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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
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第6話-30 いかちいし、イカれてる


 第一観測要塞は、階段状に積み上がった石造りの台形をした大きな建物と、そこを中心に両翼へ広がる形で接続された、低層の石造りの建物が組み合わさった姿をしていた。

 塔の高さはどれくらいだろうか。俺には十階建ての建物と同じくらいか、やや高いように思えた。

 騎兵に先導されたまま、砂利道を走るわだちに揺られて、その第一観測要塞に近づいていく。


「思っていたより、かなり大きいですね」


 細長い円柱状の塔が一つある感じなのかと勝手に思っていたが、しっかりした要塞だった。

 石造りの大規模で重厚な見た目は、ここを破壊するために、相当な攻撃が必要で、かなり苦労すると一目で分かる威圧感があった。


「遠路はるばるやってきた敵軍を出迎える為の要塞だからな。相手に不足なく、手厚く歓迎するための格は備えておかねば、ナクルの沽券に関わる」


 ベルゲンは自慢げに言う。

 第四次戦争が終結後すぐ、ナクルの復興もまだ始まったばかりだったが、次の侵攻に備えて軍民の総力を挙げて築き上げた最初の要塞が、この第一観測要塞なのだよと。

 確かに攻め入る側の視点で考えれば、この威圧感のある観測要塞を相手にしなければならないとなると、ナクルを攻めようとするのを躊躇する理由になると思う。



 突然、地表近くの空中に複数の白い線が現れ、空の階段を駆け上がっていくように一直線に伸びていく。

 白の軌跡を追うように、シュゴォーと響く騒音が、遅れて赤茶けた大地に広がる。


「なんですかアレ」


 額に手をかざし、太陽の光を防ぎながら空を見上げる。

 遠目で見たせいで、飛んで行ったものの正体はよく分からない。

 音を立てて飛んでいった謎の白い線は、観測要塞から離れた別の場所から飛び上がっていて、観測要塞から飛び出したものではないことは明らかだった。


 聞くまでもなかったかもしれねぇ。


 空中を風に流され、平行移動しながら白線が拡散して(もや)になっていく様子は、明らかに煙のそれだし、煙を吐きながら飛んでいくといえば、ロケット。

 もう見覚えしかないし、ロケット以外思い浮かばない。

 火薬があるなら地対空ロケットとか、あるいはロケット砲みたいな兵器があっても不思議ではない。


「あれが火進筒を装備した重装兵だ。火薬の力で飛んでいく」

「なるほど、重装兵……えっ?」


 ちょっと待て。

 空遠くに伸びる白い線から視線をベルゲンに移そうとしたが、さすがに二度見した。

 いま、ベルゲンは火薬ロケットで人間飛ばしてるって言った? 人間ロケットってこと?

 あの白い線を引いてぶっ飛んでるの、マジで人間?


 俺は、ベルゲンの言っていることを理解したと思っている。しかし、あまりにも突然なシロモノが出てきて、本当にその理解で良いのか疑わざるを得ない。

 後ろの荷台を振り返ると、エルア総監と目が合った。


「火進筒は、固めた火薬を筒の中に入れたもので、火をつけることで速力を得ることができる代物でございます」


 補足してくれたところ悪いが、知ってる。ロケット花火で見た。


「その、重装兵の装備する火進筒に、竹ひごは付いてますか?」

「意図を図りかねますが、ついていないと思います」

「そうですか……」


 巨大化したロケット花火を想像して冗談を飛ばしてみたものの、エルア総監に真面目に受け流されてしまった。

 俺の質問を、エルア総監は装備についてよく分かっていないと解釈したのかは分からないが。彼女が解説を始める。


「敵軍の飛来形態は状況により異なりますが、高度をとって侵攻する場合がございます。敵軍の高度まで我々が羽ばたいて上昇していては到底間に合いませんし、体力面でもすこぶる不利。観測要塞で早期に敵軍を発見できたとしても、これでは手落ちでございます」


 つまり敵軍の侵攻を発見したら、重装備の迎撃兵を火進筒を使って次々と打ち上げて、敵軍のいる高度まで急上昇。燃焼終了後は火進筒を分離投下して滑空するらしい。

 敵は攻撃するための武器を持って長距離を飛ぶ都合で、飛距離を伸ばすために防御が軽装になる傾向があるらしく、火進筒を使うことで重装兵が有利に戦えるという。


 エルア総監が少しうなるように何かを考えたあと、アダチ様も階段を登り続けて、息が上がった経験はございませんかと彼女に問われて、あると答える。

 高度をとるために羽ばたき続けることは、それと同等以上に、ときに階段を駆け上がるように激しく消耗するのだと言われた。そう言われると、キツさが分かるような気がする。


「ああ、そういうこと……」


 これがあるんだったら、飛行艇なんか作らずとも、一人乗りの小型の滑空機にロケットを推力に飛んで……そう一瞬思ったが、この話はやめよう。ロクなもんじゃない。

 どっちにしても、相当遠いらしい神都には一発では届かないだろう。仲間と一緒に移動するなら、全員が同じ機体に乗っていた方が飛行速度を揃えることを考えなくていいぶん都合がいい。

 やっぱり飛行艇の方がまだ現実的である。


 空に描かれた白煙の軌跡が消えきらないうちに、またロケットブースターの噴射音が聞こえて、空中に新たな白線を引き直していく。

 迎撃兵が加速して伸びていくに従って、ロケットの噴射音が徐々に低く、ダクトの風切り音のような音に変化しながら小さくなっていく。


「どうかね、アダチ殿。なかなか迫力があるだろう?」

「ええ。だいぶイカちいし、イカれてますよ」


 荷台に座って荷台に両手をつくグレアを見る。

 何を考えているのかは分からないが、蚊帳の外と言わんばかりに遠くの景色を眺めていた。


 エルア総監に、ああいう固形火薬を使った飛び方は一般的なのかと尋ねてみた。

 彼女は、正規軍では使われることがあるが、装備重量が嵩むから持ち運びには適さず、一般的には都市拠点や領地防衛以外には使われないと答えてくれた。

 つまるところ、軍専用の拠点防衛技術とのことらしい。


 それを、俺ごときが演習を見に来た程度でバカスカ飛ばしてくれる防衛軍。

 いやまあ装備の習熟のために、練習が要るのは分かるんだが、どことなく恐縮である。


「ベルゲンさん。僕が飛行艇で神都に向かうにあたって、火進筒を持った相手に襲われるみたいなことって、あり得ると思います?」

「まあ、あり得――ないと思う。そもそも火進筒を扱えるのは、それなりの領主とか、実力者に限られる。アダチ殿に手を出すことは、すなわち国を乱す国賊ということになる」


 国賓としての立場が最大の盾になるはずだから、レムノア国内にいる限りまずあり得ない。そうベルゲンは答えた。

 それを聞いて安心した俺である。あんなのと対峙することになったら、こっちは手も足も出ない。潰されてしまう。




 せっかくなので、第一観測要塞の中を紹介しよう、とベルゲンが言って、先導する騎兵に声を掛けた。

 砂利道に揺られて要塞前に到着した俺達は、わだちを下りて地面に降り立った。

 馬六頭が、直射日光を遮る要塞の影の下に並び、その端にわだちが並ぶ。


「あっつ……ここまで来るなら、日傘が欲しかったわ」


 エルア総監とベルゲンが、先導していた騎兵と一緒にに、要塞の兵士と見学について話をつけに行っているさなか、グレアが自身の顔を手で扇ぎながら口を開く。


「しばらくぶりに喋ったな?」

「メイドの私が領主級の会話に割り込んで、何を期待しているのかしら?」


 グレアはベルゲン達に背を向けて、暗い紫色のメイド服の襟元をつまんでパタパタと扇ぐ。

 暑いくらいの日差しに、熱を吸いやすい暗色の服。制服とはいえ、ひらひらとした布で重ね着をして着飾っていれば、そりゃまあ暑くなって当然である。

 俺もそうだが、グレアの額にじんわりと汗が滲む。ふとしたときに流れる風がひときわ涼しい。


「ヘーゲルの時は平然と割り込んでたろ」

「じゃあ、ベルゲン様との会話に割り込んでかき乱して、『アダチにやれと言われました』って言えばいい?」

「そこまでは言ってねぇよ」


 要塞の中から幾人かの人影が見える。こちらの様子を伺っていた。


「ここからのことは、仲間であっても他言無用で頼むぞ」


 俺とグレアは、そうベルゲンに忠告された。

 塔の正面に小さな門があり、俺達はエルア総監の誘導に従って、その建物の中に入ることを許されたのであった。


 建物の中は、外とうってかわって、薄暗くひんやりとしていた。石造りの壁に手を触れると、冷たさがなかなか心地よい。


「塔の上部には測距用の望遠鏡がございます。空のみならず、地上からの侵攻も早期に発見できます」


 一階から見上げた中央の塔の中心部。最上階まで届きそうな円柱状の吹き抜けで、エルア総監の声が石壁に反射して響く。


 俺もグレアもベルゲンも、揃って高い吹き抜けを見上げた。

 吹き抜けの外周を、各階の通路がリングのように囲う構造になっていて、吹き抜けを伝うように設置された大きな螺旋階段が各階を繋いでいる。

 階段を上るのも大変だからと、今回は螺旋階段は登らないことになった。


 この吹き抜けは、高層階から外の光が切り込むように注いでいるが、俺達のいる一階までは届かず、薄暗い間接光頼りだ。

 実際は松明や、魔力で発光するランタンなどを使って光源を確保するとのことだ。

 そんな話を聞いていると、気を利かせた第一観測要塞の兵士が魔力で発光するランタンを人数分持ってきてくれた。

 ランタンを持っている間は、勝手に発光する仕組みらしい。


「僕は、ちょっと持つのは、やめとこうかと」

「いやいやどうぞ、足元が悪い場所もありますから、安全のために」


 あご髭の立派な兵士が、俺にどうぞと手渡そうとするので断ったが、むしろグイと差し出されてしまった。

 ベルゲンも、エルア総監も、やりとりを黙って見ているだけで、何も介入しない。グレアに至っては、顔を逸らして、肩と息を小刻みに震わせて笑いをこらえていた。


「じゃあ遠慮する理由をお見せするので、みんな目を閉じてもらっていいすか?」


 そう言って、俺は目を瞑ってランタンに手を伸ばす。


 ――パァン!

 ランタンは俺が握ると同時に、閃光のような輝きを放ち、直後に中の石というか、素子が粉々に破裂して吹き飛んで破片が床に散らばった。

 さすがに視界を奪う閃光だけだと思っていたが、今回はついに爆散しちまった。


「安全のために、持たない方がいいかなと思いまして」

「確かに」


 もう二度と光らなくなってしまったランタンを返され、ガラクタに視線を落として発した兵士の一言。

 傍観するグレアが、ついに口元を手で押さえて背中を丸めて笑いをこらえている。


 というか、さっき気づいたんだが、ランタンに触れずとも俺が近づくだけで勝手に光るんだよ。現にグレアの持ってるランタンに手を近づけると、それだけで明るさが微妙に変わる。


 実のところ、わだちの初段減衰装置も、日を追うごとに強く減衰させないと同じ出力が得られなくなってきているのが実情である。つまり、俺の魔力は時間を追うごとに強大になっているのだ。

 わだちの調整も、まだできる範囲に留まっているとはいえ、調整範囲を振り切ってしまうと、もうわだちを運転することはできない。


「アダチ殿は、それだけの魔力を有して、何か苦しいとかそういう感覚はないのか?」


 閃光を直視してしまったらしいエルア総監が目をパチパチさせながら眉間を揉む横で、興味津々にベルゲンが問いかける。


「いや……何にも」

「本当に何もないのか」

「はい。むしろおかげ様で飛行艇を飛ばせますけどね」


 ベルゲンが苦笑しながら首をかしげた。

 飛行艇は、あまりの魔力消費の膨大さから、常人が数十分飛ばすのが限界と言われている。飛ばしたあとは数日休みが必要かもしれないと言われるくらいだ。

 そんなシロモノを、毎日数時間飛ばしても平気だと見積もられているのは、俺のこの状況があってこそである。


 とはいえ、俺自身に感知も制御もできない力が、延々と溜まり続けているのは不気味である。ヘーゲルも原因不明と言っていたし。

 魔法を使って消費すればいいわけだが、魔法も使えたり使えなかったり不安定だ。加減も調節できない。俺が確実に魔力を使えるのは、結局魔導モーターくらいである。


「ところでさっきのランタンの弁償って……」

「備品の不良で処理しておきます」



自らの翼で飛翔するため、迎撃兵のTWRが1を下回っても問題ないわけですねー


※TWR =Thrust Weight Ratio。推力と重量の比率。(重量=質量 x 重力加速度)

1.0を超えると推力だけで重量に打ち勝って上昇できる。

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