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エルデーン世界記録集 ― Chronicle of Eldern

龍譚手記

最終エピソード掲載日:2026/09/13
「私を学者と認めた学府は、この世にひとつもない」

 王国歴1300年代、北辺の寒村ロヴニ。猟師の三男リエン・ロ・ハーグは、七つの年の吹雪の晩、頭の上を過ぎた途方もなく大きな影に、ひと声、鳴きかけられた。あの声には意味があった。意味の分からぬまま死ぬのは厭だ――子供の決めた理由ひとつで、男は五十年、龍を追い続けることになる。

 師はなく、銭もなく、学府には「鳥の囀りを文法で語る者」と嗤われた。それでも男は矢を持たずに山へ入り、龍の声を紙に写す記法を自らこしらえ、書き取り続けた。森を守る鹿の龍。年に一度だけ動く湖の大亀。姿を見せず、舞にだけ声を返す雨乞いの龍。山頂で夜通し語り合う二頭。夜明けの歌に、男の挨拶をひとつだけ織り込んでみせた大鳥。そして、人と共に暮らす白馬の龍。

 言葉にならなかった旅の果て、老いた独学者は北の果ての氷窟に向かう。棲むのは、神々の戦をその目で見たという最も古き龍。五十年戸を叩き続けた男に、氷の奥から声が返った。

 ――誰に習うた。

 認められなかった学者が、ただひとりの読み手に宛てて遺した五十年の手記。『神統断片拾遺』に一節だけ引かれた龍語学者の、これがその本編である。
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