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ユートピア区

作者:ぽむぽむ
最終エピソード掲載日:2026/10/17
2035年、東京湾に浮かぶ人工島「ユートピア区」。税金も犯罪も失業もなく、住民は誰もが幸福に暮らしているという理想郷。入区倍率は四万倍。しかし、開区から十年間、島を出た住民は一人もいなかった。

ある朝、本土の埠頭に一人の男の遺体が流れ着く。手首にはユートピア区の居住者証。そして腕には、何度も書きなぞられた四文字が残されていた。

「忘れるな」

事件を追うのは、週刊誌記者の真柴怜、三十二歳。二年前の誤報によって信用を失い、事故で三か月分の記憶をなくした過去を持つ。そんな彼女のもとに、ユートピア区の開区十周年記念取材への招待状が届く。しかも、記者は怜本人が指名されていた。

島には、六年前に移住した妹の灯が暮らしている。毎月届く動画の中で、灯はいつも幸せそうに微笑んでいた。しかし、久しぶりに再会した妹には奇妙な違和感があった。灯は亡くなった母親の死を覚えておらず、住民たちは悲しみや怒りを不自然なほど口にしない。

取材を進める怜は、島の地下に存在する「調律室」の秘密に近づいていく。そこでは住民の苦痛を取り除くため、感情と記憶が操作されていた。人々が享受する幸福は、過去の悲しみを切り離すことで成立していたのだ。

やがて怜は、二年前に失った自分自身の記憶も、この島と深く結びついていることを知る。さらに、ユートピア区の技術を日本全土へ広げようとする国家規模の計画が動き始めていた。

真実を暴こうとする怜に、灯は問いかける。つらい記憶を取り戻すことが、本当に救いなのか。忘れたまま幸せに生きたいと願う人間から、その幸福を奪う権利が誰にあるのか。

島の秘密を暴けば、多くの住民が失った悲しみを取り戻すかもしれない。しかし、沈黙すれば、人々は自分の人生を選ぶ自由さえ失っていく。

迫り来る計画の実行、消された過去、そして死んだ男が残した「忘れるな」という言葉。すべての謎がつながるとき、怜は楽園の未来を左右する究極の選択を迫られる。

悲しみのない人生は、本当に幸福なのか。

記憶を失っても、人は自分自身であり続けられるのか。

これは、完璧な楽園の秘密を追う一人の女性が、幸福と自由、そして人間が悲しむことの意味に向き合う、近未来SFミステリー・サスペンス。
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