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柊メンタルクリニック  作者: 結城智
第2章 依頼
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第18話 プロデュース

 柊メンタルクリニックに依頼してから二十日過ぎた。


 あれから、一度も音沙汰なしの状態だ。


 最初は「シナリオ書いているんじゃないか?」なんて軽口叩いていた蓮も、二週間経っても連絡がないことを知ると、毎日のように「連絡きたか?」という催促に近い連絡が入ってくるようになった。


 それから心配になった僕は、何度か蓮の家に足を運ばせるようになった。


 くるみちゃんは元気がないだけではなく、鬱に近い状態になっており、精神的に衰弱していた。無理をしている、それは誰から見ても明白だったと思う。


 くるみちゃんに対して学校の先生は、休むことを勧めたが、くるみちゃんはそれを強く拒み、絶対に学校を休むことをしなかったようだ。


「大丈夫。歩ちゃんと約束したから、部屋にはもう閉じこもらないよ。それにさ、ここで、閉じこもったら、もう戻れなくなると思うんだ」


 驚いたことに、くるみちゃんは、鬱の状態であっても、自分自身の危うさを冷静に認識していた。


 もう戻れなくなる。無理に外に出した代償がそこにはあった。


 僕もくるみちゃんの話しに耳を傾け、励まし続けた。時には、無理に学校に行かなくていいじゃない。といって、前に進もうとするくるみちゃんの手を引き留める言葉を口にした。


 精神的に病み、部屋に閉じこもっている人間を無理に外へ出す代償。それは悪化だ。

実際、家に閉じこもっている人間を無理に出した結果、また家に閉じこもり、以前よりも外に出ることを拒否するケースがある。


 でも、一番、最悪なケースは、外に出てから、自殺してしまうこと。


 だから、カウンセラーの先生達は、患者に対して外の世界に出すことを強要しない。仮に出すにしても、最初は散歩だけ。慣れてきたら、学校の前まで行く。など、慎重過ぎると呼ぶほどの順を踏むのが鉄則。なのに、僕はそのルールを破り、くるみちゃんを外の世界に出してしまった。


 大袈裟すぎないか? と思うだろう。でも、油断は禁物。人の心ほど予測できないものはない。


 癌という目に見える病気なら検査で発見し、その悪化状況を医者が判断できるかもしれない。でも、心の病気はなにかのものさしでは測れない。なにを切っ掛けに、爆発する。それはカウンセリングの先生は愚か、自分自身すらわからないものだ。


 この二十日の間、行動に移したのは、僕や蓮だけではなかった。


 くるみちゃんの様子を心配して、親戚の誰かが、カウンセリングを勧めたようだが、蓮の予想通り、くるみちゃんは頑なに拒否しているようだ。


 進捗を確認するため、僕は和花さんに電話するが「もう少し、待ちなさい」と、子供に言い聞かすような、落ち着いた口調で和花さんは喋っていた。早くして欲しいと急かしたが、マイペースな和花さんは、自分のペースを崩すことはけしてしなかった。


 時間は残酷にも流れていき、くるみちゃんも自我を制御するのも疲れたのか、死んだ魚のような目になっていく。


「お母さんのところに行きたい」

「私がお母さんを殺したようなものだから、責任を取りたい」


 いつしか、そんな風に、死を望むようなことを口にするようになった。


「そんなこと言ったら、お母さんが悲しむよ」


 僕は必死にくるみちゃんに対し、そう言い聞かせたが、そんな取って付けたような言葉が、くるみちゃんの心に届くはずもないのは百も承知だった。


 くるみちゃんが今、求めている魔法の言葉はなんだ? どうしたら救えるんだ? 僕は自分の無力さに、苛立ちを覚え始める。その一方で、悠長にしている和花さんに強い憤りを感じていた。


 もう、和花さんからは連絡がこないのかもしれない。そもそも、あんな人を信用したのが、間違いだったのかもしれない。そう思い始めていきた。


 はんば、諦めていたのも束の間、和花さんから着信が入ったのは、依頼してから一ヶ月の月日が流れた頃だった。


「お待たせしたわね」


 電話に出ると、和花さんが開口一番に言う。相変わらず、マイペースな口調なので、僕は不快感を覚えた。


「お待たせしたわね、じゃないですよ。遅すぎますよ」

「あら。ずいぶん、ご立腹ね」


 怒る僕を気に留める様子もなく、和花さんは落ち着いた様子だった。


 この人、本当にカウセラーか? 雑な対応を見ると、本当に大丈夫だろうかと不安になってくる。


「シナリオは完成したから、もう安心して大丈夫よ」

「期待していいんですよね?」

「なに、不安なの?」

「正直」


 言うつもりはなかったが、つい溜まった苛立ちのせいで、いらんことを口にしてしまった。


 途端、僕と和花さんの間で、無言の時間が流れる。


「どんなカラクリがあるか、わからないけど……そんなに簡単にいくとは思えない。人の心はそんな単純じゃない」

「そうね。単純じゃないわ。だからこそ、私と柚は時間をかけて念密なシナリオを考えたのよ。宇佐美くるみには、効果絶大なカウンセリングになるはずよ」


 はっきりとした口調で、和花さんは告げる。こっちが尻込みしてしまうほどの自信だ。


「ただね、一つ条件……というか、お願いがあるの」

「なんですか?」

「今回、宇佐美くるみを救う、キーパーソンの役割を、歩君。あなたに務めてもらいたいの」

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