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『婚約破棄された瞬間に私の脳内ツッコミが全国放送された件 ~氷の令嬢の本音は、今日も神の実況付きです~』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/06/08
夜会の灯りは眩しかった

磨き上げられた大理石

金糸の刺繍が揺れるドレス

甘い葡萄酒の香り

そして

十年信じた人の声

「婚約を破棄する」

その一言で

世界は静かに壊れた

けれど私は泣かない

氷の令嬢だから

公爵家の娘だから

みっともない姿など見せられない

だから背筋を伸ばし

微笑んでみせた

その瞬間だった

心の中で

たった一言

「は?」

そう思っただけだった

それだけだったのに

空が割れた

神の声が響いた

王都へ

辺境へ

酒場へ

農村へ

王の寝室へ

私の本音が飛んでいく

隠していたはずの言葉たちが

鳥の群れのように

空いっぱいへ放たれていく

恥ずかしかった

怖かった

笑われると思った

軽蔑されると思った

だって私は

完璧な令嬢ではなく

怒るし

泣くし

愚痴も言う

ただの人間だったから

神様は残酷だ

王子の愚かさより

男爵令嬢の嘘より

私の弱さを暴いてしまう

愛していたこと

傷ついたこと

寂しかったこと

許せなかったこと

全部

全部

空へ流してしまう

それなのに

不思議だった

誰にも知られたくなかった本音を

誰かが聞いてくれた

笑いながら

驚きながら

怒りながら

たくさんの人が

私の声を聞いてくれた

ひとりではなかった

私はずっと

氷の令嬢だった

強いふりをして

平気なふりをして

泣かないふりをして

生きてきた

でも本当は

誰かに言ってほしかった

「つらかったね」と

「よく頑張ったね」と

神の実況はうるさい

本当にうるさい

けれど

あの日から少しだけ

世界は優しくなった

本音を隠さなくていい日が

少しずつ増えた

そして今日も

空の向こうで

あの声が響く

「エレノア選手、照れております!」

私はため息をつく

頬を染める

隣では大切な人が笑っている

ああ

人生は思ったより騒がしい

でも悪くない

本音を知られたその日から

私はようやく

自分の人生を生き始めたのだから。
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