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柊メンタルクリニック  作者: 結城智
第3章 カウセリング開始
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第25話 友達の想い

 二十分くらい経ってからだろうか。くるみちゃんが席に戻ってきた。


 泣いていたのだろうか。目尻にはうっすらと涙の跡が残っている。


「お待たせしました。ごめんなさい、少し動揺しちゃって」


 一言そう切り出しながら、くるみちゃんは席に腰を落とした。そして、真っ直ぐ妙子さんの方を見た。


「妙子さん。一つだけ聞いていいですか? どうしても理解できないことがあって」

「なにかしら?」

「なんで、話してくれたんです?」


 くるみちゃんの率直な問いに、妙子さんは面食らった顔をした。


「だって、黙っていたところで、誰も気付かなったでしょ。私が傷ついているって知ってても、知らん顔してれば、よかったじゃないですか。だって、妙子さんはお母さんの友達でしょ。私のことなんて、別にどうだっていいんじゃなかったんですか」

「あんた、バカね」


 淡々と喋るくるみちゃんの話しを切り捨てるように、妙子さんは口を挟んだ。


 それは妙子さんには珍しく、怒りと悲しみ、両方を含む複雑な顔をしている。これはきっと、シナリオではない、本当の顔だ。


「私にとってみれば、夏美も、くるみちゃんも一緒。どっちも同じくらい大切なの。夏美が泣くのも、くるみちゃんが泣くのも、どっちも同じくらい辛い。それは、一緒にいた年月とか、関わってきた時間とか、そういうのは関係ないの」


 そう言って、妙子さんは天井を見上げた。


「後、ごめんね。正直な話しをすると、今回の件も謝るとか言ったけど。本当はさ、私自身がすっきりしたかっただけ。ずっと一人で抱えていく覚悟なんてなかったから」


 と、妙子さんは清々しい顔で語る。


 そもそも、妙子さんの話し自体、作られてものであるから、今言った優しい言葉も偽りの言葉だ。


 ただ、なんだろう。きっと、妙子さんは本当にそういう状況になっても、正直に告白するんだろうなと思った。


「一人で抱えなくていいんですよ」

「えっ?」

「だって、お母さんが死んだのは、妙子さんのせいじゃないから。お母さんも、きっと同じこと言うと思うの」


 僕はくるみちゃんの言葉。いや、声に反応し、くるみちゃんの方を見た。


 その声は久々聞く。弾みのあり、活力がある声。最近までずっと、声に活力がなかったから、その変わりようには、すぐに気付いた。


 くるみちゃんは、真っ直ぐな目を妙子さんに向けていた。それは、本来くるみちゃんが持つ、優しく、純粋な目だった。


「だから、こっちに戻ってくることがあったら、必ず家に寄ってください。お母さんに線香をあげて欲しいの」

「いいの? 私のこと、家に入れてくれるの?」


 妙子さんは、少し震えた声になる。それも演技ではなかった。


 きっと、この人はくるみちゃんに拒絶され、今後は門前払いになることも覚悟していたに違いない。


 この人もけして、強い人ではないのだ。さっきは僕に対し、あんな強がりを口にしたけど、きっと怖かったと思う。くるみちゃんに嘘の真実を伝えた後、拒絶されることを。


 でも、拒絶されることより、友達である夏美さん。いや、くるみちゃんを助けたい気持ちの方が勝っていたのだろう。だから、率先して動いた。


「当たり前ですよ。だって、妙子さんは、お母さんの親友なんだから」


 励ますような明るい声で、くるみちゃんは笑う。そしたら、妙子さんは泣いてしまった。


 それも物語の一部だろうか? そう思ったが、それはないと思った。思いたかった。


 きっと、妙子さんの頭の中は、夏美さんやくるみちゃんとの思い出が一気に蘇って、いろんな思いが溢れ出したのかもしれない。


 それに妙子さんだって、くるみちゃんの夏美さんとは2、30年以上の付き合いがある親友。その親友を失ったのだ。くるみちゃんと同じように悲しかったはずだ。


「妙子さん。話してくれてありがとう」


 くるみちゃんは、泣いている妙子さんに対し、頭を深く下げる。


 この物語が、くるみちゃんを救う物語に繋がったのは、直接本人に聞かなくても、くるみちゃんの横顔を見れば、一目瞭然だった。

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