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私の十年を「誰にでもできた」と仰るのなら、どうぞご自由に

最終エピソード掲載日:2026/06/09
十年分の帳簿を、彼は一度も開かなかった。

騎士団の補給、外交、装備管理。
レティシアはその全てを一人で回してきた。
九百二十名分の物資を手配し、隊員一人ひとりの事情を帳簿に記す日々。

誰にも気づかれない仕事を、十年。

ある日、婚約者は別の令嬢を傍に置いて告げる。
「君は隣にいるだけでいい」。
その一言が、十年の全てを否定した。

レティシアは静かに婚約を解消し、王都を去る。
手元には紹介状が一通だけ。
北方辺境の公爵から届いた、たった二文の手書き。

「補給台帳を拝読した。お会いしたい」。

読まれなかった帳簿を、読んだ人間がいた。
寡黙な辺境公爵は、甘い言葉ではなく仕事の中身を問う。
数字の裏にある判断を、初めて誰かに問われる。

けれど王都からは手紙が届く。
崩れ始めた騎士団から、戻ってきてほしいと。
謝罪のない手紙を前に、レティシアの手が止まる。

この物語の愛は、報告書の余白に宿る。
レティシアのインクが何を綴るのかは、まだ誰も知らない。
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