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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
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第6話-34 これまでのお前らの言動を見たうえで


「――で。これまでのお前らの言動と、コウの飛行艇の様子を見た上で、戦術担当として今回の旅の基本的な方針について話をしておく」


 二週間ほど経ったその日。晴れた昼下がりの授業の場で、珍しくガルが教壇に立っていた。

 白髪交じりの短い髪、短い髭、筋肉の鎧をまとった身体。ガルはゆっくり俺達の前を左右に歩きながら、今回の旅をどう進めていくのかについて語り始めた。


「再度確認しておくが、護衛の役に就くのは俺、ブロウル、クラリだけだ。で、守る対象はコウ、リン、グレアお嬢様。ちょうど三人ずつに分かれる」

「はい! クラリが得意なのは後方支援なのです!」


 席に座って聞いていたクラリが、挙手とともに勢いよく割り込んだ。楽しそうに尻尾を振る彼女に、ガルは手の平を押し下げる素振りで、黙るよう伝える。


「ご本人からの申告のあった通り、護衛の中でマトモな前衛ができるのは、俺とブロウルだけだ」


 俺は机に肘をついてガルの話を聞いていた。確かに、たった二人で四人を守るのは心許ない。

 脅威が三人なら、その時点で相手は頭数で俺達に対して1.5倍の優位である。国賓護衛としての雑魚さが光る。


 なんならブロウルは近距離もできるが、得意なのは中遠距離攻撃で、純粋な前衛ではない。

 そうなると前衛を主力で張れるのはガル爺だけだが、俺がガルを買ったのは戦術、戦略担当としてのスキルである。

 あれ、前衛いなくね?


「どうしてこうなっちまったもんかねぇ……」

「シンプルに、飛行艇にカネかけすぎました」


 俺の顔を見て嘆くガルに返す。

 これはもう誰が見ても分かる事実だ。防衛軍から護衛を出さずに安価な傭兵に切り替えて、その余剰資金を飛行艇の足しにした結果である。

 まああまり人をとらなかったのも大きいが。

 今でこそ費用面の窮屈さは解消されたとはいえ、護衛の方針は既に固まってしまっている以上、そう簡単には動かせない。

 飛行艇の設備も今、いるメンバーの人数を基準に作ってある。もっと乗せることもできるが、貨物区画を縮小して生活区画を拡張することになる。なんにせよ時間も費用が嵩む話だ。


「なあ、コウ。もうちょっと人手増せんか?」

「ダメです。ベルゲンが『防衛軍と一緒に、飛行艇の短距離離陸用の強化部品作る!』ってウキウキで予算組んでました」

「なあぁ……このメンツで戦術組めと言われる俺の気持ちを想像してくれんか?」

「心中お察しします」

「あ゙ぁ゙――まあいい。いまさら新顔を迎え入れても、集団に馴染むまでは時間がかかる」


 とはいえ、非常時ともなればクラリも多少は戦えるだろうし、グレアもいる。リンだって、種族的にはそういう荒事には強いと言われている――本人の気質的にできるとは思えんが。

 つまるところ平時の前衛は二人だが、総動員をかければ四人。丸腰は俺とリンくらいである。


 そもそも超大型火進筒計画とかいうワケ分からんICBMプランを出されて、護衛組は解雇と言われていた状態から、雇用を維持して上手く着地させた俺のファインプレーを認めてほしいところだ。

 ガルが一度咳払いをして、再び口を開く。


「こういう少人数の場合の定石は決まっている――小さく固まり隠密に行動する。目立たないことが最大の防御になる」


 そこでガルが黙る。教室としてあてがわれた空間に静寂が広がる中、おもむろに腕を上げて人差し指を俺に向けた。

 周りの仲間の視線が俺に集まる。


「TANONとか言ったな? なんだ、あのデカブツは?」

「あー……それは異界人こと俺、足立光秀と、ナクル工業ギルドの夢の共演! 世界初の飛行機械――異界の四発大型飛行艇が空を駆け抜ける――それが、TANON」

「聞いてねえんだよ」


 そう言われましても。

 なんだと聞いてきたのはガルの方である。

 数日前に、自称劇団の脚本家だか詩人だかよく分からんのが、飛行機械の作品を作りたいから取材させてくれと工業ギルドまで押しかけたらしい。

 防衛軍と機密を扱っている以上、今はまだ取材には応じれないと、ギルドの方で断ってくれたそうだ。

 取材に応じていたら劇場版TANONは存在していた可能性はある。映画じゃない方の劇場版だが。



「隠密行動どころか、街中に爆音を響かせる乗り物で、どう隠密に進めろと?」

「航空機の騒音問題は、俺の世界でも未解決。そこで経験豊富なガルの出番、と」

「こんな状況、過去一度でも経験したことがあると思ってんのかお前?」

「あると嬉しいんだが」

「ねえよ」


 ガルは肩をすくめて首を振った。ですよね、正直知ってた。


「非凡な状況に対応する戦略は、(しか)して非凡になる」


 人は未知の状況に遭遇したとき、従前の解釈や手法論の延長を前提にモノを考えがちなモンだ。

 ガルは教壇の背後の壁にもたれ掛かりって、目を閉じて俯きながら話を続ける。


「まず第一にTANONというデカブツだが、先日の内覧でお前らも見たと思うが、相当頑丈な作りをしている。軽装の鎧を着て生身で飛ぶより、圧倒的に重防御だ。空を飛ぶ要塞と考えりゃまだ救いがある」

「ガル、ちょっと待った。俺からひとこと言わせてくれ。設計上TANONは重量との兼ね合いがある。船底は頑丈だが機体上部は薄い。そのへんは把握してほしい」


「なに、船底が装甲代わりになるだけでも上々だ」


 続いてガルは、TANONの速度を挙げて、先日の離水試験で飛行艇が浮上したときの速度は、有翼人の飛行の中では比較的高速の部類だと語った。

 敵襲対応のためにガルやブロウル達が飛行艇を飛び出して戦うと、飛行艇が高速なので追いかけて戻るのは難しそうだという。


「で結局、ボスの飛行艇ってどんくらい速度出てたわけ?」


 頭の後ろで手を組んだブロウルが俺に顔を向ける。

 椅子に座った彼の机に、組まれた両足が乗っていた。行儀が悪いのはいつものことだった。


「あー……離水試験の遠隔測定の記録で、最高速が確か秒速193.6シュ(時速116.2km)って出てたはず」

「193.6!? 試験見てたけどやっぱだいぶ速ええよな」

「まあ200弱くらいって思えば、大きくは外れんと思う。これでも低速で飛べるように設計した方だぜ?」


 1シュが標準的な人の手の長さで20センチもないことを考えれば、三角測距の遠隔測定から求めた計算値の「3.6シュ」にどれだけの信頼があるかは怪しい。

 翼をお持ちの天使の皆様のように、ちょっと勢いをつけて羽ばたけば飛べます、というような気軽な速度ではないし、普段街中を飛んでいる人を見ていても、ゆったり飛んで時速30から60キロってところである。もっと飛ばす人もいるが。


「浮揚直後の速度だから、巡航速したらその倍近くまでは速度出るかもしれん」

「倍って400だろ? そこまで出たら誰も追いつけねえよ」

「まあな……もしかしたら最高速が200シュで終わる可能性もある」


 前回の試験では翼面の高揚力装置(フラップ)を展開して、空気抵抗の増加と引き換えに大きな揚力を得ていた。あのまま維持できれば、フラップに頼らずとも飛行できるはず……速度が上がれば、だが。

 速度が上がれば、フラップを格納して空気抵抗を減らせるぶん、さらに速度を速度を上げられる、というわけだ。

 できなければ200シュで終わりである。


 んんん、ん。

 ガルの咳払いに続いて、いいか? の一声で脇に逸れた話が本題に戻る。


「一番の強みだが、TANONには大量の荷物が積める。砲と砲弾一式を抱えてなお、積載に余裕がある。空飛ぶ船と考えていい」

「ガル、ちょっと待った。俺からひとこと言わせてくれ。確かに荷物は積めるが、重量との兼ね合いがある。船ほど気軽に積めるわけじゃない。そのへん頭の片隅に入れておいてほしい」

「んなこた百も承知なんだよ」


 お前さんと違って、こちとら物心ついた幼い頃から飛んでんだから、感覚で分かってんだよ。ガルに怒られた。

 先日、飛行艇が浮いただけで、絵空事に過剰な期待を寄せて目を輝かせた領主がいたもので。


「ここから導き出される戦術は、交戦回避と、飛行艇の重武装化。武器を大量に載せて、交戦は飛行艇に乗ったまま対応する。地上にいるときは現地領主の兵隊にでも頼る。コウの立場的に守らんという選択はないだろう」


 ガルが現地領主の話をしているのには、いくつか理由がある。

 ナクルから神都まで、一直線に飛ぶことはTANONの航続距離的に厳しいと予想されているのだ。というのもレムノア王国の領土は非常に広大らしいのだ。砂漠のナクルから、冬には雪と氷河が見れる南の果ての山岳地帯まで飛ぶ必要がある、といえば分かるだろうか。


 山や川が移動の障壁になりにくい種族ゆえに、レムノアにしてもヴォルグラドにしても国土が広大なのだ。

 TANONの魔導モーターは確かに、現代の航空機のように化石燃料を必要としないが、魔導モーターの発熱に対処するため、水冷回路の冷却水のうち蒸気になった分を大気へ投棄する。その都合で、結局冷却水の残量でTANONの航続距離が決まる。

 すると、給水や休息のために途中で地上に降りざるを得ず、現地の協力が必要になるのだ。


 ほかにも、この世界特有の外交風習がある。

 旅の休息から派生した風習で、急ぎでもなければ、王国各地を好きなように回っても良いらしい。

 到着日が不定になるが、むしろ招待国側の度量の広さと相手への信用を示す場になるため、ある程度遊んでから着く方がむしろ好ましいという。

 空路となると天候や風向きの影響もあるので、到着日を厳密に決めるのは難しいという側面もある。

 どの地方に遊びにいくかも政治的に注目されるらしく――とかく、郷に入っては郷に従えである。



「コウ。武装、強化してもいいな?」

「…………いいよ」

「歯切れ悪ぃなぁ、オイ」


 ガルの乾いた笑い声が部屋の中に響く。

 人手も武器もなくお前さんを守れねぇのは、十分承知のことだろう、と言われた。


 まあ、それはそうなんだが。

 なんというか、飛行艇で悠々自適の空の旅をするつもりが、防衛軍が一枚噛んでくるわ、重武装化するわで、TANONが輸送機というより軍用機の形になっていくのが納得いかないのである。


「必要なのは分かってるんだが、そんなに旅は危ないもんなのか?」


 だって俺はどっかと戦争をしに行くわけじゃないのだ。 

 機首の主砲は、元は機体の製造時に前後の重量バランスが狂いに対応するためのカウンターウェイトだ。

 本物の高射砲が一門、空を飛んでいるという事実だけでビビってくれるんじゃないかと期待している節がある。

 護衛だって、変な奴が寄りつかなければ十分だし、それなら護衛は三人で充分だろと思う。

 野生動物への威嚇とか対応に多少の武器は必要かもしれんが、基本は挨拶して回るだけの話である。


 クラリがのっそりと自分の席から降りたのが俺の視界に入る。いつもと違って、彼女はロングの髪を後頭部で結んで団子にしていた。

 クラリは部屋の窓の一つに近づいて、振り返って俺達の様子を一瞥する。部屋が暑かったらしい。

 いいよ。ブロウルが気軽な声を上げると、彼女は窓を開け放った。部屋の空気が押し流されるのを顔で感じる。

 ガルは腕をこんで壁にもたれかかって、その様子を目で追っていたが、俺の質問に話を戻すように短く「旅が危ないかは場所による」と言う。


「長い目でモノを見る文化、遠回りの因果を理解する文化が強い地域ほど統制がとれている。今行動すると何が起こるかを予想する習慣がある。まあ治安はいい傾向にある」


 まあ必ずしも治安がいいとは限らねえというか、コトを起こすときは周到で厄介というか、とかくすぐには襲ってこない。

 傭兵で旅をしてきた俺の偏見と経験則だが、とガルは語った。


「逆に即物的で十分な文化、単純な因果関係で生活が成り立つ地域は、だいたい何かやらかす」

「なんか、ちょっと分かる気がするぜ」


 机の上に乗せた足を組み替えたブロウル。食料とか水とか、欲しいと思った時にすぐ手に入るトコほど厄介というか、おおらかなんだけど、行動がヤバいというか。やっちゃいけねぇコトを理解してないというか。


 ブロウルが見てきたものは、そうかもしれんが。

 どちらかというとブロウルの過去の言動から想像するに、お前もそっち側の人間の気質があると思うのは俺だけか?


「俺、この世界のこととか全然分かんねぇから、皆に一任する。人手は無理だが、飛行艇を口実にできれば、欲しいものは用意できると思う」


 護衛メンバーの強化のために、飛行艇側に手を入れるのは、現実的に仕方がない。

 一番いいのは、武器も使わずトラブルも何事もなく旅が終わって、護衛組が報酬を貰うことだ。

 レムノアの国内ツアーに参加できて、世界最先端の航空機で快適な空の旅。参加すると報酬まで貰えるとなったら、これ以上にチョロい仕事はないし、俺もそれで終わらせたいと思っている。


「コウが腹を括ったついでだ。お前らにも覚悟して聞いてほしいことを伝えておく」


 ガルは、パンと一度手を鳴らして俺達の注目を再整理する。

 彼は注目を集めたまま、少しの間黙って、俺達の顔を一人一人見る。鋭い目が合う。


「契約はコウの護衛が最優先、次点でリン、オマケがグレアだ。最悪、事が起これば相乗りのグレアから逆順に死んでもらう」

「…………。」

「お前らが仲良くやるのは構わねぇ。とはいえ領主、王国が大金はたいて俺達と交わした契約が優先だ。情が邪魔して未練タラタラで全滅するのは許されねぇ。切羽詰まれば、俺は見捨てる判断をする」

「えぇー……」


 えぇー……

 口にも漏らしたが内心も同じく大合唱である。わざわざそんなことを言う必要ある?

 グレアを見る。彼女は怒ることも驚くこともなく、ただ無表情のまま、人差し指の爪を机に立ててトントンと鳴らしてガルの顔を見ていた。グレアにとって面白くないのは間違いない。


 そもそも、グレアは神都からナクルに逃げてきて身を隠している経緯がある以上、グレアは護衛対象にも、護衛としても公式にカウントできない問題がある。

 つまり、どっちかというと確実に密航者の扱いである。密航者に公式に護衛なんか雇えない。


「お前らが固まってワチャワチャするのは別に悪かねぇ。お前らは俺と違ってトシ近けぇからな。とはいえ仕事である以上、優先順位は各自が理解しておく必要がある」

「…………。」

「例えばコウとグレアが大怪我をしたとき、クラリはどっちを先に助けるべきだ?」

「……なるぅ?」

「そうだ。契約に従い序列はコイツが優先――言っておくが、グレアを助けるなと言ってるわけじゃねぇぞ。護衛だろうがなかろうが、背中を預ける仲間は多い方がいい」


 その上で、見切りをつけねばどうにもならない状況になったら、迷わず切れ。いいな?

 コウもそうだ。自分の命は自分で守る覚悟を持て。人や社会に頼れば、いずれ殺されるぞ。


 ガルは言いながら俺を指差す。

 俺が最優先の保護対象とはいえ、オマケで最悪死んでもらうとまで言われたグレアには、さすがに不憫に思えた。



「仲間を失いたくなかったら、見聞きしたことは端的に、正確に報告しろ。具申しろ。俺の言うことを聞け。出来ずに死んだ奴は俺の責じゃねぇ」



 ガルを仲間に入れたのは正解だと俺は思う。

 いまこの場の雰囲気は確かに悪くなった。ガルが厳しい現実をあえて突きつけるように言ったのは、旅の脅威を甘く見るんじゃないと襟を正すためだろうということは理解している。

 現実を見ることを示せる仲間は、やはりガルしかいないと思ったのだ。



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