「お前が我慢すればいい」と十年言われ続けたので、おばあ様に言いつけました ~辺境を三十年守った元・伯爵夫人が、婚約者の家ごと片付けにいらっしゃいます~
最新エピソード掲載日:2026/08/22
約束の日に、婚約者は来ませんでした。十年で、これが何度目かは数えておりません。
贈り物は、いつのまにか妹のものになっておりました。「エルザのほうが似合うもの」と、母が申しますので。
父は笑って、こう言いました。男とは、そういうものだ。
そして母が、十年、同じ言葉を言い続けました。
「お前が我慢すればいい」
わたくしは我慢が上手でございます。十年、一度も泣きませんでした。それだけが取り柄でございました。
でも、その夜だけは、なぜか手が勝手に動きました。
生まれて初めて、辺境のおばあ様へ、手紙を書いたのです。
――三日後の朝。玄関の扉が、ドガンと激しく外から蹴り開けられました。
七十六歳。辺境を三十年守り抜いた、元・伯爵夫人。
おばあ様は、帳簿もお持ちになりません。証拠も、お集めになりません。
ただ、その場にいる方へ順に、一言ずつおっしゃるだけです。
すると婚約者も、そのご両親も、わたくしの実家までもが、勝手に崩れてまいります。
ただし――おばあ様は、代わりには言ってくださいません。
「あたしは三つしか決めてない。呼ばれなきゃ行かない。代わりには言わない。一度に一つだけ」
最後の一言は、いつも、わたくしの番で止まります。
十年ぶん我慢した娘が、「言っていい」を覚えるまでの話です。
おばあ様の後ろには、辺境から来た無愛想な若者がひとり立っております。彼は、思ったことを、そのまま言います。
「ふんっ! で、どいつだい?」
贈り物は、いつのまにか妹のものになっておりました。「エルザのほうが似合うもの」と、母が申しますので。
父は笑って、こう言いました。男とは、そういうものだ。
そして母が、十年、同じ言葉を言い続けました。
「お前が我慢すればいい」
わたくしは我慢が上手でございます。十年、一度も泣きませんでした。それだけが取り柄でございました。
でも、その夜だけは、なぜか手が勝手に動きました。
生まれて初めて、辺境のおばあ様へ、手紙を書いたのです。
――三日後の朝。玄関の扉が、ドガンと激しく外から蹴り開けられました。
七十六歳。辺境を三十年守り抜いた、元・伯爵夫人。
おばあ様は、帳簿もお持ちになりません。証拠も、お集めになりません。
ただ、その場にいる方へ順に、一言ずつおっしゃるだけです。
すると婚約者も、そのご両親も、わたくしの実家までもが、勝手に崩れてまいります。
ただし――おばあ様は、代わりには言ってくださいません。
「あたしは三つしか決めてない。呼ばれなきゃ行かない。代わりには言わない。一度に一つだけ」
最後の一言は、いつも、わたくしの番で止まります。
十年ぶん我慢した娘が、「言っていい」を覚えるまでの話です。
おばあ様の後ろには、辺境から来た無愛想な若者がひとり立っております。彼は、思ったことを、そのまま言います。
「ふんっ! で、どいつだい?」
1. 「お前が我慢すればいい」と十年言われ続けたので、おばあ様に言いつけました
2026/08/19 00:00
2. おばあ様は、代わりには言ってくださらない
2026/08/19 09:27
3. その贈り物は、十年ぶん妹のものでした
2026/08/19 12:30
4. 東の砦で、麦を召し上がった方から順に
2026/08/19 17:30
5. 照れ隠しでしたら、もう一度おっしゃって
2026/08/19 20:30
6. では、どうすればよかったのか、と初めてお訊きになりました
2026/08/20 11:15
7. いっそ妹と取り替えては、と申し出がございました
2026/08/21 10:55
8. お姉様が下がると、わたしの行き場が無くなります
2026/08/21 16:30
9. 東は、四月でも雪だそうでございます
2026/08/21 21:54
10. 家のためだとおっしゃいますので、畑のお話をいたしました
2026/08/22 08:30
11. おばあ様が東へお帰りになりましたので、誰も訊いてくださいません
2026/08/22 12:30