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疫病の夜、誰の名を呼びましたか

最終エピソード掲載日:2026/06/15
十年間、薬を作り続けた。
誰にも褒められず、誰にも気づかれず。
婚約者はそれを、誰でもできる仕事だと笑った。

公爵家の薬師として、領地の医療を一手に担ってきた。
調合録は二十六冊、処方は三百を超える。
けれど婚約者の目に映るのは、病弱な令嬢の涙だけ。

ある夜、渾身の薬を毒だと突き返された。
公衆の前で、使用人たちの目の前で。
十年かけて磨いた腕が、たった一言で否定される。

声は荒らげない。涙も見せない。
ただ静かに、薬草園の鍵を返した。
あの園が王家の資産だと、婚約者は知らない。

薬も調合録もすべてが彼女と共に消え、棚は空になる。
その腕を正しく見抜いたのは、思いもよらぬ人物だった。

やがて疫病の夜が来た時、彼は誰の名を呼ぶのか。
その声に応える者が、まだいるのかどうか。
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