トリック&トリート
「今日はハロウィンだよ! まろ!」
「ハロウィンって何するの?」
みるが興奮気味に頭を揺らし、隣でまろが、バサバサと裾を鳴らしました。
「いたずらと、お菓子をプレゼントするんだよ」
「いたずらと、お菓子、両方とも?」
「そうだよ」
「すごい! それじゃあ今から準備しなくちゃ!」
そう言うと、まろは倉庫へと駆けていきました。
「それじゃあ、わたしはお菓子だね!」
みるは、大きな籠を背負うと、材料集めに森へと向かいます。
◇
空を飛んでいた、ユーキが、キラキラと輝くものを見つけて、森の中に降り立ちました。
「ハッピーハロウィン!」
「?!」
庭にはオレンジ色の光るキノコが並び、木の枝には黒い布のおばけがぶら下がっていて、テーブルの上には、色とりどりのお菓子が山のように積まれています。
「わあ! お菓子がいっぱい!」
色とりどりのお菓子に、ユーキが目を輝かせて声を上げました。
「でも、今日はそれだけじゃないんだよ!」
まろが、いたずらっぽく笑います。
「トリック&トリート!」
二人は声を揃えて叫びました。
みるがテーブルの上から小さなカボチャの籠をひとつ持ち上げると、中にはキャンディやクッキー、チョコレートがぎっしり詰まっています。
「お菓子をあげる!」
まろも別の籠を持ち上げました。
「いたずらもする!」
「両方!」
「両方!」
二人は顔を見合わせ、けらけら笑いました。
「まずは、いたずらからだよ!」
「ええっ、お菓子が先じゃないの?」
「だめだよ、ユーキ! ハロウィンなんだから!」
みるがびしっと人差し指を立てました。
三人はそろって庭の奥へと向かいます。
最初のいたずらは、木にぶら下がった黒いおばけ。
「せーの!」
二人が紐を引っ張ると……。
ぽんっ!
おばけが大きく膨らみました。
「うわあ!」
ユーキが、驚いて飛び上がります。
「成功!」
みるも、まろも大喜び。
すると、おばけの口から小さなキャンディがぽろぽろと落ちてきます。
「お菓子だ!」
ユーキは夢中になって拾い集めると、満足した顔で飛び去っていきました。
◇
二人が次の来客を待っていると、ガシャン、ガシャンと重々しい金属音が響いてきます。
森の優しい守護者。鈍色ダーマがやってきました。
「トリック&トリート!」
その言葉に、ダーマの動きが止まり、瞬時に走らせたセンサーが、最適な位置取りを完了させました。
今度は、光るキノコの前に仕掛けた箱。二人が入れるほど大きな箱でも、ダーマの前では小箱のようです。
まろが蓋を開けると――
『ワッ!』
中から大量の紙のおばけが飛び出してきました!
ドズゥゥゥン!
ダーマは地響きをあげ、尻もちをつきます。
紙のおばけには、小さな文字。
『トリック!』
「じゃあ、こっちは……」
みるが別の箱を開けます。
『トリート!』
中から、色とりどりの魔石がころころと転がり出してきます。ダーマは器用にひとつひとつ摘み上げると、胸のコアに収納していきました。
二人は一緒になって逃げ出し、それから顔を見合わせて大笑い。
◇
それから二人は、森の仲間を訪ねて回りました。
「トリック!」
「トリート!」
「トリック!」
「トリート!」
箱を開け、驚かせては笑い、そのたびにお菓子をひとつ、渡します。
二人は歌いながら、森の中を駆け抜けていきました。
「トリック取るならトリートも取れ!
トリート取るならトリックも取れ!
ストリート育ちのストレートなトリック、
レトリック駆使してハットトリック!
トリック仕掛けたストリートのトリック師、
ストレートなレトリックでトリートを要求!
トリックとトリート取り違えたら、
ハットトリックどころかトリック失敗!
トリック&トリート、トリート&トリック!
ストリートのストレートなレトリック!
ハットトリック決めてトリートを取り、
トリックもトリートも取りこぼすな!」
いつのまにか、籠いっぱいに用意していたお菓子も、山ほど準備していたイタズラも、からっぽです。
「なくなっちゃったね」
「うん……」
二人は、少しだけ寂しそうに顔を見合わせました。
すると、空に浮かんでいたカボチャのおばけたちが、一斉に口を開きました。
「トリック&トリート!」
不思議な声が響きわたると、空から色とりどりのお菓子が降ってきました。
「うわあああ!」
みるが両手を突き上げています。
「お菓子の雨だ!」
まろも両手を広げて、降ってくるキャンディやチョコレートを追いかけます。
オレンジ色の光るキノコが明滅し、黒いおばけが風に揺れ、空からは色とりどりのお菓子が降り続けました。
二人は笑いながら庭を駆け回ります。
「トリック!」
「トリート!」
「トリック!」
「トリート!」
いたずらも、お菓子も。
今日はどっちもプレゼント。
「ハロウィンって最高だね!」
「うん! 来年も両方やろうね!」
「絶対!」
二人は籠いっぱいのお菓子を抱え、手を繋いで家へと帰りました。
その後ろで、光るキノコがぽつり、ぽつりと明かりを落としていきます。
最後に残ったカボチャのおばけが、暗くなった庭でひとつだけ、大きく口を開きました。
「トリック&トリート!」




