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『迷宮都市の監査官 ――その横領、差し押さえます――』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/19
静かな帳簿に、
今日も赤い数字が滲んでいる。

剣を振るう者は英雄と呼ばれ、
血を流す者は称えられる。
だが、
誰も数えなかった。

帰らなかった新人の数を。
補償金の消えた遺族を。
削られた鉄の重さを。
誰かの懐へ消えた命の値段を。

迷宮都市オウラム。
そこは夢を喰う街。

富は上へ、
死は下へ。

笑う貴族の指先で、
今日も帳簿の数字が書き換わる。

――そのはずだった。

黒衣の男が来るまでは。

死んだ魚のような目。
疲れ切った背中。
剣も持たず、
魔法も使えず、
ただ一冊の帳簿を抱えた男。

カイル・クロムウェル。

彼は怒鳴らない。
裁きを叫ばない。
正義を語らない。

ただ静かに、
算盤を弾く。

ひとつ。
ふたつ。
みっつ。

積み上がる不正。
繋がる因果。
暴かれる嘘。

そして男は告げる。

> 「差額が合いませんね」

その瞬間、
積み上げた権力は崩れ始める。

凍る魔力。
止まる資金。
砕ける虚栄。

誰より冷たく、
誰より公平に。

感情ではなく、
計算で世界を裁く。

夜。
裏路地の小さな食堂。

湯気の立つ魔汁煮込み。
黒パン。
少し酸っぱい酢漬け。

銅貨三枚。
それでも温かい食事。

それを前にした時だけ、
男は少しだけ人間に戻る。

この街は腐っている。
だが、
腐敗にも終わりは来る。

なぜなら。

嘘はいつか、
数字に負けるからだ。
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