第5話-A1 Lost-311- ハイブリッド入部?拒否する!!
夏休みが開けてからの俺の悩みは、執拗な部活勧誘である。
そんなとき、ジョーが旬だとイチオシするPCゲームを買ってみた。
《Welcome to my world》
斬新な始まり方に感心する俺。
だがそれはゲームプログラムではなかった。
「手遅れになる前に!」
麗香のゲーム実行中止命令を受けるも、時すでに遅し。
零雨と麗華の管轄外に、俺は飛ばされた。
リアルファンタジーを体感できるこのゲームすげえ。
なおEXIT方法、一切不明。
第5話「Lost-311-」が始まります。
王道の異世界トリップの物語をお楽しみ下さい。
(楽しませるほどの腕があるかは疑問ですが^^;)
推定読了時間:7時間20分(440分)
(500文字/分、端数切り上げ)
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「はぁ、どうすっかな……」
夏休み気分がようやく抜けてきた九月の終わり頃。
俺はクラスの窓際の席で、ぼんやりと担任の数学の授業を聞き流しながら、
生活の変わり様を嘆いている。
あの音楽祭に出たせいで、同級生の俺に対する印象ががらりと変わっちまったらしい。
それでここ最近連日のように軽音部やらオーケストラ部やら、音楽系の部活からの勧誘がしつこく来ている。
丁重にお断りしているのだが、それでも我が部に是非入部してくれと、
10分ほどの休み時間には同じクラスのやつが、
昼休みにはわざわざ3年の部長が頼み込んでくる始末。
今日はどうやって断ろうかと考えていると、授業にも集中できない。
匠先輩を紹介するから、お前らとっととすっこんでろと言いたいところなのだが――
何より不思議なのは、同じバンドを組んでいた他の仲間には勧誘が来ず、俺だけ来ているという点である。
「おい、足立!目が死んでるぞ、ちゃんと授業聞いてるのか?」
担任に注意された。
二学期に入ってから何回目だろうか。
このままじゃ中間テストの成績ガタ堕ち確定、
ただでさえ普通の成績の俺が、テストの平均点を割るとなると精神的にくるものがある。
「あ、すいません」
「足立、この問題を解いてみろ」
担任に手招きされ、チョーク片手に黒板の前に立たされる俺。
ああ、惨めだ。
問い
2つの放物線
y=−x2−2x
y=−x2+6
で囲まれた図形の面積Sを求めよ。
……聞いてねえから分かんねえよ。
でもまあ、とりあえず昨日ちょっとだけこの問題予習してたし、一応答えは書ける。
とはいっても、どうしてもやはり微分積分は苦手なんだよな〜
とりあえず、答えっぽいのでも書いておいたほうがいいだろう。
俺は予習の内容を思い出しながら黒板に解答を書いていく。
「おお……足立、授業聞いてないようなオーラしながら、なかなかやるな」
解答を書き終えると、担任は感嘆の声を上げた。
どうやらこの問題で授業が詰まっていたらしい。
まあ、偶然予習したところが当たっただけなんだが。
みんな分からなかったぜ的な顔をしてるが、クラス全員が分からないわけではないはずだ。
なにせ、零雨と麗香がいるのだからな。
この二人は解法は人知を越えたすごい解法かもしれないが、確実に解けているだろう。
というか、これぐらいの問題が解けないようでは世界の管理なんてやってられないだろう。
「足立、座っていいぞ」
担任に促され、俺は席に着いた。
さて。
この授業もあと10分程で終わり、いよいよ昼休みが始まる。
それまでに急いで部活の勧誘から逃れる方法をどうにかして考え出さないと、
また昼休みがそれで潰れることになる。
…。
……。
………。
…………。
キーンコーンカーンコーン――
ムリっす。
10分では考えつかなかった。
「足立君!!オーケストラ部に入部してくれる気になったか!?」
昼休み早々、3年のメガネ部長(男)が教室に突入してきた。
「あだっちさぁ〜ん!!
今日の放課後、軽音部の臨時の入部説明会を開くんで、ぜひともご参加願いまぁ〜すですっ!」
続いて軽音部の3年の部長(女)の独特かつイラッとくる話法が俺の耳に飛び込んでくる。
しつこく勧誘に来ることで顔は覚えるだろうが、
“あだっち”などと気安く呼ばれるような仲じゃねえし、
そもそもこの時期の入部説明会って、完全に俺向けの説明会じゃねえかよ。
もちろん喜んで欠席させてもらうが。
俺はのんびりと自由気ままに高校生活を送りてえんだ、部活のしがらみなんかやってられっか。
毎回思うのだが、この勧誘集団は昼メシは一体どうしてるんだ?
あれか?早弁ってやつか?
ああ、そういや、オーケストラ部と軽音部の勧誘が同時に来るのは初めてだったんじゃなかったか?
「「ああ――っ!!」」
俺の予想通り、それぞれ相手の部長の顔を見るやいなや、
大声を出して互いを指差して火花を散らす。
「お前は、軽音部部長!!」
「オケ部の部長さんじゃない!!」
「お前も足立君を勧誘しに来たのか!?」
「まさか、あなたもあだっちを狙ってたの!?」
二人は睨み合いの硬直状態、一触即発の状態が続く。
……チャンス!
俺は二人が睨み合ってる間にそっと弁当を持ち出し、そそくさと教室から脱出を図る。
……へっ、チョロイもんよ!
あの二人は俺がいなくなったことに気がつかないまま、口論を始めた。
とりあえず、昼メシを食う場所を確保しねえと。
まず、隣の教室の友人の席に逃げ込むという案が浮かぶが、見つかる可能性が大だ。
出来るだけ人目につきにくい場所がいい。
いくら人気が少ない場所といっても、
建物の影に隠れて一人寂しく食べるというみっともないことはしたくない。
となると、行き先は必然的に決まってくるな。
俺は階段を上りつめ、重い鉄の扉を開いた。
行き先、それは屋上だ。
人も少なく、開放的な空間であり、
そこで昼メシを食っていてもなんら怪しい点はないという、最高の環境である。
いくら屋上には人が少ないとはいっても、
この最高の環境を見落とさない人がいないはずはなく、
付き合っているのであろう、
男女二人、仲睦まじく昼メシを食べている姿が2、3組見受けられる。
ちなみに、俺は現在彼女募集中である。
え?零雨と麗香がいるだろうって?バカ言うんじゃねえよ。
あの二人は規格外だ。
いくら見てくれが人間っぽい行動をする美人でも、残念ながら中身はプログラムだ。
それに、彼女達は作業が終わればこの世から消え、形なき存在に戻ってしまう。
恋愛対象には適さない。
チカは……話にもならん。
M属性の人間ならば俺はオススメするが、
あんなバイオレンス眼鏡のどこに惚れ込む場所があるのかサッパリだ。
チカ好きがいたら惚れポイントを是非教えてもらいたい。
恐らく俺には理解できないだろうが。
屋上の日陰になりそうな場所を探すと、いいところを見つけた。
俺はそこに腰掛け、弁当を食べはじめる。
美羽がいなくなって早一ヶ月弱、再びやってきた一人暮らしの生活に慣れ、
弁当に何が入っているのか、開ける前から分かり切っているという寂しい生活にも慣れてきた。
俺製作の弁当は、お袋の料理と比べると、正直あまり美味くはない。
そりゃ、料理歴17年以上のお袋と1年半の俺との比較である。
そうでなきゃお袋のメンツが立たないんだろうが、なぜか悔しい。
そうはいっても、誰か俺の家に遊びに来るようなことがあれば、
簡単な料理の一つや二つ出せるぐらいの腕はあると思っている。
弁当を半分ほど食った時、屋上の鉄扉が開き、人影が二つ、現れた。
「あっ!いたっ!」
その声にギクリとする俺。
だが、顔を見てあの勧誘の二人ではないことが分かり、驚かせるなよ、と溜め息をつく。
「コウくん、こんな所にいたの?」
「ああ、そうだ、なんか文句でもあっか?」
「オーケストラ部と軽音部の部長さんが探してたよ」
麗香は零雨に小声で何かを言うと、零雨はさっさと階段から降りて行ってしまった。
「あの二人は探させたままでいい。
部活の勧誘がウザイからな」
夏の陽射しの名残もそろそろウザくなってきた九月。
額から流れ出た汗を短い袖で拭きながら、
今日も洗濯が大変だな、と汗まみれになった制服を憂いながら、
俺の隣に座った麗香を見やる。
こいつは絶対に汗をかかない。
どんな厳しい高温の環境下でどんな激しい運動をしても、息が上がることも、汗をかくこともない。
常に肌はサラサラ、羨ましいかぎりだ。
「そんなこと言って、人に迷惑をかけてるっていう自覚はないの?」
「お前が言うな、お前が」
「どうして?」
「どうして?じゃねえだろ。
そもそもこういう事態に発展したのは、
お前が音楽祭に俺を勝手にメンバー登録したからだということをお忘れですか」
「それは……そうだけど、音楽の才能があったから、
こうやって部活に勧誘されてるんでしょ?
現に、同じメンバーの私には勧誘は来てないよ」
「はあ……俺のどこに才能があるのやら……」
俺は弁当を食い終わり、箱を元のように片付ける。
さてと……昼休みはここで麗香と喋って時間でも潰すか。
どうせ校内はあの二人が索敵をかけてるんだろうし、
ここでじっとしておくのが賢明だろう。
ガチャ、という音とともに、新たな来客を告げる鉄扉の悲鳴が上がった。
「あだっち発見ぇーん!」
「とうとう見つけたぞ……手間をかけさせやがって……
俺を手間取らせた責任は入部してもらうことでしかなくならない!」
なぜ見つかったし!?
扉から第三の人影が現れ、それが零雨だと理解するには時間はかからなかった。
「嵩文さん、情報提供に感謝します」
オケ部の眼鏡は零雨に向かって一礼。
「麗香……とんでもないことしでかしてくれたな。
あの二人をここに連れて来るよう零雨に頼んだのはお前だろ?」
「エヘッ、二人から『彼を見つけたら是非御一報を』ってお願いされちゃって……
服従可能な命令は絶対服従が基本でしょ?」
「あのな……ここに逃げてきた俺の気持ちを察しろ、バカ」
柔軟性のないカチカチのアンドロイド思考しやがって……
そこは空気を読めって話だ。
「さて、足立君、俺と彼女(軽音部部長)から提案があるのだが」
「はい、なんですか?」
「ハイブリッド入部しないか?」
「……はい?」
「先ほど二人で話し合ったんだが、足立君が我がオケ部に入部すると、軽音部が困る。
逆に、軽音部に君が入部してしまうと、我がオケ部が困る。
そこで、君をオケ部、軽音部の両方に所属させればいいという話になってだ、
ダブル入部、つまりハイブリッド入部をすれば、win-winな関係が出来上がる」
お前達はwin-winだろうが、俺は完全にloseじゃねえか。断る。
「お断りします」
「これは君がどちらに入部するか迷わないで済む最善の方法だと思わないか?
いままで君はどちらに入部するか決めかねていて消極的な解答をせざるを得なかったんだろ?」
「違います」
「じゃあ、なぜ?」
「部活というのに束縛されるのが嫌で。
俺、一人暮らしなんで、家事とかも全部自分でやらないといけないんで、ムリです」
「そこをどうにかして……!」
「すみません、諦めてください」
「あだっちという秀逸な人材を見つけたのに、放っておけるわけないじゃない!」
だから俺はお前からあだっちなどと呼ばれるような親密な関係を持った覚えなどない!!
この押し問答は、昼休み終了のチャイムがなるまで続けられた。