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【民に愛されるのは妹だ】と王太子妃府を追放されましたが、引き継ぎ書を魔導裁断炉へ投げ込んだのは妹殿下ご本人です ~三日後に泣きつかれても、もう復元できません~

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/06/06
追放された王太子妃候補

民に愛されるのは妹だと
王宮の大広間で告げられた

拍手は妹へ向けられ
視線は私から離れていく

けれど私は知っていた

王冠は輝きだけでは支えられない

誰かが夜更けまで帳簿を開き

誰かが苦情の手紙を読み

誰かが予算を調整し

誰かが外交文書の一文字を確かめる

国はそういう地味な仕事の上に立っている

だから私は頭を下げた

「承知いたしました」

そして去る前に残した

十年分の知識と経験を綴った
七冊の引き継ぎ書

それは私の最後の責任だった

けれど妹は笑った

「こんな難しい本はいらないわ」

愛嬌があれば大丈夫

人気があれば何とかなる

そう信じて

魔導裁断炉へ投げ込んだ

紙は光となり

文字は塵となり

十年の積み重ねは消えた

完全に

二度と戻らない形で

一日目

外交は躓いた

二日目

決裁は止まった

三日目

王宮は悲鳴を上げた

ようやく彼らは駆けてくる

泥だらけになって

誇りを捨てて

「助けてくれ」

そう叫びながら

私は静かに紅茶を置く

窓の外では風が吹いていた

自由の風だった

「ところで」

私は尋ねる

「あの引き継ぎ書はどうなさいましたの?」

妹は青ざめ

王太子は口を閉ざす

長い沈黙のあと

小さな声が落ちた

「……裁断炉に」

その瞬間

私は初めて笑った

怒りではなく

憎しみでもなく

ただ事実として

「あら」

「魔導裁断炉に?」

裁断されたのは紙だけではない

信頼だった

責任だった

未来だった

失われたものは

戻らない

どれほど泣いても

どれほど謝っても

復元できないものがある

だから私は振り返らない

追放された日を

不幸とは呼ばない

それは終わりではなく

始まりだった

誰かの影として生きる人生の終わり

そして

自分の名で歩く人生の始まり

王宮の鐘が遠く響く

崩れゆく古い時代を見送りながら

私は新しい朝へ向かう

もう二度と

シュレッダーにかけられる側にはならないのだから。
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