表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
50/231

第3話-1 音楽祭と妹 奴が来た!

ようやく始まる夏休み。

悠々自適な夏休み生活を夢見る俺に、実家から妹が送付されてきた。

「にいちゃん、ジュース!」

「俺はジュースじゃねえ!」

元気ハツラツじゃじゃ馬娘に、どうしたものかと頭を抱える俺。

そんな時、麗香がまたやらかしやがった!




第3話連載開始です。


待ってくれていた方もいらっしゃると、信じたいです。

適度に頑張っていこうと思います。

どうぞよろしくお願いします。

5人では寂しいので新キャラ投下します、はい。


推定読了時間:約3時間56分(236分)

(500文字/分、端数切り上げ)

※読了時間は、個人差があります。

しおり機能をご活用ください

「あ〜、チクショウ!」


何で夏休みの最初(ハナ)からこんなダルイことをやらなきゃならん羽目になるんだ!

俺は今、肉まんの蒸し器のような暑さに汗を滝のように流しながら、

目的地に向けて自転車を全力で漕ぎはじめてから約二時間が経過し、

己の体力・精神力が限界に来ているにもかかわらず、

速度を落とすことができないという地獄を一人体験している。


なぜこのような事態になったのか、目的地はどこか、それを説明するためには、

時間を巻き戻す必要がある。




***回想***


遡ること五日前。

その日は一学期の終業式前日であった。


終業式間近になると、全国の小中高校の大部分でこぞって実施される「短縮授業」。

俺達の学校も例外ではなく、午前中に授業が終わる。

とはいっても、ほとんど授業なぞ、それ以前に行われた、

教師達の大人の事情でペースアップされた濃密な駆け込み授業のお陰で

どの教科もやりつくしてしまったため、実質的には休みのようになっている。

結果、生徒は授業中にもかかわらず席を立ち、

友達とこれでもかと言うほどのマシンガントークの弾幕を教室の至る所で展開させていたり、

携帯電話をイジッて遊んでる奴がいたりと、騒がしい。

本来ならばこの状況を改善・指導しなければならない立場の教師陣も、気が緩んでいるのか、

一時間目からこの三時間目まで、生徒の会話に入ってみたり、寝てみたりしている。

教室の窓から雲が変形していく様子をのんびりと観察し、

「あの雲、ここのバーコード校長に似てんなぁ」といった感じで、

特に考えずに静かにボーッとしていたかった俺にとっては、不快極まりない環境だ。


「あ、そうだ足立、お前の両親からメッセージを預かってるぞ」


担任の担当する教科の授業中、担任は俺に茶封筒を渡してきた。

足立とは俺のことで、足立光秀、あだ名はコウだ。

俺の実家はここから約千キロメートルの遠隔地の田舎で到底通えないため、

一人暮らしをしている。


「あ、どもっす」


俺は封筒を受け取った。

文面からしてお袋の書いた手紙のようだ。


以下、内容。


【光秀、ちゃんと朝昼晩、三食きっちりとってる?

 今年は猛暑になりそうなんだって。倒れたりしないように気をつけるのよ。

 それから、三食きっちりとると、夏バテ防止になるんだって。

 食中毒の多い季節だから、衛生面には気をつけてね。

 熱中症にならないよう、こまめに水分…………

 ―――――――――《中略》―――――――――

  ところで、美羽(みわ)が光秀に会いたいっていってうるさいから、

 夏休みの間一緒に暮らしてあげてやってほしいの。

 七月二十三日の午前十一時二十五分着の飛行機の便を予約したから、

 美羽を空港まで迎えに行って頂戴。

 夏休み分の仕送りは美羽に持たせて行くから、会ったらすぐに受けとって。

 今回は美羽と夏休みを過ごすわけだから、

 仕送りも奮発していつもの三ヶ月分送るね。

 いつもより多い分、独り占めしないで、美羽にいい思い出を作ってあげて。

 それから…………《以下略》…………】


めんどくせえのレベルじゃねーぞ、これ。

手紙に出てきた美羽とは、現在小学一年生のガキ真っ盛りの俺の妹、足立美羽のことだ。

寂しがりで、泣き虫で、わがまま。

こんなガキの扱いほど精神擦り減らすもんはない。

もちろん、俺にもこのようなガキンチョの時代があったわけだが、

家でゲームしたり友達とカードゲームで対戦したりと、割と大人しい方だったような気がする。

確かに、いつもの三倍の額の仕送りがあることに関しては夢のある話ではあるが、

美羽のことを差し引いて考えるとプラマイゼロ、

むしろ差し引きすぎてちょっとばかりマイナスの方向に傾いている。


美羽をこっちに寄越してきたのは、両親が美羽の世話に疲れたからではないか、

という息子としてあらぬ疑いを俺は持っているんだが、理由はこうだ。

この手紙の文面には、俺の家に美羽を寄越していいかどうかの伺いの文章が一文字たりとも存在せず、

その上飛行機の便を既に予約してある節まで書いてある。

この手紙が来るまでに、実家からそのような連絡は無かったことも考えると、

そう取ってもおかしくはないだろう。

それよりも、小一の娘を一人で飛行機に乗せるのはちょっと酷じゃねえか?

飛行機のシートベルトを扱えるかどうかも怪しい。


「ねえコウ、何の手紙だったの?見せて」


チカは俺が手紙を読んで苦い顔をしているのに気がついたようで、

わざわざ席を立ってこっちへ来た。


「ほらよ、俺の妹がこっちに来るんだとさ」


チカに手紙を渡すと、くい、とメガネをかけ直し、食い入るように文章を眺める。


「――ふーん、妹が来るんだ。

 コウは家族のこととかしゃべらないから、妹がいるなんて初耳」


「そうだよ、参ったぜ、マジで」


「今何年生?」


「小一」


「じゃあ結構小さいのね」


「そう、そこが問題なわけだ。

 チビで一人じゃ何もできないクセしてあーしろ、こーしてと口ばっかり、

 喜びゃ、ギャーギャー騒ぐし、何かちょっといえばワーワー泣くし、

 自我丸だし、欲求垂れ流しの超めんどくせえ相手だ」


「……コウ、ちょっと聞いていい?

 今あんたがボロクソにけなした妹は、本物の妹?」


チカは心持ち嬉しそうな顔つきで俺を見つめ、回答を待っている。

それはまるで血の繋がっていない兄妹が織り成す、

斬新極まりない昼ドラが身近でリアルに体験できると期待しているような顔もちである。


「残念なことに、血の繋がっている妹だ」


二重の意味を込めた残念である。


「ふーん、でもあれからまだコウはお金もらってないんでしょ?

 あたしからの援助も頑なに断っちゃうし……今朝は何食べてきたの?」


「もやしを一袋塩茹でにして食ってきた」


知っている人も多いと思うが、一応説明しておくと、

今から約二週間ほど前、俺はCDプレーヤー(一点限りの半額セールで四万円)を購入し、

若干の金欠状態に陥っていたのであるが、そこに特例的出費がタイミング悪く重なり、

食費を一食百円台まで落とさなければ生活できない状態まで陥ってしまった。

そして今もその爪痕が今朝の朝食に響いているのだ。


「……じゃあ、今日の昼ご飯の予定は?」


「抜き」


「夕食は?」


「もやし」


「あんた、そんな生活してたら本気で死ぬよ?」


「俺はそう簡単に死にはしねえよ。

 それにもやしは値段の割に意外と栄養価があるんだぜ?」


「分かった。あたしがあんたにモヤシオタク、略して《モヤオタ》の称号をあげる」


「そう言われて俺は一体どのようなリアクションをとればいい?」


「素直に喜べばいいのよ」


「わーい、わーい、やったーって全っ然嬉しくねえし」


モヤオタと言われて喜ぶ奴の顔が見てみたい。

万が一、奇跡的にモヤオタと言われて喜ぶ奴が周辺にいたり、

または実際にモヤオタと言われて喜んでいる映像、画像を持っている方がいれば、

ぜひ俺に御一報頂きたい。


「それよりもさ、そんな状況で空港までの交通費どうするの?」


「ないものは仕方ないさ」


「仕方ないって、どうするのよ?電車で行っても一時間はかかるよ?」


「頑張るしかないさ」


***回想終了***



というわけで、俺は自転車で空港まで向かうという暴挙に出ているわけだ。

しかも今朝寝坊して予定より一時間遅く出発したせいで、

ペースアップを余儀なくされている。


帰りはどうするかって?

……知らん。とりあえず美羽に会えば待望の生活費(特大)が手に入る。

生活費が手に入れば選択肢が格段と広がる。

あとどうするかは流れに任せりゃどうにでもなるだろ。


当然、このような状況下で歩道を走ることなど危なっかしくて不可能なため、

ガラにもなく俺は車道の隅で立ち漕ぎをして、並走する内燃機関と競走している。

唯一助かったのは、今俺が乗っている自転車に二十一段階変速機がついてることで、

路面の状況に合わせて適切なギアにチェンジ出来るから、

上りでは回転力(トルク)に重点を置いたギアに、

平面や下りでは最高速に重点を置いたギアに設定でき、足の負担が一定に保てる。

普段は変速機なんて使わないんだが、こんなに便利なアイテムだったのかとこいつを見直したぜ。

それでもやはり、交差点で減速を余儀なくされ、

一旦失った勢いを回復させるまでにはそれなりの体力を消耗する。

出発してから何回かあったのだが、赤信号で停止した直後に青信号になると、ものすごく腹が立つ。

体力を回復させるでもなく、ただ単に勢いを殺すだけの仕打ち、

俺にとってみれば単なる拷問以外の何物でもない。


遠距離が故に、モチベーションの維持に苦労するかと思いきや、

意外なところにモチベーション維持に役立つ強力な助っ人がいたため、

気分が滅入りそうになっても、なんとかペダルを回し続けている。


「空港まであと……五キロメートル」


強力な助っ人とは俺の頭上にちょこちょこ現れる青い板のことで、

このように目的地までの残りの距離を教えてくれる。

あとどれぐらい残っているのか分からずやみくもに自転車を漕ぐのと、

残り距離が分かっている状態で漕ぐのとでは、雲泥の差がある。


このように、俺がこうして漕ぎ続けていられるのは、

体力的には変速機、精神的には案内板がサポートしてくれているお陰であることは明確であった。



それから三十分後。

俺が空港近くの駐輪場(有料・二百円/日)の受付窓口へ

自転車に乗ったままF1のピットインさながらの勢いで突然進入、

急停車したしたのを見た半袖姿の受付のオッサンは驚いたようだった。


「兄ちゃんお急ぎかい?」


頭に白髪が生えたオッサンは目を丸くしながら言った。

俺はあの一件以来「兄ちゃん」と呼ばれることに過剰反応を起こしてしまったようで、

言われると今は亡きナントカ会、東播会だったか、

とにかくその連中のことを思い出してしまう。

このような症状は一過性のものであると信じたい。

何しろ、これからしばらくの間、妹からそう呼ばれる運命にあるからだ。


「ええ」


俺は駐輪代を確かにオッサンの手に渡した。

やりくりして辛うじて生み出すことが出来た二百円。

オッサン、この二百円はただの二百円じゃねえんだぜ。

それは俺の節約魂が生み出した努力の結晶そのもの、大事に扱ってほしい。

オッサンは駐輪場所を指定すると、

いってらっしゃい、と急いで駐輪し駆け出して行く初対面の俺に言うのだった。


駐輪場からターミナルまでは三分ぐらいか。

走りながら携帯電話を取り出して時間を確認すると午前十一時三十分、

美羽の到着する便よりも五分遅れている。

これは急がねば、兄ちゃんがいない、と美羽がワンワン騒ぎだしちまう!

本当にめんどくせえ。


ターミナルビル内に入ると、高い天井、ひんやりした空気、そこそこの数の利用客が目に入る。

そのなかに美羽の姿はぱっと見た感じでは見当たらない。

ターミナルを歩き回り、飛行機の便を調査した結果、飛行機は既に到着しているらしい。

しかし美羽の姿はない。

待ち合わせの場所を決めておかなかったことを思いきり後悔している俺だが、

後悔ばかりはしていられない。

まだ俺が行ってない場所はあるか?

―――ある。インフォメーションセンターと、利用者専用出口。

もしかしたら、迷子扱いされているかもしれん。

その場合はインフォメーションセンターに連れていかれているだろう。

そうならば、飛行機の到着からそれほど時間が経っていないことを考えると、

暫くすりゃ、迷子の放送でも流れるだろう。

しかし、インフォメーションセンターに迷子はいないかと俺が問えば、

職員は迷子探しを始めてしまうだろう。

迷子探しを装った方が楽といえば楽なんだが、実際にやるかと言われれば気分的に(はばか)られる。

というわけで、まずは出口からあたってみよう。


―――いた!

出口の前で、美羽の両脇に空港職員男女一名づつ、四十代前半の体格のがっちりした男と若い女の二人がいる。

女の方は、中腰になって、美羽と会話している。

どうやら美羽の相手をしながら、俺を待っていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ