ていない。
すれ違う人々の視線は、無色透明な私の身体を素通りしていく。
私がずっと見つめているのは、母の目線だけだ。
式典の最中も、私は指定されたマス目から一歩もはみ出さないよう、浅い呼吸を繰り返した。
パイプ椅子の冷たさが、タイトスカート越しに肌へ伝わってくる。
新しい水は、思ったよりも硬くて、冷たい。
私だけが、まだ何色にもなれないまま、この巨大な水槽の底でじっと息を潜めていた。
【本日の水質記録】
• 濁度: 0%
• 状態: 外部からの刺激を完全に遮断。水温は冷たく安定しているが、ひどく酸素が薄い。




