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『そのドレス、私の私物ですが?』 ~完璧な会計令嬢は、婚約破棄の場で自分の「異常性」を突きつけられ、初めて正気(と恋)を知る~

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/14
灰色の襟を
喉まで閉じて、
カトレアは今日も
「姉」であることを着ていた。

妹が笑えば譲った。
宝石も、ドレスも、居場所さえ。
家族間の資産移動は非課税――
そんな言葉で、
心の赤字をごまかしながら。

白い夜会場。
本来なら彼女が纏うはずだった
純白のドレスは、
妹の胸元で揺れていた。

婚約破棄。

その言葉を、
彼女は“ざまぁ”の始まりだと思った。

けれど響いたのは断罪ではなく、
ひとりの男の悲鳴だった。

> 「君は、自分を大事にしろ」

その瞬間、
壊れていた帳簿がめくれ落ちる。

尽くすこと。
譲ること。
耐えること。

それは本当に、
愛だったのだろうか。

深く頭を下げた床の向こう、
黒衣の男が笑った。

> 「拾おう。
> 君ほど美しい損益計算は見たことがない」

やがて彼女は知る。

ボルドーワイン色のドレスが、
誰かのためではなく、
“自分の肌”のために作られる歓びを。

深い谷間。
背を流れる黒髪。
絞られた腰。

それは媚びではない。

奪われ続けた人生を、
自分の身体へ取り戻すための戦装束だった。

請求書は積み上がる。

ドレス百二十四着。
宝飾十九点。
未払いの愛情、無断使用の青春。

妹は泣く。

けれどカトレアは、
初めて笑って言った。

> 「これは適正価格です」

数字は冷たい。
嘘をつかない。
だから彼女はようやく知った。

損をし続ける人生は、
美徳ではなく破綻だと。

最後に贈られたのは、
王冠でも、指輪でもない。

純金の算盤。

しゃらり、と鳴る音はまるで、
閉じていた心の鍵が開く音。

そして彼女は、
新しい人生の帳簿へ書き込む。

愛情収益――

計測不能。

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