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柊メンタルクリニック  作者: 結城智
第3章 カウセリング開始
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第21話 デート

 十二月二十四日。クリスマスイブ当日。ついに運命の日がやってきた。


 僕は朝早めに起きると、和花さんからもらった用紙(今日のスケジュール)を入念にチェックする。


 貰った日から、ずっと読んでいたので記憶はしている。心配なので、持っていきたいが、これがくるみちゃんの目に触れたら計画は失敗に終わるから、行く場所だけスマホにメモっておく。


「あれま。あんた、いつの間に彼女出来たの?」


 出かける前に、居間で母さんと鉢合わせしてしまった。バレると質問責めになるから、さっさと家から出ようと思ったのに、ついていない。


 服装が蓮や他の男友達と、遊ぶ時とは違うため、無駄に鋭い母さんが見逃すはずがなかった。


「彼女じゃないよ」

「はっ? なに、男友達?」

「男友達でもない」

「意味不明なんですけど?」

「もう、誰でもいいじゃない」


 やっぱり、面倒くさい。てか、正直に話そうとする僕もバカなんだろうな。でも、とっさの嘘がどうしてもで出て来ない。


 男友達だよ。えっ、今日、クリスマス? そんなの知ってるよ。母さん、実は僕、ホモなんだ。デヘヘヘって言えば、うるさい母さんも黙ってくれるだろうか。


「まあ、いいわ。ちゃんと、避妊しなさいよ」


 聞きだすのを諦めて、母さんは溜息を漏らす。


「いやいや、母親の言うセリフとは思えないんですけど」


 幻滅した。姉さんが死んで母さん、頭が可笑しくなってしまったのだろうか……いや、違うな。元からこんな人だった気がする。


「何言ってんのよ、大事なことよ。母さん、嫌よ。どこの子か、知らないような娘の家に、南瓜持って謝りに行くの。きっと、相手側の父親に言われるのよ。月島さん、誠意って何かねって」

「母さん。その発言、いろいろ問題になるから、辞めた方がいいと思うよ」


 なんだか、放送禁止用語を口にしてしまっている気がしたので、僕は母さんを黙らせた。というか、今の若い子達は知らないか。知っている僕が可笑しいのかも。


「夜、普通に帰ってくるから安心して」

「はっ、なに? 普通に帰ってきちゃうの?」


 目を見開いて、母さんはガッカリしたような顔をする。


 これ以上、この人のペースに付き合ってられないと思い、僕はそのまま、家を出た。




 くるみちゃんは、家の前まで迎えに行くといった僕の提案を断り、家の近くにある公園で待ち合わせに変更となった。


 どうやら、蓮に見つかると、いろいろ面倒だから。との事。


 蓮の奴、僕にはあまり見せないけど、普段はかなりシンコンなんだろうな。そういえば、女の子にデート誘われたりすると、平気で「その日は、妹と出かける用事あるから」と恥ずかしげもなく、口にして断るという噂が聞いたことがある。


 妹だけじゃない。蓮は普通に彼女とのデートより、僕の約束を優先させてしまう。


 後々それを知った僕は、なんで彼女を優先させないんだ? と言うと、首を傾げて「なんで、友達よりも彼女を優先しなければいけないんだ?」と、真剣に悩む蓮の顔を見て以来、僕はあまりその話題について、口煩く言うのを辞めた。


 しかし、女の子に対して媚びていないその姿が、逆に男らしいと思われるようで、一時期、蓮の周りで女性関係の話題は絶えなかった。


 しかし、彼女が出来ても何故か長続きしない。それが、蓮の問題なのか、彼女の問題なのかわからないが、さすがに別れた直後は蓮も落ち込んだ様子で「僕ってダメな奴だよなぁ」と、口にしていることが度々あった。


 特別扱いを好む女の子にとって、蓮が彼氏というのは、非常に都合の悪いのかもしれない。


 根は思いやりがある優しい奴なので、最近、蓮は女の子と接触するのを避ける傾向にあった。無意識な行動故、本人はそのことに気付いていないようだが。


 公園近くで車を停める。十一時ぴったりで、くるみちゃんは来た。助手席のドアを開け「歩ちゃん。お待たせ」と、声をかける。


 くるみちゃんの格好は、普段よりもお洒落だった。今日はクリスマスイブ。相手が誰でも、女の子は服装に力を入れる日なのだろう。それに心なしか、今日のくるみちゃんは少し元気に見える。


 車に乗ってから、くるみちゃんは腕を組み、首を傾げながら「うーん」と唸っていた。


「どうしたの?」

「うん。実はさ、今日こっそり家出ようとしたら、お兄ちゃんと鉢合わせしてさ。やばいと思ったのに」

「思ったのに?」

「私見て、ニコッと笑うと、いってらっしゃい、だって。びっくりしちゃった。止めるわけでもなく、どこに行くかを問うわけでもなく」


 そりゃそうだろう。蓮は全てを知っているのだから。なんなら、僕達が今日行くデートコースだって、蓮は全て把握している。


「もしかして、今日のこと、お兄ちゃんに言った?」


 さすがに鋭い。くるみちゃんは、僕の顔を疑うように覗き込む。


「言わないよ。蓮だって、わかったら、絶対に許さないでしょ」


 今回はやむを得ずの展開だから、蓮は承認したまでの事。なにもない状態で、くるみちゃんをデートに誘ったら、蓮だって許さないだろう。


「そんなことないと思うよ。他の人だったら、許さないと思うけど。歩ちゃんだったら渋々とした顔しながらも、応援してくれると思うな」


 くるみちゃんは、口元を緩めて、少し誇らしい顔をする。


「どっちにしろ、良かったじゃない。僕なんか、母さんに捕まって、大変だったんだよ」

「えっ。なんて言われたの?」

「人様の家に、南瓜持っていくようなことするな、だって」

「どういうこと?」

「知らなくていいよ」


 説明したら、くるみちゃんに軽蔑した顔をされるだろう。ここは伏せておいた方が正解だ。

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