タチバナ町奇譚 ~樹繋の守と初香の乙女
最終エピソード掲載日:2026/06/17
今年は百年に一度の大祭だ。
大規模な災害で、家族を亡くし、遠縁に引き取られた紗子は、その家の同い年のお嬢さまの付き人のような立場で暮らしている。お嬢さまは大祭の、誉れある舞手に選ばれ、稽古に余念がない。紗子は提灯行列のチームだが、必ず一緒に帰るよう、言いつけられ、稽古場の外で待っていた。すると、前庭の橘の木からホトトギスが舞い上がった。何かを告げるように、あるいは何か終わると言いたげに。
「橘の花散る里のほととぎす片恋しつつ鳴く日しぞ多き、」
「ほととぎす来る鳴きとよもす卯の花の伴にや来しと問はましものを。」
口をついた古歌に返しがやってきて、弾かれるように顔を上げた。
傘もささずに、少年が独り木の下に立っていた。黒いシャツの肩口を、髪を、霧雨が湿らせて、色合いを濃くしていく。
これは、とある橘の、樹繁の守をめざす若者とその乙女をめぐる物語である。
☆完結後、「カクヨム」さんにも章の構成を変えて掲載する予定です。
大規模な災害で、家族を亡くし、遠縁に引き取られた紗子は、その家の同い年のお嬢さまの付き人のような立場で暮らしている。お嬢さまは大祭の、誉れある舞手に選ばれ、稽古に余念がない。紗子は提灯行列のチームだが、必ず一緒に帰るよう、言いつけられ、稽古場の外で待っていた。すると、前庭の橘の木からホトトギスが舞い上がった。何かを告げるように、あるいは何か終わると言いたげに。
「橘の花散る里のほととぎす片恋しつつ鳴く日しぞ多き、」
「ほととぎす来る鳴きとよもす卯の花の伴にや来しと問はましものを。」
口をついた古歌に返しがやってきて、弾かれるように顔を上げた。
傘もささずに、少年が独り木の下に立っていた。黒いシャツの肩口を、髪を、霧雨が湿らせて、色合いを濃くしていく。
これは、とある橘の、樹繁の守をめざす若者とその乙女をめぐる物語である。
☆完結後、「カクヨム」さんにも章の構成を変えて掲載する予定です。
0 崩壊の日
2026/06/09 20:46
1 さつき待つ
2026/06/09 20:49
2 花橘の
2026/06/09 20:57
3 香をかげば
2026/06/10 06:02
4 昔の
2026/06/11 06:01
5 ひとの
2026/06/12 07:31
6 袖の
2026/06/13 06:03
7 香ぞする
2026/06/14 07:35
8 前日譚1 誰かまた 〜再会
2026/06/15 07:31
9 前日譚2 我も昔のひととなりなば 〜失格者
2026/06/16 07:26
10 前日譚3 花橘に思い出でむ 〜南の櫓で
2026/06/17 06:24
終章 守の宮にて
2026/06/17 07:23