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『感情の起伏が激しい公爵家に嫁いだ「感情を諦めた」身代わり令嬢、ハズレスキル【心の温度計】で泥沼の家族関係を淡々と氷解させる 〜私がただ紅茶を淹れて、言い分を整理しているだけですが〜』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/20
怒声は、
いつも熱かった。

泣き声は、
硝子みたいに鋭かった。

愛していると叫ぶ人ほど、
誰かを傷つけていた。

だから私は、
心を動かすことをやめた。

熱に触れれば火傷をする。
悲しみに触れれば沈んでしまう。

ならば最初から、
ぬるい紅茶みたいに静かでいればいい。

公爵家は嵐だった。

怒り百五十度。
嫉妬百二十度。
被害者面は九十度。
自己保身は、測定不能。

皆、燃えることに必死で、
自分が何を焼いているのかも知らない。

私はただ、
湯を沸かし、
茶葉を蒸らし、
帳簿を開き、
言葉を並べた。

感情ではなく、
事実を。

叫びではなく、
数字を。

すると不思議なことに、
泥沼は少しずつ凍っていった。

熱に浮かされていた嘘は、
冷えると輪郭を失った。

「愛だ」と喚く声の裏に、
金額が見えた。

「悲しい」と泣く瞳の奥に、
計算高さが透けて見えた。

嵐はやがて、
自分自身を食い潰して消えた。

残ったのは静かな部屋と、
湯気の立つティーカップ。

あなたはそこで初めて、
怒鳴らなくても届く声を知った。

ぶつけ合わなくても壊れない関係を知った。

そして頭上に浮かぶ温度は、
ようやく人の体温になる。

三十六・五度。

あたたかい、というには
少し控えめな熱。

けれど冬を越えるには、
きっとそれで十分だった。
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