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第0話 序章:井の中の蛙

 井の中の蛙、大海を知らず。


 今の科学はミクロからマクロまで、幅広いものを研究し、そこから様々なものを見つけだしてきた。原子を構成する素粒子から、ただっ広い宇宙まで。


 科学は単に見いだすだけでは終わらない。

 ボタンひとつで終わる洗濯機。ペダルを踏むだけでかっ飛ばせるクルマ。

 瞬時に想いを届けるメール。人工衛星だって身近な存在だ。


 未来永劫続くとさえ思える、怠惰を支える素晴らしき科学生活。俺達はその黄金期にいる。科学に対する期待と賞賛の声は、とどまるところを知らない。



 だが俺には一つ疑問がある。科学の本質的な話だ。

 俺達は地球に住んでいる。

 所詮、科学といえどもこの地球の表面から見える世界しか見えていない。


 この地球の中心の詳しい様子は誰も知らない。

 ブラックホール。事象の地平面より先の世界がどうなっているのか。これも誰も知らない。


 なぜか?


 それは見えないからだ。感じられないからだ。

 地球の中心の様子なんて、可視化されたデータから間接的に想像しているにすぎない。

 結局、良くも悪くも科学の力で人間の五感を拡張しただけだ。


 現に、事象の地平面には今の科学は手も足も出ない。科学の力で如何に五感を拡張しようと、知り得ないものは完全な未知――俺達は五感から得るものしか信じないし、認識できない。


 つまり俺が言いたいのは、俺達は井の中の蛙そのものだということだ。


 それでいて、「人類は世界の1%しか理解できていない」などと謙虚に大口を叩く妙技を披露する輩もいる。

 妙技かどうかは別にして、果たして井の中の蛙が、世界の1%も理解できるだろうか?


 宇宙探査にしても、ボイジャーだパイオニアだハッブル望遠鏡だと、偉大な功績を残した、あるいは残しつつあるものの、それで宇宙の1%が見えただろうか?


 今から30年以上前に金の円盤を持たされ、地球とさよならしたボイジャー1号ですら、ようやく太陽系の外側に足を踏み出し始めたぐらいだ。


 科学技術への篤い信頼はもはや信仰のそれに近い。

 人智を超えた存在からすれば、俺たちは削った木の棒に頬ずりしている猿と何ら変わらない。

 人工衛星も探査機も、結局ぶん投げた道具が宙から落ちてこないだけの話だ。


 そうだろ?


 それでいて世の中の、世界のすべてを知った気になって、怖いものなしと言わんばかりに尊大なのが人類だ。

 新しく奇妙なものが見つかるたび、従来の正しさ、常識を捨て、俺達は学説を鞍替えしてきた。

 なんなら、それまで頼り縋っていた常識を、鼻で笑いさえするようになる。


 そもそも世界観もおかしい。

 神が人の姿を象っているだとか、人間は畜生の類よりも優れているだとか、思い上がりも甚だしい。

 そりゃ戦争もなくならんわけだ。

 俺が神なら呆れ果てて近づきたくもないし、ましてや人類を救済しようなんてどうかしてる。


 とはいえ、俺も日々科学技術の恩恵を浴びる身だ。人間のやってきたことや偉業をすべて否定するつもりはない。

 だが、ちょっと威張りすぎじゃねえかと思ってる。


 まあ、1%がどうこう、思い上がりがどうこう、今となっては正直どうでもいい話だ。

 問題なのは、世界の全てを知るといっても過言ではない奴らが、俺の前にひょっこり現れたこと。


 さらに最悪なのは――奴らは俺の井戸、俺の世界に豪快に海水をぶっこんで、俺の平穏を、常識を破壊しはじめたということだ……!!

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