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「君は理解してくれるだろう?」と言われ続けたので、理解するのをやめて辺境へ隠居します ――都合のいい『理解ある婚約者』は、本日をもって廃業いたしました――

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/06/08
「君は理解してくれるだろう?」

その言葉を、

私は長いあいだ

優しさだと思っていた。

愛情だと思っていた。

信頼だと思っていた。

だから頷いた。

眠れない夜も。

削られる時間も。

置き去りにされた約束も。

踏みにじられた気持ちも。

全部。

全部。

「理解」してきた。

けれど、ある日気づいたのだ。

あなたが求めていたのは

理解ではなく、

都合だったのだと。

私の我慢。

私の献身。

私の沈黙。

私の諦め。

それらを綺麗な言葉で包んで、

「理解」

と呼んでいただけなのだと。

だから私は、

もう理解しない。

あなたの遅刻も。

浮気も。

言い訳も。

傲慢さも。

自分だけが傷ついているような顔も。

理解しない。

許さない。

責めもしない。

ただ、

降りるだけだ。

あなたの人生という舞台から。

ある朝、

机の上に指輪を置いた。

置手紙を一枚添えて。

「都合のいい『理解ある婚約者』は、本日をもって廃業いたしました」

それだけ。

涙は出なかった。

怒りもなかった。

不思議なくらい、

心は静かだった。

辺境の風は冷たかった。

けれど自由だった。

誰も私に、

理解を強要しなかった。

誰も私の優しさを、

当然だと思わなかった。

朝焼けは美しく、

鳥の声は澄み、

私はようやく知った。

優しさとは、

搾取されるための才能ではない。

理解とは、

自分を犠牲にする義務ではない。

遠く離れた王都で、

誰かがようやく慌て始めた頃。

私は花に水をやりながら、

静かに笑った。

もう戻らない。

もう引き返さない。

あなたを理解するより、

まず私自身を大切にしたいから。

風が吹く。

青い空が広がる。

そして私は、

長い長い冬を抜けた人のように、

深く息を吸った。

都合のいい『理解ある婚約者』は、

本日をもって廃業いたしました。

これからは、

私の人生を生きます。
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