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今世では、延命にサインしません

作者:空の異変
最終エピソード掲載日:2026/09/20
浮気夫と強欲姑に人生を壊された私、二周目は一円も払いません。

「奥様、失礼ですが」医師が言葉を選んでいる。「お義母様は、昨日の午後、私の前で費用のお話をされました。ご家族の間で、金銭的な行き違いがあるようでしたら」
「行き違いではありません」
「と、おっしゃいますと」
「義母は、出さないとおっしゃいました。私が決めろ、と。決めろと言われたので、決めます」
 医師の眉が動いた。動いただけで、何も言わなかった。
 ……なるほどね。お医者さんの前ではああ言って、明日になったら私が殺したことにするつもり。あの人の頭の中では、もう話の筋ができあがっている。3年も同じ家で暮らせば、それくらいは読める。
「奥様?」
 署名欄は空のままだ。
 私はボールペンを取り、机に戻した。
「延命は、望みません」
 医師の手が止まる。
「……確認させてください。心臓が止まった場合の蘇生処置も、行わない。そういうご意向でよろしいですか」
「はい」
「ご家族の総意、ということで」
「妻は私です」ペンから指を離す。「決める権利も、私にあります」
 医師は何も言わず、カルテに日付を書き込んだ。ペン先が紙を擦る音が、やけに長い。
「……承知しました。ご意向は、記録に残します」
「お願いします」
「今夜のうちに、ということもあり得ます。お近くにいらしてください」
 私は書類を押し返した。サインはしない。しないことが、今日の私の仕事になる。

――本文より。

全十話・完結。
※一周目の自死に関する回想を含みます。この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

本作はカクヨムにも掲載しています。
プロローグ サインしない
2026/09/20 13:05 (改)
第二章 引き上げ
2026/09/20 13:05 (改)
第三章 炎上
2026/09/20 13:05 (改)
第四章 通夜
2026/09/20 13:06 (改)
第五章 LINEの中身
2026/09/20 13:06 (改)
第六章 振込明細
2026/09/20 13:06 (改)
第七章 二枚の紙
2026/09/20 13:07 (改)
第八章 答え合わせ
2026/09/20 13:07 (改)
エピローグ 一周目の私へ
2026/09/20 13:07 (改)
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