第21話 デート
十二月二十四日。クリスマスイブ当日。ついに運命の日がやってきた。
僕は朝早めに起きると、和花さんからもらった用紙(今日のスケジュール)を入念にチェックする。
貰った日から、ずっと読んでいたので記憶はしている。心配なので、持っていきたいが、これがくるみちゃんの目に触れたら計画は失敗に終わるから、行く場所だけスマホにメモっておく。
「あれま。あんた、いつの間に彼女出来たの?」
出かける前に、居間で母さんと鉢合わせしてしまった。バレると質問責めになるから、さっさと家から出ようと思ったのに、ついていない。
服装が蓮や他の男友達と、遊ぶ時とは違うため、無駄に鋭い母さんが見逃すはずがなかった。
「彼女じゃないよ」
「はっ? なに、男友達?」
「男友達でもない」
「意味不明なんですけど?」
「もう、誰でもいいじゃない」
やっぱり、面倒くさい。てか、正直に話そうとする僕もバカなんだろうな。でも、とっさの嘘がどうしてもで出て来ない。
男友達だよ。えっ、今日、クリスマス? そんなの知ってるよ。母さん、実は僕、ホモなんだ。デヘヘヘって言えば、うるさい母さんも黙ってくれるだろうか。
「まあ、いいわ。ちゃんと、避妊しなさいよ」
聞きだすのを諦めて、母さんは溜息を漏らす。
「いやいや、母親の言うセリフとは思えないんですけど」
幻滅した。姉さんが死んで母さん、頭が可笑しくなってしまったのだろうか……いや、違うな。元からこんな人だった気がする。
「何言ってんのよ、大事なことよ。母さん、嫌よ。どこの子か、知らないような娘の家に、南瓜持って謝りに行くの。きっと、相手側の父親に言われるのよ。月島さん、誠意って何かねって」
「母さん。その発言、いろいろ問題になるから、辞めた方がいいと思うよ」
なんだか、放送禁止用語を口にしてしまっている気がしたので、僕は母さんを黙らせた。というか、今の若い子達は知らないか。知っている僕が可笑しいのかも。
「夜、普通に帰ってくるから安心して」
「はっ、なに? 普通に帰ってきちゃうの?」
目を見開いて、母さんはガッカリしたような顔をする。
これ以上、この人のペースに付き合ってられないと思い、僕はそのまま、家を出た。
くるみちゃんは、家の前まで迎えに行くといった僕の提案を断り、家の近くにある公園で待ち合わせに変更となった。
どうやら、蓮に見つかると、いろいろ面倒だから。との事。
蓮の奴、僕にはあまり見せないけど、普段はかなりシンコンなんだろうな。そういえば、女の子にデート誘われたりすると、平気で「その日は、妹と出かける用事あるから」と恥ずかしげもなく、口にして断るという噂が聞いたことがある。
妹だけじゃない。蓮は普通に彼女とのデートより、僕の約束を優先させてしまう。
後々それを知った僕は、なんで彼女を優先させないんだ? と言うと、首を傾げて「なんで、友達よりも彼女を優先しなければいけないんだ?」と、真剣に悩む蓮の顔を見て以来、僕はあまりその話題について、口煩く言うのを辞めた。
しかし、女の子に対して媚びていないその姿が、逆に男らしいと思われるようで、一時期、蓮の周りで女性関係の話題は絶えなかった。
しかし、彼女が出来ても何故か長続きしない。それが、蓮の問題なのか、彼女の問題なのかわからないが、さすがに別れた直後は蓮も落ち込んだ様子で「僕ってダメな奴だよなぁ」と、口にしていることが度々あった。
特別扱いを好む女の子にとって、蓮が彼氏というのは、非常に都合の悪いのかもしれない。
根は思いやりがある優しい奴なので、最近、蓮は女の子と接触するのを避ける傾向にあった。無意識な行動故、本人はそのことに気付いていないようだが。
公園近くで車を停める。十一時ぴったりで、くるみちゃんは来た。助手席のドアを開け「歩ちゃん。お待たせ」と、声をかける。
くるみちゃんの格好は、普段よりもお洒落だった。今日はクリスマスイブ。相手が誰でも、女の子は服装に力を入れる日なのだろう。それに心なしか、今日のくるみちゃんは少し元気に見える。
車に乗ってから、くるみちゃんは腕を組み、首を傾げながら「うーん」と唸っていた。
「どうしたの?」
「うん。実はさ、今日こっそり家出ようとしたら、お兄ちゃんと鉢合わせしてさ。やばいと思ったのに」
「思ったのに?」
「私見て、ニコッと笑うと、いってらっしゃい、だって。びっくりしちゃった。止めるわけでもなく、どこに行くかを問うわけでもなく」
そりゃそうだろう。蓮は全てを知っているのだから。なんなら、僕達が今日行くデートコースだって、蓮は全て把握している。
「もしかして、今日のこと、お兄ちゃんに言った?」
さすがに鋭い。くるみちゃんは、僕の顔を疑うように覗き込む。
「言わないよ。蓮だって、わかったら、絶対に許さないでしょ」
今回はやむを得ずの展開だから、蓮は承認したまでの事。なにもない状態で、くるみちゃんをデートに誘ったら、蓮だって許さないだろう。
「そんなことないと思うよ。他の人だったら、許さないと思うけど。歩ちゃんだったら渋々とした顔しながらも、応援してくれると思うな」
くるみちゃんは、口元を緩めて、少し誇らしい顔をする。
「どっちにしろ、良かったじゃない。僕なんか、母さんに捕まって、大変だったんだよ」
「えっ。なんて言われたの?」
「人様の家に、南瓜持っていくようなことするな、だって」
「どういうこと?」
「知らなくていいよ」
説明したら、くるみちゃんに軽蔑した顔をされるだろう。ここは伏せておいた方が正解だ。




