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ムテキの木下

掲載日:2026/04/09

 高い天井にぶら下がった照明がフロア全体を白い光で染める店内に、超大型決戦兵器"呼び込みくんMk-Ⅳ 大気圏突入仕様"の奏でる音楽が響き渡る。

 今日もフロアはスーパーマーケットの仕組んだ資本主義に染まったタイムセールに熱狂しているらしい。真っ白な店内が重低音で鈍く震える中、この日もお客様(オーディエンス)たちは首を縦に振りながら縦横無尽に駆けずり回る。


 本日は東北の奥羽山脈で獲れた自走式ベイクドモチョチョが店頭に並ぶ。

 春はベイクドモチョチョが旬だ。冬眠から目覚めたばかりのベイクドモチョチョは餡子の糖度が高くなる。ずっしりとした餡子が重くなった分、凶暴性が増すものの、しっかりとした食べ応えとしっとりとした生地が病みつきになる。

 チラシに「宮城産ベイクドモチョチョ 1匹 199円」などと書き散らしてみれば、フロアは呼び込みくんに誘われてお客様(オーディエンス)が殺到した。

 人感センサーに反応した"呼び込みくんMk-Ⅳ 大気圏突入仕様"は更に重いサウンドを掻き鳴らす。ショウの始まりだ。


「いらっしゃいませぇ〜。いらっしゃいませぇ〜。どなた様も、こなた様も、血で血を洗って奪い合い、お買い求めくださいませぇ〜」


 坂下は声を張り上げた。


 熱狂するフロアは坂下の声に反応し、メロイックサインを上げる。それに呼応するかの如く、坂下は制服のエプロンを自らの手で破り捨てる。


 誰かが特売品に噛みつき絶叫を上げる中、突如店内は真紅に染まる。呼び込みくんMk-Ⅳのツインアイが赤く光ることで照明が切り替わったのだ。

 店内アナウンスの3番。出禁客(ファッキンジャップ)のご来店だ。

 はっと正気に戻った坂下は、呆気に取られる有象無象(おきゃくさま)を張り倒して店外へ駆け出す。

 陽の光に照らされてホワイトアウトする店外に視線を向けると、空の彼方から何かがゆったりと飛来してくる。


「来たぜ……。メロンだ」


 坂下の同僚、松下が商品のスイカをねじ切ってヘルメット代わりに被りながら固唾を飲む。

 坂下は、彼が手渡したねじ切られた半分を同じように被り、血に塗れた戦士のように顔を染めた。


 視線の先には、人影が一つ。

 何かを片手で振り回してローターと化し、揚力を得て空を舞う。

 歯向かう人間の返り血で染めたブリーフを股座にはめ込んで、気持ちばかりのモザイクをあしらった全裸の中年男性。丸く剃り上げられた頭皮は、和彫りの龍がとぐろを巻いて、「ついんてゑる」と彫り込まれている。

 木下だ。


「や、野郎っ……!」


 松下が出禁客(ファッキンジャップ)のご来店に怒りで震える中、木下は店員を底辺職とせせら笑いながらローターに使った()()を松下に投げ渡す。


 ゴムのくたびれた綿のパンツ。股間のど真ん中(ストライクゾーン)にでかでかと中指のアイコンがしつらえ、尻に大きく「ムテキ」と書かれた薩摩隼人の勝負下着(しにしょうぞく)。紛れもなく、山下のパンツだった。


「お、お前……」


「山下くん、お゙い゙しかっ゙たぁ゙」


 ストリート生まれHIP-HOP育ち。当店勤続15年のベテラン店員である山下は、貧困に喝を入れるリリックを轟かせる熟年のラッパーであった。整髪禁止の職場(スーパー)でありながらキャップを斜めに被って鬱陶しい存在だった。


「よ、よくも……」


 木下に殺到しようとする松下だったが、坂下はそれを制止する。リリックで黒白(こくびゃく)をつけるのがスーパーマーケット「Kills」だったが、木下にはそれは通用しない。ラップバトルのディスに拳で返す木下にはHIP-HOPのわびさびはわからない。他人の血でしか酔えず、狂えない木下には重低音の暴力が渦巻く「Kills」の売り場(ダンスフロア)でしか狂えないのだ。


 店内に降り立った木下。悲鳴に沸き立った店内。絶叫にいきり立った陰茎。戦況に慄く軍警。


 売り場に響く重低音に陰茎を震わせて、木下はベイクドモチョチョ目掛けて疾走する。


 その最中、突如として"呼び込みくんMk-Ⅳ 大気圏突入仕様"の股間が爆散した。


 呼び込みくんの股間に備えられたコクピットハッチは執拗に溶接されていたものの、その鋼鉄の檻と化したコクピットの封印が今解かれる。


 中では発進シーケンスを緑に表示させたヤリイカがぶるぶると震えている。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ニンジャなめんなぁあああああ!」


 突如飛び出るモンスター。口に棒を突き立てられ、吐血のごとく墨を吐く白濁のヤリイカが空を舞って音の壁を切り裂いた。


 木下の巨躯が突如宙に舞う。()()()に貫かれた木下は、その軌道に合わせて天井に突き刺さり、槍で串刺しにされて天高く掲げられた。


 湧き上がる店内。噴き上がる血しぶき。お客様(オーディエンス)の熱狂はこわいくらいだ。


 ムテキの店内に、新たなアナウンスが沸き起こる。


「木下を生贄に。本日ムテキパンツ全品半額!」


「Kill! Kill! Kill! Kill! Kill!」


 店舗の資本主義は今日も客を豚たらしめる。


 まだ、俺たちの時代は始まったばかりだ。そんなメッセージが呼び込みくんの股間から飛び出していく。


 本物のHIP-HOPが、ここにあるのだ。


 


 

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― 新着の感想 ―
『呼び込みくんの股間に備えられたコクピットハッチ』の表現が面白いw 勢い重視のコメディーですね。 (´ε`) ……本物のHIP-HOPとは一体何なのか。哲学でしょうか? (・–・;)ゞ
すばらしい! サンキュームテキング!!
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