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【英国古謡】完璧な夫に愛された伯爵夫人が、すべてを捨てて流浪の女についていくまで― バラッド『ラグル・タグル・ジプシー』翻案

作者:lilylibrary
最終エピソード掲載日:2026/06/16
これは、英国の古いバラッド「ラグル・タグル・ジプシー(The Raggle Taggle Gypsy)」を下敷きにした物語。裕福な奥方が流れ者とともに出奔するこの歌は、ザ・チーフタンズやクリスティ・ムーアらに歌い継がれているが、彼女が去った理由を決して明かさない。その沈黙に、ひとつの答えを与える。

レディ・ジェーンの夫は、世界じゅうの妻が羨む夫だった。つねに彼女のために考え、動き、欲しがる前に与える。雨の音が好きと言えば、風邪をひかぬよう窓を閉めてくれる、そういう優しさの人。

だが、城門に現れた旅の女が歌い出したとき、彼女のなかで眠っていた何かが目を覚ます。施しを断り、名を明かさず、何ひとつ約束しないその女は、ただ一度だけ問うた。「あんたは何が欲しいの?」と。

仕上げられてしまう刺繍。開かない窓。与えられるばかりで掴むことのない手。ジェーンは少しずつ、自分の声を、自分の名を取り戻していく。羽毛の寝床か、それとも冷たい地の上の自由か。荒野で交わされる、勝者なき問答の果てに、彼女が選ぶものとは。
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