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第14話 レナードの手紙

第14話 レナードの手紙


王都から辺境へ戻って五日目の朝、エレノアは治療院の裏庭で薬草を干していた。秋の風は冷たく、薄茶色の仕事着の上に深緑の肩掛けを羽織っていても、指先がすぐに冷える。木枠に並べた薄荷の葉から青い匂いが立ち、その向こうでは橙色の金盞花が朝露に濡れていた。洗濯紐には白い包帯が十本ほど干され、端から順番に風を受けて膨らんでいる。


「奥様、お手紙です。王都からですが、差出人の爵位が二重線で消されています。封蝋にも紋章がありません」


マルタは郵便袋から一通の封書を出した。編みかけだった赤い靴下は両方とも完成し、今日は余った毛糸で小さな帽子を編み始めている。エレノアは薬草についた露を布で拭いてから、差出人の名前を確認した。


封筒には、レナードとだけ書かれていた。以前の彼なら、名前の前に騎士団長と公爵令息の肩書を必ず並べたはずだった。文字は右へ傾き、最後の一画が紙からはみ出している。エレノアは封筒を開けずにいたが、掌へ伝わる紙の厚さだけで、何枚も入っていることが分かった。


「お読みになりますか。それとも、そのまま返しますか。お湯を沸かしていますから、燃やすなら竈も使えます」


「読みます。今後、何か問題が起きたときに必要な記録になるかもしれません。マルタ、立会人になってください」


「分かりました。でも先に、薄荷を全部並べてしまいましょう。途中にすると、風で裏返って乾き方が悪くなります」


二人は残っていた薄荷を木枠へ並べ、洗濯紐から落ちた包帯を拾った。マルタは拾った包帯に草の種がついているのを見つけ、洗い直しの籠へ入れる。エレノアはその作業が終わってから、治療院の事務室へ入った。机には朝食の残りの林檎が半分あり、切り口が薄い茶色へ変わっていた。


レナードの手紙は四枚あった。最初には、自分が間違っていたことを認める言葉が並んでいた。エレノアへ仕事を押しつけたこと、セリアを優先したこと、婚約者として守らなかったことを謝っている。けれども三枚目からは、自分がどれほど貧しい部屋で暮らし、不慣れな仕事に苦しんでいるのかが長々と書かれていた。


「君を失って初めて、君の大切さに気づいた。私は毎晩、冷たいスープを飲みながら君のことを考えている。一度だけ会ってくれれば、君なら私の後悔を理解してくれるはずだ、ですって」


エレノアは最後の一文を読み、手紙を机へ戻した。胸元の肩掛けが急に重くなり、留め具へ指をかける。窓の外では、干していた包帯が一枚だけ強い風にあおられていた。同じ場所を何度も往復しているのに、結び目があるため紐から離れることはなかった。


「最後まで、奥様に理解させたいのですね。謝っているのなら、返事も面会も求めなければよいと思います。私が孫に謝るときは、お菓子を持っていっても、許せとは言いませんよ」


「謝罪の形をしていますが、私を呼び戻すための手紙です。自分が冷たいスープを飲んでいることまで、私の責任にしようとしています」


「冷たいなら温めればよいのです。鍋と薪くらい、自分で用意できます。それより、その林檎を食べないなら私がいただいてもよろしいですか」


エレノアがうなずくと、マルタは茶色くなった部分も気にせず林檎をかじった。しゃり、と乾いた音が事務室に響く。その間にエレノアは手紙の受領日を帳面へ書き、封筒と本文へ同じ番号をつけた。返事を書くための便箋は出さなかった。


屋敷へ戻ったエレノアは、手紙をアルベルトに見せた。アルベルトは黒い上着を脱ぎ、食堂の椅子へ掛けたところだった。夕食には蕪と鶏肉の煮込みが用意され、焼いた黒パンから香ばしい匂いが漂っている。暖炉では薪がはぜ、その横に置かれた籠には、乾かすための泥のついた胡桃が入っていた。


「燃やしてしまいたいなら、暖炉を使っていい。私が読んだ限りでは、謝罪より要求のほうが長い。しかし、どうするかは君が決めてくれ」


「燃やしません。返事も書きません。王都で治療制度を調べ始めた今、彼が私へ接触してきた記録は残しておいたほうがよいと思います」


「では、執務室の保管箱へ入れよう。鍵は君が持つか。それとも家令にも預けるか」


「家令に予備の鍵を預けます。私が不在のときにも、証拠を取り出せるようにしてください」


食後、エレノアは手紙を厚い紙の袋へ入れ、表に日付と差出人を書いた。アルベルトは保管箱の中を片づけ、去年の税務記録を一段下へ移す。箱の隅から、干からびた豆が一粒出てきた。以前、帳簿の上で豆の選別をした料理人が落としたものらしく、アルベルトはそれをつまんで首をかしげた。


一通目から三日後、二通目が届いた。今度の封筒には、裏面に滞在している宿屋の住所が書かれている。レナードは、返事が届かなかったのは住所が分からなかったためだと考えたらしい。本文には、エレノアの沈黙を疲労のためだと理解している、と書かれていた。


「勝手に理由を決めていますね。奥様が返事をしないことも、返事の一つではありませんか」


「レナードは、私の沈黙を拒絶だとは考えませんでした。私が黙っていれば、自分に同意していると思っていたのです。以前から、ずっとそうでした」


「では、今回もお返事はなしですね。受領日は今日、立会人は私。番号は二番でよろしいですか」


エレノアは二通目にも番号をつけ、一通目と同じ袋へ入れた。その日の昼食は、マルタが持ってきた茸のパイだった。皮は少し焦げていたが、噛むと中から熱い汁が出てくる。エレノアは舌をやけどし、しばらく口を開けたまま冷たい水を飲んだ。


それから四日後、三通目が届いた。封筒には急いで書いたようなインクの染みがあり、角がつぶれている。一枚目には、面会を求める言葉が繰り返されていた。二枚目には、アルベルトが手紙を隠しているのではないかという疑いが書かれていた。


「辺境伯が君を監視しているなら、私が救い出す。以前の君なら、困っている者を放っておかなかった。どうしてこれほど冷たい人間になってしまったのだ、ですか」


「困っている人ではなく、自分を放っておけないのですね。奥様が辺境伯様と仲よく暮らしているとは、少しも考えないのでしょうか」


「私が自分から彼を選んだと認めれば、レナードは自分が選ばれなかったことも認めなければなりません。だから、私が誰かに操られていることにしたいのでしょう」


三通目も保管箱へ入れられた。エレノアは受け取るたびに肩を固くしたが、手紙を閉じると診察へ戻った。発熱した子どもの額へ濡れ布を置き、腰を痛めたパン屋には重い小麦袋を一人で運ばないよう話した。夕方には庭の金盞花を摘み、軟膏に使う花びらと、食卓へ飾る花を分けた。


四通目は翌日に届いた。レナードは返事がないことへ腹を立て、手紙の半分をエレノアへの非難に使っていた。自分は公爵家も爵位も騎士団長の地位も失い、セリアにも見捨てられたのに、エレノアだけが辺境で豊かに暮らすのは不公平だと書いてある。最後の行には、大きな文字で「君のせいで私は人生を失った」と記されていた。


「私は彼から爵位を奪っていません。職務記録を書き換えたのも、騎士団の予算を流用したのも彼です。私は、彼が自分で行ったことの後始末を引き受けなかっただけです」


「それでも、自分が落ちた場所から奥様を見上げると、突き落とされたように感じるのでしょうね。階段を踏み外したのは自分なのに」


「マルタ、ときどき鋭いことを言いますね。ですが、その茸を薄く切りすぎています。このまま干すと紙のようになりますよ」


マルタは手元の茸を見て、厚切りにしたものをエレノアの籠へ入れた。二人は手紙の記録を終えると、午後の日差しが残る庭で茸を干した。土からは昨夜の雨の匂いが上がり、金盞花の間を小さな蜂が飛んでいる。エレノアの指には手紙のインクではなく、茸の白い粉がついていた。


五通目は二日後に届いたが、エレノアは封を切らなかった。差出人の文字を見ただけで、指先が冷たくなったためだった。彼女はその場で郵便配達人を呼び止め、受付台から赤い印を取り出した。紙へ押しつけると、「受取拒否」の四文字が封筒の中央へ残った。


「今後、同じ差出人から届いた手紙には、すべてこの印を押してください。開封せず、配達人へ返します。ただし、日付と通数だけは帳面へ記録してください」


「よろしいのですね。何か大切なことが書いてあるかもしれませんよ。最後の謝罪かもしれません」


「本当に私へ伝えなければならない用件なら、弁護士か王都の役所を通せます。私の気持ちを動かすための手紙を、最後まで読む義務はありません。もう、私が彼の後悔を理解する必要もありません」


赤い印の乾きを待つ間、エレノアは窓辺の椅子へ座った。今日の診療着は濃い緑色で、袖には子どもが触った林檎の蜜がついている。洗えば落ちる汚れだったが、帰宅するまではそのままにしておいた。窓の外では、金盞花の花びらが夕方の風に揺れていた。


その夜、アルベルトは竈で焼いた栗を食卓へ持ってきた。二人で殻をむくと、細かな皮が皿やテーブルへ散らばった。エレノアは大きく割れた栗をアルベルトの皿へ置き、代わりに形の崩れたものを自分の口へ入れた。ほくほくした甘さが広がり、指先には香ばしい匂いが残った。


「受取拒否にしたと聞いた。今夜から門の警備も増やす。君が嫌でなければ、王都の弁護士にも連絡しておこう」


「お願いします。ただし、私は隠れて暮らすつもりはありません。明日も治療院へ行きます。午後はマルタと冬用の薬草を仕分けます」


「では、帰りに迎えに行く。干した茸を分けてもらえるか、マルタに聞いてみたい」


レナードの四通の手紙は、暖炉ではなく鍵のかかった保管箱に入っていた。五通目は翌朝、赤い印を押されたまま王都へ送り返される。エレノアは栗の皮を卓上の小さな籠へ集めると、冷めかけた茶を飲み干した。彼女の夜は、もうレナードの言葉を読み解くために使われるものではなかった。


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