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十四年間「ありがとう」のない婚約を辞めます

最終エピソード掲載日:2026/09/03
「わかりました」と書くだけの返事を、三十七回出した。
八歳から十四年間、ネリーの婚約者が寄越すのは「わかってくれるよね」のひと言だけ。
茶会も贈り物も謝罪の代理も、すべてその六文字で降ってきた。

断ったことは一度もない。
ありがとうと言われたことも、一度もない。
三十八回目の手紙を前に、ネリーは初めて違う六文字を綴る。

婚約は解消された。
実家に戻った彼女の手帳には、自分の予定がひとつもない。
好きな食べ物を聞かれても答えられない。

十四年間、誰かの好みばかり覚えてきた彼女には、自分自身がどこにもなかった。

領地の収穫祭で、一人の騎士が問いかける。
「あなたは、何がしたいのですか」と。
答えを持たない自分に気づいたとき、止まっていた時間が動き始める。

三十七回の「わかりました」を手放した先に何があるのか、彼女はまだ知らない。
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