柊メンタルクリニック

　十五歳の夏、月島歩の姉は学校の屋上から飛び降りて死んだ。

　自殺した理由は謎に包まれたままだったが、歩は自分が姉を見殺しにしてしまったと責任を感じ、いつしかカウンセラーを目指すようになる。

　しかし、歩にとって、それは夢という希望ではなく、償いという呪いだった。

　それから六年の月日が経ち、歩が二十一歳になったある日、裏稼業でカウンセリングをしている【柊メンタルクリニック】の柊和花へ、誤ってコンタクトを取ってしまう。

　柊メンタルクリニックは、事務所を持たず、柊和花とその妹の柊柚の二人だけで、世間には公表せず、こっそりと営業している。

　柊メンタルクリニックのカウンセリング方法は特殊で、カウセリング対象者とは直接、対話することはせずに、対象者に見合った物語をプロデュースするといった方法をとっていた。

　誤ってコンタクトを取ってしまった歩は、そのカウンセリング方法に興味があったものの、必要以上に関わることを避け、その場を去ることに。

　しかし、それから三ヶ月経ったある日の事。歩の親友、宇佐美蓮の母親が交通事故で死んだという悲報を耳にする。

　母親の死により、蓮の妹、宇佐美くるみが家に引き篭ってしまう事態に発展。蓮のお願いで、歩はくるみの説得を行い、無事に家から出すことに成功する。

　ところが、母親を失った精神的なダメージは想像以上に大きく、いつしかくるみは母親の後を追う様子すらみせる、危うい状態であることに歩は早い段階で察し、カウンセリングに行くことを勧めるが、くるみはそれを頑なに拒む八方塞がりの状況に。

　そこで歩は以前、出会った柊メンタルクリニックの存在を思い出し、連絡をとり、宇佐美くるみをカウンセリングする為、物語のプロデュースを依頼。

　数週間後、和花から物語が完成したと連絡を受ける。

　柊クリニックが手掛けたくるみを助ける、くるみだけの物語とはいかに。

　※【2018年2月完結作品】
　※【ポプラ社小説新人賞】一次選考通過作品をWeb用に改稿した小説です。