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エルデーン世界記録集 ― Chronicle of Eldern

旅は荷車をつれて~値切りは挨拶、払いは気前よく~

最終エピソード掲載日:2026/10/08
三十年以上、荷車とともに街から街へ。

ネラ・ヴィ・ロタンは、ひとところに店を持たない行商人だ。

良い品を見つければ仕入れ、
別の街へ運んで売る。

値切られれば値切り返し、
宿では知らない旅人と相席し、
市場では商人たちと声を張り合う。

そんな暮らしを、物心ついたころから続けてきた。

ある日、学都ヴェレンの若い地誌学者テオから、奇妙な頼みを持ちかけられる。

「あなたが旅してきた街のことを、書き残してほしい」

最初は断った。

自分は物書きではない。
三十年書いてきたのは、値札と荷帳くらいのものだ。

けれど、その荷帳の余白には――

橋番の婆さんの外れた天気予報。
宿で聞いた妙な歌。
市場で出会った子供。
値切り合った商人。
一杯の酒を分けた旅人。

商売とは何の関係もない、
けれど忘れたくないものが、いつの間にか書き残されていた。

ならば、その余白を本にしてみよう。

二つの川に挟まれた染め物の町。
羊の群れが行き交う平原の街。
香辛料の匂いに満ちた港町。
学者と学生が集まる学都。
宝石で栄えた街。
雪山に食い込む砦街。
そして、人と荷のすべてが集まる王都。

名所ではなく、市場へ。

宮殿ではなく、宿屋へ。

英雄ではなく、そこで暮らしている人々のところへ。

荷物の値段。
今日の夕飯。
宿賃。
商人同士の駆け引き。
旅先で交わした、どうでもよくて忘れられない会話。

これは世界の果てを探す冒険譚ではない。

一台の荷車とともに「世界の真ん中」を旅してきた、
ひとりの行商人が書き残す異世界紀行。

値切りは挨拶。
払いは気前よく。

架空世界エルデーンの日常と商いを巡る
「エルデーン世界記録集」交易・紀行編。
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