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柊メンタルクリニック  作者: 結城智
第3章 カウセリング開始
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第22話 母の友達

 大抵、物語というのは起承転結があり、最初の起承は緩く始まり、転でクライマックスの重要シーンを持ってくるのが基本だ。


 しかし、和花さんの作る物語は違った。最初が、くるみちゃんにとってみれば一番、重要なクライマックスとなる転が待っていた。


「このシーンは、もう少し後に出来ないですか? もう少し、デートで距離を縮めてから」


 僕が電話で提案すると、考えている様子もなく「却下」と、和花さんに言われた。


「普通の人なら、そう設定したけど。歩君だから、そのシーンを先に設定したのよ」

「どういうことです?」

「だって、このシーンを後に設定したら。歩君、ずっとそのシーンに気持ちが囚われて、前のシーンに集中できないでしょ」


 和花さんは落ち着いた口調で説明する。この時ばかりは、僕も納得してしまった。


 心当たりがある。昔から僕は緊張すると、思考が停止しがちになる性格だ。だからこそ、よく大きな舞台での発表は、自分が一番初めにやっておきたいと思うタイプ。そうでないと、僕の前に発表している友人のスピーチが全然、頭に入ってこないといった経験があった。


 だから、一番、重要な問題を先に解決してから、後は緩やかに、か。確かに、その方が僕には合っているかもしれない。


 最初の登場人物。倉田妙子クラタ タエコさんだ。


今日の十二時に、待ち合わせしている人物。誰かというと、蓮のお母さんの友達。今回、物語に登場する重要人物の一人だ。


 僕達が住む場所から、車三十分ほど離れた場所にあるファミレスで待ち合わせをしていた。

実はこの妙子さんという人。実際に会うのは今日が初めてだが、電話では事前に会話をしていた。


「妙子さん。当日、くるみちゃんに何の話しをするんです?」

「それは秘密」

「和花さんに、なにを言われたんです?」

「それも秘密」

「心配しないでください。くるみちゃんには言わないですから」

「それでもダメ。和花さんに聞いているわよ、あなたのこと」

「頼りないと?」

「そんなことないわ。くるみちゃんを救う、キーパーソンだって。私も期待してるわよ。ただね」


 言葉を濁しながら、妙子さんは笑いを吹き出す。


「あなた、話していてわかったけど。和花さんの言う通りの人ね」

「なんて言われたんです?」

「嘘つけなくて、バカ正直で、不器用すぎる人。だから、くるみちゃんに何を話すかは、事前に話さない方が懸命だって」

「あの人の考えていることはわかりません。僕も今回、登場する必要があったか、正直疑問に感じてます」

「そんなことないわよ」


 溜息混じりに僕が愚痴ると、ぴしゃりとした声で妙子さんは否定した。


「和花さん、言ってたわよ。宇佐美くるみを救えるのは、この世で月島歩しかありえないって」

 と、意味ありげな言葉だけを残し、後は多くは語ってくれなかった。




 さてと、まずはくるみちゃんを説得しないといけない。


 僕は公園から離れ、近くのコンビニに車を停めた。車を停めたのに、外に出る様子がない僕をくるみちゃんは不思議そうに見ていた。


「あれ。なんか買うんじゃないの?」

「くるみちゃん。ちょっと、落ち着いて聞いてくれる?」


 落ち着いた口調で、僕はゆっくりと切り出す。くるみちゃんは、ぽかんとした顔をしていた。


「なに、告白するの? まだ早いと思うけどな」

「いや、そうじゃなくて」

「なんだ。違うの」


 濁すわけでもなく、普通に否定する僕に、くるみちゃんはつまらなそうに口を尖らせていた。

クリスマスイブ。ここまで、ムードのない話しをする人達は果たして、何人いるだだろうか。


「デートの前にさ、会って欲しい人がいるんだ」

「いいよ。誰?」


 唐突に切り出したにも関わらず、くるみちゃんは眉一つ動かさずに頷く。てっきり「なんで?」と言って反抗するか、困惑して静寂の空気が室内に流れるかと思ったが、案外トントン拍子に話しが進んでいく。


「倉田妙子さんって人で」


 名前を言ったところで「誰やねん」と突っ込みが入るかと思いきや、その名前を耳にした途端、くるみちゃんの顔は凍り付いた。


「なんで、歩ちゃんが、妙子さんを知ってるの?」


 くるみちゃんの表情は険しかった。完全に僕を疑っているような目だった。


「知っているの?」

「知っているよ。妙子さんって、お母さんの友達でしょ。といっても、最後に会ったのは小学校低学年くらいの時かな。それ以降、妙子さんは県外に引っ越したし。今はお母さんと、年賀状でのやり取りしかしてなかったと思ってたけど」


 なるほど。今は音沙汰ないものの、昔は顔なじみだった人。ただ、くるみちゃんのお母さんとは友達だったが、くるみちゃんとは特別、親密って仲ではなさそうだ。


 母親の友達。うっすらの記憶に残っている人物。和花さんはそれを、どういう登場人物として、扱うというのだろう。


「で、なんでよ?」


 僕が思考を巡らせていると、横からくるみちゃんの疑う視線が刺さってくる。質問に答えなさい、と言いたげな顔だ。


「ああ。妙子さんさ、くるみちゃんのお母さんが死んだ時、葬式に行けなくて。線香あげに今、こっちに来たみたいなんだよ。でね、くるみちゃんの話しを聞いたら、一度会いたいって」

「私が聞いているのはそうじゃなくて。なんで、歩ちゃんが妙子さんのこと知ってるの? 妙子さんと歩ちゃん、面識ないよね? お兄ちゃんやお父さんが言うならまだしも」


 想定内の質問に僕はホッとする。


 実は和花さんにもらった物語には、スケジュールと一緒に、くるみちゃんがしてくるだろう質問と、その対処、回答という項目もあった。今されている質問も、その中にあった項目だった為、僕は冷静に対処することができる。


 なんだか、書店で売っている面接マニュアルみたいで、答えるのに抵抗あるけど、言葉に詰まるよりは全然いいだろう。


「実は昨日、蓮に本返しに行った際、妙子さんと玄関口でばったり遭遇したんだよ。僕も昨日、初めて会ったんだけど、そこで妙子の素性を知ったんだ。蓮には会ったようだけど、くるみちゃんとはその時、留守だったから会えなくて」

「それで?」

「僕が明日、くるみちゃんと会うって話ししたら、少し時間もらえないかって言われたんだよ。どうやら、くるみちゃんに、大事な話しがあるみたいで」 

「大事な話し? なら、私が帰ってくるまで、待っていたら良かったのに」

「いや、昨日は、その後に用事があったみたいで」

「にしても、電話や言付けでもいいんじゃない。なんで、よりにもよって、歩ちゃんのデートを邪魔するかなぁ」


 と、くるみちゃんは訝しげに眉を顰める。


 確かに大事な話しがあるからって普通、人のデート中に時間を割いてくれ、という人もいないよな。しかも、初対面の相手に。しかも、クリスマスイブに。


 この説明はさすがに苦しくないか? と疑問に思ったが、くるみちゃんは宙を見上げながら頷いていた。


「まあ、妙子さん。昔から結構、強引なところがあった人だしね。あの人なら、やりかねないか」


 どうやら、くるみちゃんは納得してくれたようだ。結果オーライだな。


「でも、なんだろう? 私に話って」

「それは僕にもわからない」


 そこだけは本音だった。だからこそ、不安は拭えない。


 倉田妙子さんが、一体、くるみちゃんに対し、なにを話すというのだろう。


 そして、それはくるみちゃんの心を動かすものなのだろうか?

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