黒陽黙示録アベル ― RE:NEHEMOS
最新エピソード掲載日:2026/08/30
この世界の理は、ひとつしかない。
観測が、現実を決める。見られたものは在り、名を呼ばれたものは定まり、書き留められたものは、二度と動かなくなる。
だから、雪に触れた人間は石になる。そういう形のものとして、決められてしまうからだ。そして誰にも名を呼ばれずに死んだ者は、逆に確定を失う。生きたのか、死んだのか。愛したのか、憎んだのか。すべてが可能性の泥に溶けて、あり得た人生の亡霊を引き連れたまま、終わることができなくなる。
アベル=レギスは、世界最後の弔い人である。
その泥の中から本当の名をひとつ選び取り、自らの腕に刻む。刻まれた者は、ようやく終われる。彼の躯は、そうやって、無数の他人の名で埋まっている。自分の身体を、墓地にしているのだ。
だが、名を刻むとは、決めてしまうということだ。
選ばれなかったあり得た人生は、彼が消したことになる。
これは、救済の物語ではない。灰の降る世界を、たった一人で歩き続ける男が、誰かを終わらせるたびに、少しずつ何かを失っていく話である。
観測が、現実を決める。見られたものは在り、名を呼ばれたものは定まり、書き留められたものは、二度と動かなくなる。
だから、雪に触れた人間は石になる。そういう形のものとして、決められてしまうからだ。そして誰にも名を呼ばれずに死んだ者は、逆に確定を失う。生きたのか、死んだのか。愛したのか、憎んだのか。すべてが可能性の泥に溶けて、あり得た人生の亡霊を引き連れたまま、終わることができなくなる。
アベル=レギスは、世界最後の弔い人である。
その泥の中から本当の名をひとつ選び取り、自らの腕に刻む。刻まれた者は、ようやく終われる。彼の躯は、そうやって、無数の他人の名で埋まっている。自分の身体を、墓地にしているのだ。
だが、名を刻むとは、決めてしまうということだ。
選ばれなかったあり得た人生は、彼が消したことになる。
これは、救済の物語ではない。灰の降る世界を、たった一人で歩き続ける男が、誰かを終わらせるたびに、少しずつ何かを失っていく話である。