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『悪魔の裏特約 ~婚約破棄した瞬間、元婚約者は私の所有物になりました~』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/29
『悪魔の裏特約』 詩

――契約の女王 エルザへ捧ぐ

薔薇の香る舞踏会
金の燭台 硝子の微笑み
祝福の拍手の裏側で

あなたは見てしまった

愛を誓った男の唇が
別の女の名を呼ぶ瞬間を

砕けたのは
指輪ではなく

信じていた心だった

けれどあなたは泣かない

涙は復讐を鈍らせると
知っていたから

静かな足音で降りてゆく
アストリア家の地下封印庫

埃を被った黒革の書

――悪魔契約書

触れた瞬間
闇があなたへ微笑む

「ようこそ、お嬢様」

銀髪の悪魔は囁いた

「裏切り者が堕ちる音ほど
 美しい音楽はありません」

その日から

愛は終わり
契約が始まった

血で描かれた署名

笑いながら差し出した指先で
男は自ら鎖を結ぶ

知らぬまま

裏面に刻まれた
“絶対服従”の文字を

婚約破棄の夜

男は玉座に立ったつもりでいた

愚かにも

自分が既に
首輪を嵌められているとも知らず

灯りが消える

悲鳴が響く

空中へ浮かぶ赤黒い契約文

そして

膝をつく音

誇りが砕ける音

魂が所有される音

「サインしたのは、あなたでしょう?」

その声は静かで

あまりにも冷たく

あまりにも美しかった

悪魔は笑う

まるで舞台を眺める観客のように

「素晴らしい」

「これこそ復讐だ」

かつてあなたを笑った者たちは
泥の中で互いを呪い合い

あなたはただ
高みから見下ろしている

黒いドレスを翻し

赤い瞳を細めながら

人はあなたを恐れた

契約の女王

悪魔に愛された伯爵令嬢

けれど誰も知らない

あなたの胸の奥に

まだ小さな痛みが
灰のように残っていることを

それでもあなたは進む

もう戻れないから

悪魔はそっと手を差し出す

「次の契約を」

あなたは微笑む

月明かりの下

新たな破滅の幕が上がる

――END――
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