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柊メンタルクリニック  作者: 結城智
第3章 カウセリング開始
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第20話 誘い

 帰り道、僕は蓮を送る為。そして、くるみちゃんをデートに誘う為、蓮の家まで車を走らせていた。


 僕はくるみちゃんをどうデートに誘うか、考えながら運転していたため、車内での会話は少ない状態になっていたが、不意に蓮が「なぁ」と声をかけてきた。


「お前さ、和花さんのやり方、そんなに嫌いなのか?」

「……いや、嫌いっていうか」


 てっきり、くるみちゃんの話題かと構えていたので、僕は少し面食らい、返事が遅れてしまう。


「カウンセリングって本来、時間をかける行うものなんだよ。なかなか、最初は心開かなくても、辛抱強く対応することで、相手も心を開いてくれる。そして、少しずつ相手の不安を払拭させてあげるものなんだ。でも、和花さんは違う。物語なんて、体のいいこと言って、自分は直接関わらないなんて、卑怯だと思う」

「でもよ。カウンセリングを受けたくないって、頑なに拒否する、くみるみたいな奴はどう対応するんだ?」

「そ、それは」


 言い返す言葉が思い浮かばない。確かに、やり方が気に食わないとか言いながらも、くるみちゃんは普通にカウンセリングを受ける子じゃない。そう思ったからこそ、今回、和花さんに助けを求めたのだ。


「うまく言えないけどさ。俺は和花さん、悪い人じゃないと思うんだよな。確かに言い方はきついけど。なんだろうな。ほら、なにより、美人だしよ」

「美人は関係ないでしょ」


 ボケたいのか、本心なのかはわからないけど、一応突っ込んでおく。


 でも、蓮の言いたいことはわかる。僕だって和花さんを悪い人だとは、本気で思ってはいない。


 でも、好きにはなれなかった。


 きっと、カウンセラーを志す者にとって、和花さんは面白くない人物なのかもしれない。

前に和花さんが、同業者は自分達を嫌う、といった言葉の意味も今なら理解できる気がする。和花さんのやっていることを受け入れられるか? それは和花さんと柚ちゃんがプロデュースした物語を実行した後、答えが出るはずだ。


 まあ、くるみちゃんが、出演のオファーをOKしてくれなければ、話しにもならないのだけど。




 到着後、僕は車を降り、蓮の家を見上げていた。


 心臓が高鳴る。くるみちゃんを、どう誘うかまだ決めかねていた。


「まあ、家に入れよ。まだ、くるみ帰ってきてないだろうし。一緒に誘い方、考えてやるよ」


 リラックスさせようと、蓮は背後から僕の肩に手を回す。


 そうだな。蓮はモテて、経験豊富だし、アドバイスをもらった方がいいだろう。と、少し安堵したのも、つかの間の事。蓮の動きが急に止まった。不自然に思い、蓮の視線を追う。


 すると、そこには、くるみちゃんの姿があった。


 制服姿で鞄を持っているところを見ると、ちょうど学校帰りだろう。いやいや、なんて、タイミングが悪いんだ、と嘆きたい気持ちで一杯だった。


「おお。くるみ、おかえり」

「ただいま」


 蓮も僕と同じことを思ったのだろう。普通に声をかけているが、完全に目が泳いでいる。


「うお、そうだ。漏れそうなの、忘れてた」


 そのうえ、トイレを言い訳に蓮は猛ダッシュで、玄関に入っていく。


 裏切り者め。止める暇もなく、去って行く蓮の後ろ姿を見て、僕は心の中で毒付いていた。


「歩ちゃん。今日はお兄ちゃんとお出かけしてたの」

「あっ、うん。ちょうど今、帰ってきたところだよ」


 くるみちゃんに話しかけられ、僕は慌てて振り返った。


 普通通りに接してくれているようだが、やはり、覇気が感じられない。もともとは煩いくらいで、人懐っこくて、明るい子だったから、この変貌ぶりにはいつも戸惑いを覚える。


 お母さんが死んでから、二ヶ月ほどしか経っていないから、本調子に戻らないのはわかるが、日に日に衰弱しているように見えるのは、さすがに心配だ。


「あ、あのさ、くるみちゃん」

「なに?」

「クリスマスイブの日、なにか予定ある?」


 ジャブ打ってから、聞く予定だったはずが、いきなり振りかぶったパンチをお見舞いしてしまう。やばいと内心思いつつ、くるみちゃんの様子を伺った。


「どうして、そんなこと聞くの?」


 すると、まさかのカウンターが飛んできた。僕の経験値では対応しきれない攻防だ。


「一緒に、どっか行かない?」

「お兄ちゃんと三人で?」

「いや、僕とくるみちゃん、二人きりで」


 僕はとにかく、噛まないように喋り続けることをだけを心がける。


 普段は妹のように思っているくるみちゃんも、この時は何故か意識してしまい、心臓が爆発しそうだった。


 くるみちゃんは一瞬、驚いたように目をぱちくりさせたが、次の瞬間、不機嫌に顔を顰めた。


「もしかして、お兄ちゃんに頼まれた?」


 なにを思ったか、くるみちゃんは変な勘繰りを入れてきた。


「違うよ」

「じゃあ、なんで? クリスマスイブだよ」

「そうだね」

「そうだね、じゃないよ。おかしいよね。だって、歩ちゃん、私のこと好きじゃないでしょ。なのに、なんで?」


 くるみちゃんが困惑するのはごもっともだと思う。


 勘違いでもいいから、もしかして、私のこと……と思って、顔を赤らめてくれた方が展開的には助かるんだけど、くるみちゃんは意外にも冷静で、そんな自惚れを抱かない子だった。


 まずいな。ここで、あんまり話しを長引かせると、同情ではないか? とか、またカウンセリングに連れて行こうとするんじゃないか。とか、変な勘繰りをさせてしまう。メンタルが弱っている今なら尚更のこと。


「歩ちゃん。クリスマスイブなんだからさ、彼女と一緒に過ごしなよ」

「僕、彼女いないんですけど」

「えっ。そうなの? まあ、そんな気はしてたけど」


 くるみちゃんは驚いた様子もなく、納得している。なんだろう、この敗北感。なんだか、涙が出ちゃうよ。男の子なのに。


「まあ、いいよ。私も今、フリーだし」

「本当?」


 えっ、嘘。なんだかわらかないうちに、承認をもらえた。


 知らずの内に第一関門突破。突破できると思わなかった僕は、誘っておきながら、かなり困惑してしまった。


「何考えてるか知らないけど、歩ちゃんが自分から誘ってくるなんて、普段なら有り得ないことだし」

「そんなことないでしょ」

「そんなことあるよ。まあ、いろいろ考えてくれての行動なんでしょ。興味あるから、付き合ってあげる」


 なにか企んでいる、というのは完全にばれてしまっているが、まあ、ここは結果オーライにしておこう。


 良かったと胸を撫でおろしていると、急にくるみちゃんが僕の脇腹を指でつつき、耳元で囁いた。


「でも、お兄ちゃんには内緒だよ」

「えっ。うん。いいけど、なんで?」

「だって、お兄ちゃん。すぐ、ヤキモチ焼くから」

「ああ、そうだね」


 僕は話しを合わせて頷いた。


 君のお兄さん、僕が今、デートに誘っているのも知ってるよ。漏れそうって、さっき、逃げていったのは演技だよ。とか、口が裂けても言える状況ではなかった。

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