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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
!GRAVITON

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第6話-25 解を求めよ

代理救済プロトコル から !GRAVITONに復帰!

---

世界初の動力飛行をギリギリ成し遂げた俺達だったが、課題は山積していた。

不良や事故に見舞われるなか、恐怖を母親の腹の中に忘れてきた連中の勘違いとお節介が、飛行艇TANONに襲いかかる。

「うまくいかないのは、速さが足りないからだ!」

「裏ミッションで俺の暗殺課されてない? 大丈夫?」

成功に勢いづき、調子に乗った有翼人のイカれた脳筋文化(マッスル・カルチャー)が花開く――



 クソ重い操縦桿と格闘の末、ギリなんとか初飛行まで持ち込めた離水試験から数日。

 飛行艇TANONはキール造船所前の仮設の桟橋に係留されたまま、飛行が機体にどんな負荷や影響を与えたのか、入念に調査することになった。

 特に全長30メートル近い主翼に、想定外の力がかかった痕跡がないかどうか、機体が設計以上に歪んでいないかどうかを調べて、一時的に飛行に耐えただけなのか、本当に飛んでも問題ないのかを確認するのだ。


 機体を担当していたナドは、かなり頑丈に作っていたからまず問題ないはずだが、念のためと言っていた。

 飛行中に主翼がバンザイして折れようものなら一大事である。


 なんだかんだいって、飛行艇を動かすところまでこれたのである。

 新たに見つかった課題も、残ったままの課題も、一つずつ確実に解決していけば、神都への到達も現実的なところまで辿り着いたのだ。


「ボス、さすがに面倒くさいってー」


 で、昼下がりの午後。

 俺達はというと、迎賓館の一室に、全員――ブロウル、ガル、リン、クラリ、グレア、それと俺が集まって、旅に必要な知識などを共有する授業を続けていた。

 いつも通り、語りたいヤツが前に立っていくスタイルで、今は俺が教壇に立っていた。

 で、このブロウルの嘆きである。


 椅子に座って腕組みする彼は、上唇をとがらせ、唇と鼻の間に羽根ペンを挟んでいる。


「これもう聞いただけで面倒くせぇよ……」


 剥き出しになったブロウルの上半分の歯茎が喋る。チンパンジーの威嚇を連想させる様相である。


 俺が授業していたのは、数学と物理の問題である。


 "空気に対して秒速450シュ(約75メートル)で飛行艇が直進している。

 無風の理想状態では2時間の旅程であるが、実際は機体の針路と実際の軌跡の水平の角度差は円周の36分の1発生している。

 事前の計測で向かい風を含む、秒速100シュ(約16.7メートル)の風が一様に吹いていることが分かっているが、正確な風向きは分かっていない。

 このとき、実際の移動かかる時間は、理想に対しておよそ何分遅延するか求めよ。

なおここでは離着陸を考慮せず、全区間を水平飛行の巡航状態と仮定する。"


 いやぁ、ブロウルのダルいという感想には同意するね。

 学校の物理の授業で、特に意味もなく川を横断する船の速度や時間、時には川幅の算出を求められた日々を、俺も経験しているのである。


 飛行艇は魔力によって飛ぶわけだが、冷却水を蒸発させながら飛ぶ関係で、無限に飛んでいられるわけではない。冷却水が実質の燃料である。

 冷却水が少なくなると、給水地点を探す必要がある。

 単純な無風なら、地図上の現在地を中心に航続距離を半径とした円を描けば、到達距離の目安は分かる。

 しかし、風が吹くとその円がズレちまうわけだ。

 俺が出した問題は、その補正に関連する練習問題である。


「残念だが、面倒だからというのは、やらなくて良い理由にならん。問題を作った俺の苦労も分かってほしいね」


 俺も高校物理の授業でやったは良いものの、解き慣れてなんかない。

 こちとら、教える手前問題の答えが間違っていないか、事前に何度も検算したのだ。


「えぇー……でもなんかやるんだったら、もうちょっとこう、現実に即した感じのさ――」

「分かった、分かった。そこまで言うならブロウルだけ別の問題にしてやる。風向きを上空からの吹き下ろし要素を追加して、飛行艇も高度維持のための仰角を付与した3次元問題だ」

「エグいエグい!!」

「もうちょっとこう、現実に即したやつが良かったんだろ?」

「それは俺求めてねえんだわ」

「俺はちゃんと答えを求めたが。問題を出すなら答えを用意しておくのは当然だからな」

「天才かよ」


 両手を頭の後ろで組んで、ブロウルが吐き捨てるように言う。

 念のためにだが、俺も高校生である。一応。だから俺も分かってんだよ。こんな問題が苦行に近いことくらい。

 極論、航法担当ひとりが代表して解ければ問題ないが、それではその一人がダウンした途端に破綻する。それが問題だからこの授業をやっているのだ。


「ボスはさぁ、学問の話になると途端にマジで強くなるよな。運動はイマイチだけど」

「日中の大半を座学に費やしてきた人生だからな」

「そんな座学好きなの?」

「いや。むしろ嫌いまである」

「じゃあなんでやってんの」

「あんだよ、色々と」

「ボスのいた世界の平民は、みな貴族みたいな生活をしてんのな」


 貴族の優雅な学問を想像しているブロウルには悪いが、その実態は、学業という餌を否応なく飲み込ませ、知識太りさせて社会に出荷するブロイラーである。

 養鶏場の風景と、体育館で全校集会を開いたときの風景を比べてみてほしい。いい間違い探しになる。


 とはいえ、俺がそれに現在進行形で死ぬほど助かっているのは間違いない。

 面倒だろうが、解き慣れていなくて自信がなかろうが、俺は使えるものは片っ端から使う。ブロイラーは最高だぜ!


 当然ながら、俺を含め細々とした三角関数の計算など暗算できるはずもなく。そこで用意されているのは、特別な計算道具、三角関数用の計算尺である。


 電卓サイズの正方形の薄い箱に、90度の円弧上を動かせるツマミがあり、そのツマミを動かした位置角に連動する正弦と余弦の目盛りを目視で読み取ることで、三角関数を求めるのである。

 ツマミの位置の手ブレとか、目盛りの精度、機構上のアソビが作るガタつきが影響してくるので、厳密な値は得られないが、速度と精度のバランスを取れるし、簡単に使えて悪くない。


 さらに、別途1から100までの2乗の結果を事前にまとめた速算表を用意している。

 二乗ないし平方根の計算は、これである程度の精度で対応できる。

 どちらもナクル防衛軍から「航法のお供に」と渡されたもらい物である。


「ガル爺はどうすか?」

「んああ。老いぼれに片足突っ込んでる傭兵の仕事に、学問が含まれるのが分かってりゃ、今回の仕事に応募するかはもう少し考えてたろうな」

「頑張れ」

「若ぇのと一緒にするな、若ぇのと。もうモノ覚えるようなアタマしてねぇんだぞ」


 この歳にして、転職の言葉が脳裏に浮かぶぜ、とぼやくガル。俺は生涯学習と何度か声かけして処理することにした。

 一方、女子組のクラリ、リン、グレアは黙々と計算していた。

 一番早く筆ペンを置いたのは、グレアだった。


「終わったのか。早いな」

「およそで良いんでしょ?」

「まあ」


 グレアの机上に書かれた回答を見る。彼女の回答は、およそ30分。


「どうやって解いた?」


 他のメンツに聞こえないよう声を潜めて耳打ちをする。

 途中式を見てみたが、ほとんど省略されていて、どう考えたのかの過程が読めなかったのだ。


「空気に対して450の速度、向かい風含む風が100で、針路とのズレが円周の36分の1でしょ。仮に真向かい風なら、実際の速度は350。だいたい1.3倍時間がかかるから、まずざっくり35分。横風の角度はさほど大きくないから、影響したとしても5分から10分くらいと見積もって、雑に差し引いて30分」

「やりやがったなお前」


 計算に慣れるという趣旨から逸脱したアクロバット解法であった。

 現代日本の学校教育システムなら、教えていない解き方をして途中式不十分で部分点ないし不正解にされるタイプの生徒である。


「もう少し精度上げてみろ」

「1時間程度なら、早着しようが延着しようが誤差よ、誤差」

「はいはい、でもお前趣旨分かってんだろ」


 グレアから明らかに聞こえる舌打ちが飛んだ。

 確かに、みんながみんな時計を持って正確な時刻を見ているわけではない世界である。

 陽の傾き具合や時報の鐘の音が、一般生活の時間粒度と考えると、1時間の差を誤差と考えるのは文化的な要因かもしれん。ましてや旅となれば想定外も多いだろう。


 グレアから離れて、リンの机に近寄る。ちょうど彼女が計算を終えたタイミングだった。

 彼女は出自の関係で書き慣れていないのか、ペンの持ち方が独特で、文字は多少ガタガタ気味である。まあ十分読めるが。

 ちなみにグレアの文字は流麗で読みやすかった。

 答え、21~22分。かなりの精度である。というか理想的な答えだった。実際、俺の計算結果も約22分だ。


「すげぇな。正解だ」


 そうリンに耳打ちして離れる。

 リンは本当に口数も少なくて大人しいが、かなり知識の吸収が早いタイプだ。

 学校だったらクラスのトップ、下手すれば学年トップに名前が出るんじゃないかと思うくらいには頭がいい。


 そして次に向かうは真打ち。航法の役割を担うクラリである。

 クラリの机に近寄る。俺にニッコリと微笑んで尻尾を揺らす彼女。回答を覗きこむ。


 7811分――


「ワァオ……」


 衝撃の回答に思わず口にする。もうめちゃくちゃ。

 どうやれば、2時間の行程に7811分、130時間の遅延になるんだ。

 その条件が成立するためには、飛行艇の対地速度が秒速1メートル程度にならないといけないわけで。

 それはランニングマシーンで全力疾走しながら負けていく状況である。


 机を挟んでクラリと向かい合って、しゃがみこんだ。組んだ両腕を机の上に乗せて薄目で笑顔を作る。


「頑張った?」

「えへへー頑張った」


 クラリが愛嬌たっぷりに言うのを、俺は細かく首を縦に振って応える。


「そっか。いっぱい計算式書いたもんな」

「うん書いた」

「答え、全然違うぞ?」


 彼女の弾きだした誤答が現実だった場合の様相に思いを馳せる。

 秒速75メートル近い風が吹き荒れる気象環境は如何ほどのものだろうか。晴れているわけがない。暗黒に染まる曇天を切り裂く横殴りの雷雨。視界不良のコックピット。暴風雨に抗い激しく揺れる機内。和やかなクラリ。

 いやそんな天候なら普通に欠航する。死にたくない。


「うーん……ゆるして♡」

「許さない♡」


 何が首をコテッとかしげて「てへっ」だよ。

 ニッコニコの笑顔で優しく答えた。


 お前が一番正解せにゃならんのだ。このメンツの中で。

 もう一回やってみようか。クラリに言う内心、俺の中で本当にコイツに航法を任せて大丈夫だろうか、と仲間に対する疑念じみた不安が広がる。


 ダメそうなら配置換えしよ。

 彼女の本職は後方支援、特に医療である。多彩な技術を持っているから任せているだけである。


 クラリのような古族は、あまりこうした分野の成績が良くない種族と言われている。

 彼女の種族が、割り当たった職能との相性が悪いのは間違いない。無理なことをやらせるくらいなら、本業の領域での活躍に期待を寄せた方がいい。

 まあ結局、クラリが25分くらいといい感じの答えを出してきて、俺は安心する。さっきのは一体何だったんだ。

 いやでもクラリ、お前すげぇぞ。グレアより精度がいい。


 しかしまあ、相当要点を絞っているとはいえ、みんなが短期間でここまで計算できるのは、マジで驚異的だと思うね。




 順番は変わって、次にブロウルが教師役をやると言い始めたので、俺は場所を交代してブロウルが座っていた席に戻った。


「小難しいボスに代わって、今度は俺が問題を出そうと思う」


 前に出たブロウルが、両手を後ろ手にした状態で左右にゆっくりと歩きながら続ける。

 ボスは厳密な結果が好きだと思うが、ある程度計算が適当でも、それなりでもなんとかなるってことを教えてやろうと思って、と。


「ある街に来た俺達は、宿を見つける。見た目が綺麗で、大通りに面している、それなりに立派な宿だ。宿に食事はつかないが、一階が飲食店になっていて、そこで飲み食いができる。二階以上が宿だ」

「ほう」

「けどな、その宿にはひとつ問題があった。宿泊に一人頭1万飛んで500レルが必要なんだな。食事なしで。飲食店も人気の関係で満席になったり深夜まで盛り上がることも多い」

「……おう」


 宿屋の料金を算出する問題か?

 だとするなら、1万と500なら、6人なら6万と3000レルか。

 ブロウルの「計算が適当でもなんとかなる」の意図が気になりつつ、暗算を進める。


「その店で茶飯事のケンカ騒ぎを押さえ込み、宿屋兼店の主が、俺への感謝の印に、宿泊料が一人頭3000レルに大値引きさせたときの――」


 値引きか。3000レルの6人分は1万と8000レルである。

 6万と3000レルから差額を引けば――


「――俺を求めよ」


 ブロウルは、短い前髪をかきあげて問題を自信満々に言い放った。


「は? なんて?」


 は? という声がグレアとも被る。同じ事を思ったのは俺だけではなかった。

 俺は思わず目を細めて座っていた机から半身乗りだした。

 ブロウルは今度は親指で自らの胸を突き立て言う。


「――俺を求めよ」


「解なし」

「解なし」

「甲斐性なし」


 反射的に出た俺の答えに、ガル、グレアが続いて答えて、いい感じの三段コンボが決まった。


「ブロウルー、何がしたいのか分からないのですよ」

「だから、俺を求めてくれれば良いのさ」


 これはこれは、大変貴重なゆるふわクラリの貴重な一撃である。

 そしてブロウル、お前もそのネタで大分粘るな?


 ガルが机に肘を乗せるドン、と鈍い音がした。

 その指先をブロウルに向けて、渋く低い声が部屋に響く。


「んじゃあ、なんだ。お前は相手が野郎でも構わねぇんだな?」

「あ、そこは女の子がいい……」

「なら今度、人肌恋しがってるバアさんを紹介してやるよ。逃げるなよ?」

「若いお姉さんまでがいいっす」


 何の話だよ。

 計算どころか、なに一つ成り立ってねぇじゃねぇか。

 まあ、授業といってもこんな感じである。



 ――今日は早めに授業を締めることにした。俺が話をしたい相手が二人いるのだ。

 一人は、飛行艇の離水試験で確認した課題を解決するための話である。まあ、迎賓館に彼を呼んでも良いんだが、忙しい相手なので、こちらから出向く。

 というか普通に誰に対したって俺から出張るのがいつものパターンなので、通常営業である。


 そしてもう一人、別件で話しておきたい相手がもう一人いる。


 「なあリン」


 部屋から出ていくグレアやガルを尻目に、俺はリンが座っていた席の机に腰掛けた。

 もう一人とは何を隠そう彼女である。

 リンは何も言わずに、顔を上げて視線を俺に合わせる。


「あん、急な話とは思うんだが、改名したいとか思ったことない?」

「改名、ですか?」

「そ、名前変えるの」


 リンは俺の提案を聞いてうーん、と唸りながら視線を逸らす。

 リンネ・エルベシア。名は体を表すというが、事実彼女の種族エルベシアである。

 誉れ高き種族であるとか、高潔な種族であるとか、そういうブランディングで名乗っているなら、俺は改名を提案などしない。

 むしろエルベシアという種族が、差別的な受ける立場にある、つまりスティグマだからである。


「俺は別にリンの種族に対して、今更どうこう思ってない。種族なんか生まれつきのもんで、自分で選べたり、あとから変えられたりできるとか、そういう類の話、でもないじゃん?」

「そう、ですね」

「嫌だってんなら別にいいし、それはリンの自由なんだが。神都に旅に出るってなると、ほら、国の記録にリンの名前がほぼ確実に残るんだよな」


 旅先で自己紹介する必要がある場面もあるかもしれない。

 気軽に「リン」で通せる状況ならまだしも、フルネームで自己紹介せねばならない相手や状況もあり得るのである。

 「リンネ・エルベシア」のフルネームを聞いた相手が、リンに不利益な扱いをするみたいな状況があったとして、それはリンの望んだことではないだろうし、望まないのは俺も同じである。


「今だったら俺、政務院と関係近いしさ。改名した方の名前で記録を残せるようにとか、ロイドとかに口利きじゃないけど、色々話通しやすいと思って」

「でもこれは親から貰った名前ですし……」

「そりゃそうかもしれんけど、リンの昔話聞いてる限り、普通にいい親じゃん。そんな親が自分の娘にそんな名前を嬉々としてつけるわけないじゃん。なんかカスの村人に言われて渋々つけたんじゃないの?」

「そう、かもしれませんけど――こんな名前でも親の形見みたいなもので……」


 名前を変えたら、別人になって、その……家族との繋がりまで消えてしまう気がするんです。


 リンは言いにくそうに答えた。

 俺はリンの改名はメリットしかないと思っていたが、彼女がそう返してくることは思いもよらなかった。

 彼女の家族は、故郷で村人の焼き討ちに遭って、もうこの世にはいない。


「まあ……今すぐここで決めろって話でもないし、するもしないもリンの自由だし」

「…………。」

「ひとまず、改名したいと思ったら、俺に言ってほしい。飛行艇の改修が完了して旅に出れる状態になる前に」

「考えておきます」



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