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星屑の値段

作者:tm
最新エピソード掲載日:2026/11/03
むかし、空には島があった。

 百二十七年前の夏の昼、空が鳴り、白い光が走った。光が上から来たのか、下から行ったのか、見ていた者は誰も言えなかった。のちには、誰も言わなくなった。島々は七日かけて砕け落ち、都が三つ地図から消えた。人々はこれを大崩落と呼び、その年を元年とした。

 落ちた欠片は、光る石を残した。星屑である。星屑は温かく、何年たっても冷めない。子どもたちは「息をしている」と言う。

 人々は星屑の粉で紋を刻み、火を灯し、傷を塞ぐ術――詠紋を覚えた。最もよく効くのは、生きた体に刻んだ紋だ。そして刻んだところから、体は石になっていく。星蝕と呼ばれるこの病に、治す方法はない。強い術者ほど長く生きられない。それが、この大陸の魔法の値段である。

 星屑をどう呼ぶかで、大陸は割れた。聖王国ヴェルディナは聖遺と呼んで台帳に記し、白い手袋の大司祭が教会を統べる。自由都市カルネイアは値札と呼んで売り買いし、エルフは森の傷と呼んで忌む。ドワーフは山の腹で掘り続け、獣人の牙連は持たずに生きる。北の魔族の国ノクトゥルナでは、記録官がすべてを書き留めている。百二十七年前のあの日のことも。

 大崩落暦百二十七年。星屑は尽きかけ、星蝕の病者は増え続けている。そして大陸のあちこちで、奇妙な記録が見つかりはじめている。誰の様式でもない紋。台帳から消えた十七年分の数字。古老の沈黙。

 聖遷祭の前夜、王都の聖遺管理局で、箱車に三つの箱が積まれた。二つは台帳に載った星屑。残る一つは、どこにも名のない、古びた黒い匣だった。蓋の紋は、外縁の線が途切れて閉じていなかった。まるで、どこか遠くへ繋がろうとしているかのように。

 明日、その箱車は祭りの雑踏を進み、ひとりの少年が、盗んではいけないものを盗むことになる。

 ――これは、星屑の値段を誰が払うのかを、決め直そうとした者たちの物語である。
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