第25話 友達の想い
二十分くらい経ってからだろうか。くるみちゃんが席に戻ってきた。
泣いていたのだろうか。目尻にはうっすらと涙の跡が残っている。
「お待たせしました。ごめんなさい、少し動揺しちゃって」
一言そう切り出しながら、くるみちゃんは席に腰を落とした。そして、真っ直ぐ妙子さんの方を見た。
「妙子さん。一つだけ聞いていいですか? どうしても理解できないことがあって」
「なにかしら?」
「なんで、話してくれたんです?」
くるみちゃんの率直な問いに、妙子さんは面食らった顔をした。
「だって、黙っていたところで、誰も気付かなったでしょ。私が傷ついているって知ってても、知らん顔してれば、よかったじゃないですか。だって、妙子さんはお母さんの友達でしょ。私のことなんて、別にどうだっていいんじゃなかったんですか」
「あんた、バカね」
淡々と喋るくるみちゃんの話しを切り捨てるように、妙子さんは口を挟んだ。
それは妙子さんには珍しく、怒りと悲しみ、両方を含む複雑な顔をしている。これはきっと、シナリオではない、本当の顔だ。
「私にとってみれば、夏美も、くるみちゃんも一緒。どっちも同じくらい大切なの。夏美が泣くのも、くるみちゃんが泣くのも、どっちも同じくらい辛い。それは、一緒にいた年月とか、関わってきた時間とか、そういうのは関係ないの」
そう言って、妙子さんは天井を見上げた。
「後、ごめんね。正直な話しをすると、今回の件も謝るとか言ったけど。本当はさ、私自身がすっきりしたかっただけ。ずっと一人で抱えていく覚悟なんてなかったから」
と、妙子さんは清々しい顔で語る。
そもそも、妙子さんの話し自体、作られてものであるから、今言った優しい言葉も偽りの言葉だ。
ただ、なんだろう。きっと、妙子さんは本当にそういう状況になっても、正直に告白するんだろうなと思った。
「一人で抱えなくていいんですよ」
「えっ?」
「だって、お母さんが死んだのは、妙子さんのせいじゃないから。お母さんも、きっと同じこと言うと思うの」
僕はくるみちゃんの言葉。いや、声に反応し、くるみちゃんの方を見た。
その声は久々聞く。弾みのあり、活力がある声。最近までずっと、声に活力がなかったから、その変わりようには、すぐに気付いた。
くるみちゃんは、真っ直ぐな目を妙子さんに向けていた。それは、本来くるみちゃんが持つ、優しく、純粋な目だった。
「だから、こっちに戻ってくることがあったら、必ず家に寄ってください。お母さんに線香をあげて欲しいの」
「いいの? 私のこと、家に入れてくれるの?」
妙子さんは、少し震えた声になる。それも演技ではなかった。
きっと、この人はくるみちゃんに拒絶され、今後は門前払いになることも覚悟していたに違いない。
この人もけして、強い人ではないのだ。さっきは僕に対し、あんな強がりを口にしたけど、きっと怖かったと思う。くるみちゃんに嘘の真実を伝えた後、拒絶されることを。
でも、拒絶されることより、友達である夏美さん。いや、くるみちゃんを助けたい気持ちの方が勝っていたのだろう。だから、率先して動いた。
「当たり前ですよ。だって、妙子さんは、お母さんの親友なんだから」
励ますような明るい声で、くるみちゃんは笑う。そしたら、妙子さんは泣いてしまった。
それも物語の一部だろうか? そう思ったが、それはないと思った。思いたかった。
きっと、妙子さんの頭の中は、夏美さんやくるみちゃんとの思い出が一気に蘇って、いろんな思いが溢れ出したのかもしれない。
それに妙子さんだって、くるみちゃんの夏美さんとは2、30年以上の付き合いがある親友。その親友を失ったのだ。くるみちゃんと同じように悲しかったはずだ。
「妙子さん。話してくれてありがとう」
くるみちゃんは、泣いている妙子さんに対し、頭を深く下げる。
この物語が、くるみちゃんを救う物語に繋がったのは、直接本人に聞かなくても、くるみちゃんの横顔を見れば、一目瞭然だった。




