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『招かれざる定員オーバー』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/29
# 招かれざる定員オーバー

静かな夜を
ふたりで分け合うはずだった

お気に入りのワイングラス
北欧風の照明
観葉植物の葉先を揺らす
エアコンのやさしい風

二人暮らしには
少し広すぎる部屋が
ちょうどよかった

そのはずだった

ある日
玄関に並ぶ靴が増えた

一足

二足

四足

六足

気づけば家は
満員電車より息苦しい

冷蔵庫には
ぬか床と漬物と
謎の保存容器

洗面所には行列

トイレには予約待ち

ソファには義父

キッチンには母たち

気がつけば
家主のはずの私たちが
廊下をそろりと歩いている

「ここ、本当に私の家だよね?」

そう呟けば

誰かが

「醤油どこ?」

と聞いてくる

誰かが

「洗濯物取り込んだ?」

と聞いてくる

誰かが

「今日の夕飯なに?」

と聞いてくる

静寂は消えた

自由も消えた

冷蔵庫の隙間に隠していた
高級チョコレートも消えた

だけど

真夜中

停電した部屋で

懐中電灯の灯りが揺れ

誰かが笑い

誰かが鍋を囲み

誰かが昔話を始める

その声を聞きながら

私は少しだけ思う

うるさいな

本当にうるさい

一人になりたい

静かに暮らしたい

でも

この騒がしさが

永遠ではないことも

知っている

いつか

玄関から靴が消え

冷蔵庫が空き

トイレの行列もなくなり

部屋に静寂だけが戻ったとき

私はきっと

今日を思い出す

定員オーバーの毎日を

ため息と一緒に

少しだけ笑いながら

家族というものは

ときどき厄介で

ときどき騒がしくて

ときどき理不尽だ

それでも

空いている椅子を見ると

なぜだか少し

寂しくなるのだから

人間とは不思議な生き物だ

だから今夜も

六人分の笑い声が響く

二人暮らしのはずだった部屋に

あふれんばかりの

生活の音とともに
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