作家っぽいな
今回はほぼ、生成後の改稿をしていません笑
セリフの端々にAIっぽさを感じますが、
本作がAI生成作品であることもまた、一つのメタになっているのではあるまいか、と思います。
構想は長らく腹に持っておりましたが、作成時間30分程度です。
本作はボカロP「ピノキオピー」様の「神っぽいな」のオマージュ作品です。
※某サイトのパロディ作品でもあります。
<本家様>
ピノキオピー - 神っぽいな feat. 初音ミク / God-ish
https://www.youtube.com/watch?v=EHBFKhLUVig
<歌詞>
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/45336.html
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1
大学の学生食堂は、昼休みのピークを過ぎて怠惰な熱気に満ちていた。安い出汁の匂いと、誰かがこぼしたソースのシミ。その向かいで、私の友人である崎戸は、プラスチックの丼から伸びたうどんを不器用に啜り上げていた。
「でさ、結局のところ現代のエンターテインメントってのは、消費者の飽きっぽさに迎合しすぎてるんだよ。可読性ばかり求めて、冒頭で少しでも意味がわからないと『眠くなる』とか言い出す。度し難いよな」
汁が飛ぶのを気にしてか、少し猫背になりながら崎戸は熱弁を振るう。現実世界における彼は、こうして学食の隅で文学論を戦わせる、少しばかり自意識過剰で律儀なだけの普通の大学生だ。だが、スマートフォンの画面の向こう側――ある中規模な小説投稿サイトにおいて、彼は「神」として君臨していた。
しばらく前までの崎戸は、目も当てられない創作者だった。文芸サークルを「ラノベ好きばかりで辟易する」と三ヶ月で辞め、意気揚々とネットの海に自作を投じたものの、ついた評価はゼロに等しかった。唯一ついた「いいね」も、自分の作品を読み返してほしいだけの互助会ボットによるものだと気づいた時、彼は「ここは汚い互酬的な世界だ!」とサイトの治安を呪い、一度は筆を折ったはずだった。
そんな彼が、別名義に転生して突然サイトの中堅―― 一丁前のクリエイター面をして返り咲いたのは、生成AIという「神の代筆」を手に入れてからだ。
もともと崎戸の書く物語は、悲劇の詰め合わせだった。愛だの死だのといった重いテーマをコテコテに盛り込めば名作になると信じている節があり、以前はただの胃もたれする怪文書でしかなかった。ところが、AIに文章を整えさせるようになってから、その過剰な装飾に妙な説得力と流暢さが生まれてしまったのだ。
一番滑稽なのは、AIの出力特有の仕様なのか、一人称の「僕」で語られているはずの小説が、中盤から突然、登場人物全員の心理や未来の出来事までを見通す「全知全能の視点」にすり替わることだった。かつてサルトルはモーリアックの小説を「神の視点で書かれている」と批判したが、サイトの取り巻きたちは、崎戸(というかAI)が犯したその初歩的な人称のブレを、あろうことか「高度な前衛的手法」として絶賛した。
『一人称に神の視座を混入させることで、現代人の傲慢さをメタ的に描いているんですね……! 天才ゆえの孤独を感じます、かっけえ……』
そんな信者からのコメントを読み上げる崎戸の横顔は、うどんの湯気越しに見てもわかるほど緩みきっていた。
「まあ、あいつらも少しはわかってきたってことかな。畢竟、文学とはそういう構造的な試みだからね」
彼は最近覚えたらしい「畢竟」という言葉を好んで使った。サルトルなんて文庫本の解説すらまともに読んでいないくせに、AIが吐き出したそれっぽい単語集で踊っているだけなのだ。かつて互助会をあれほど憎んでいた男が、今や権力に飲まれ、小さな玉座の上で気持ちよさそうに批評家気取りの警句を垂れている。
前衛風、昭和風、純文学風。あらゆる「〜風」の模倣品が溢れるそのサイトで、崎戸はすっかりご意見番になっていた。私はうどんの汁を飲み干しながら、「すごいな、お前は」と適当に相槌を打った。
私は崎戸のことが嫌いではない。むしろ、その底の浅い虚栄心も含めて、庇護すべき愛すべき友人だと思っている。ただ、彼が気持ちよく神のふりをすればするほど、私の内なる青い嗜虐心が疼くのもまた事実だった。
2
その日の夜、私は自分のアパートの薄暗い部屋で、ノートパソコンを開いていた。目的はひとつ。あのスラム街のようなサイトに、私自身の作品を投下することだ。
もちろん、真っ当な文学を書くつもりはない。高校時代にノートに書き殴って放置していた、徹底的に軽薄で、ご都合主義で、ただテンポだけが良いラノベ風の短編小説。小説を書かなければならない理由だとか、必然性だとか、そういう青臭い悩みをすべてドブに捨てたようなジャンクフードだ。私は適当なペンネームをでっち上げ、その作品をサイトに放り込んだ。
翌朝、目が覚めてスマホを確認すると、通知欄が真っ赤に染まっていた。
『こういうのでいいんだよ』『頭空っぽにして読める!』『最高、もっとちょうだい!』
難解な「〜風」小説に疲弊していたサイトの住人たちは、私の投げた安っぽいミラーボールの下で無邪気に踊り狂っていた。ランキングの順位が面白いように上がっていく。
そしてその日の深夜、ついに私が待ち望んでいた獲物が罠にかかった。
サイトの重鎮である崎戸――のアカウントから、長文のレビューが届いたのだ。私はベッドの上で足をバタつかせながら、その神託を開いた。
『大変楽しく拝読しました。非常に景気のいい筆致で、読者を牽引する力がありますね。ただ、少々伏線が露骨すぎるきらいがあります。エンターテインメントとしての熱量は買いますが、物語としての品性は終わりを迎えていると言わざるを得ません』
丁寧な言葉遣いでコーティングされた、特大のマウントだった。私は思わず吹き出した。画面の向こうで、眼鏡の位置を直しながら得意げにキーボードを叩く崎戸の姿が網膜に浮かぶ。彼のレビューはさらに続いていた。
『特にヒロインとの別離のシーン。愛の結末を急ぐあまり、単なる安直な「別れ」のカタログになっている。終盤の悲劇も、結局は誰かが「死ぬ」という一番安易なカードを切って処理しているだけに見えます。これでは読者に、最初から結末のネタバレをしているようなものですよ』
悔しいかな、指摘自体は的を射ていた。他人の作品を批評する時の彼の目は、自分の作品を見る時とは違ってやけに冷静なのだ。ただ、自分がAIに書かせているコテコテの悲劇棚上げにしてよく言うよ、という話である。
そのまま無視してやろうかとも思ったが、私の指は勝手に返信欄をタップしていた。彼をさらに高い場所へ押し上げ、もっと気持ちよくさせてやるための、極上の毒を盛るために。
『レビューありがとうございます! 先生の作品、いつも拝読しております。私のような素人の駄作に、そのように俯瞰的で深い批評をいただけるとは夢のようです。おっしゃる通り、私には品性も覚悟も足りていませんでした。先生の作品にあるような、孤独な高みから人間を見つめる「神」のごとき視座……本当に憧れます。これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!』
送信ボタンを押した瞬間、背筋がゾクゾクするような歪んだ興奮が込み上げてきた。
画面の黒いガラスに、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる自分の顔が映っている。嫌な奴だな、と自分でも思う。友人を裏から操り、道化に仕立て上げて喜んでいる。メタ思考で他人を小馬鹿にする私の本質は、間違いなく悪意そのものだった。
数分後、崎戸のアカウントから『素人のあなたに意図が伝わって何よりです。共に高みを目指しましょう』という、器の小ささが透けて見える返信が来た。
私はまたもや吹き出しながら、スマホを伏せ、天井を見つめた。さて、ネットの箱庭で神様ごっこをするのはここまでだ。明日は、彼を現実という名の処刑台に引きずり出す約束になっている。
3
ネットの海では全知全能の批評家として君臨する崎戸だが、現実の彼は今、致命的なバグに直面していた。就職活動である。
大学四年の秋になろうかというのに、彼はまだ一社からも内定を得られていなかった。周囲が次々と進路を決めていく中、彼だけが取り残されている。
「いやさ、日本の企業の採用システムって、ちょっと硬直化しすぎてると思わないか? 俺の描くビジョンに、面接官の理解が追いついてないというか……まあ、俺のメンタルは超健康だから全然平気なんだけどさ」
数日前、彼は引きつった笑顔でそう強がっていた。健康と言い張りながら、目の下にはくっきりと隈ができている。追い詰められてヤケになっているのは明白だった。そんな彼が、プライドをかなぐり捨てて「お前、早々に内定決まってたよな。頼む、俺のエントリーシートを見てくれないか」と頭を下げてきたのである。
そして金曜日の夜。私たちは駅前の騒がしい大衆居酒屋の隅で、油でベタつくテーブルを挟んで向かい合っていた。
ジョッキの生ビールを一口飲み、私は崎戸から差し出された印刷済みのESに目を落とした。
一読して、私は奥歯を噛み締めた。笑いを堪えるのに必死だったのだ。
そこに印字されていたのは、彼の小説とまったく同じ、AIによって過剰に装飾された「神の文章」だった。
『私はサークル活動において、組織の課題を俯瞰的視座から分析し、既存の枠組みを破壊するパラダイムシフトを牽引しました。貴社においても、業界の旧弊を打破するイノベーションの特異点となり……』
どこかで見たような横文字と、壮大すぎる名言のオンパレード。学生時代にほんの三ヶ月だけ在籍し、ラノベ好きと喧嘩して辞めただけの文芸サークルのエピソードが、まるで世界を救うプロジェクトかのように語られている。しかも、なぜか「当時の私は、周囲の学生たちの未熟さを憂いていた」などと、神様が人間界を見下ろすような傲慢な視点で記述されているのだ。
「どうかな。結構、論理的で隙のない文章に仕上がってると思うんだけど」
ウーロン茶のグラスを握りしめ、崎戸が不安げに私の顔を窺う。
量産型の綺麗事を並べ立てただけの、体温のない文章。歴戦の採用担当者が見れば、開始三秒で「ああ、AIで出力したやつね」と見抜くだろう。ネットの狭い界隈では「前衛的」と持て囃されたその文体も、現実のビジネスの場においては、ただの「意味がよくわからない、眠くなるだけのノイズ」でしかなかった。
目の前にいるのは、AIという虎の威を借りて、自分の空っぽさを隠そうと必死になっている不器用な友人の姿だった。
私はゆっくりとESをテーブルに置いた。彼を救うためには、一度そのちっぽけな玉座を粉々に打ち砕いてやる必要がある。もちろん、そこに私のサディスティックな楽しみが一切含まれていないと言えば、嘘になるのだが。
「よし、崎戸。模擬面接をやろうか。俺が面接官な」
私が言うと、崎戸はゴクリと唾を飲み込み、「頼む」と神妙に頷いた。
4
居酒屋の喧騒が、少しだけ遠のいた気がした。私は背筋を伸ばし、ペンを片手にESをトントンと叩いた。そして、昨夜サイトで彼から受け取ったあのレビューの文面を、脳内で一字一句正確に呼び起こした。
「えー、崎戸くん。拝見しましたよ。大変景気のいい筆致で、意欲は伝わってきます。ただ……少々、自己アピールの伏線が露骨すぎるきらいがありますね」
崎戸の眉がピクリと動いた。私は彼の目を見据えたまま、丁寧で冷酷なトーンを崩さずに続けた。
「エンターテインメントとしての熱量は買いますが、就活生としての品性は終わりを迎えていると言わざるを得ません。特にこの志望動機。会社への愛を語ろうとするあまり、単なる安直な『社会貢献』のカタログになっている。これでは面接官に、最初から『私は御社について何も調べていません』とネタバレをしているようなものですよ」
崎戸の顔から、急速に血の気が引いていくのがわかった。ウーロン茶のグラスを持つ彼の指先が、わずかに震えている。
まさか自分がネットの片隅で放った得意げな批評を、現実の居酒屋で、しかも自分の人生がかかったESに対してそっくりそのまま撃ち返されるとは夢にも思っていなかったのだろう。
「あ、いや、それは……」
「夢が大きいのは結構です。でもね、崎戸くん」
私は身を乗り出し、決定的な一撃を放った。
「このビジョン、この熱意、この文章。……畢竟、AIっぽいな、これ」
焼き鳥の煙が立ち込めるテーブルの上に、重苦しい沈黙が落ちた。
崎戸は口を半開きにしたまま、私とESを交互に見つめている。彼の瞳の奥で、張り子の玉座がガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのが見えた。彼はもう、私がネットであのラノベ風小説を書いた張本人であることにも、信者のふりをして彼を煽て上げた悪魔であることにも、すべて気づいたはずだ。
私は彼を見下ろしていた。完全なる勝利だった。神を否定し、私が新たな神となって彼を裁いたのだ。
だが、どうしたことだろう。あれほど楽しみにしていたはずの優越感は、彼のひどく傷ついた、今にも泣き出しそうな顔を見た瞬間に、急速にしぼんでいった。
なんてことはない。他人の痛みを安全な場所から観察し、メタ的な視点で悦に入っていた私こそが、一番タチの悪い小物だったのだ。自己嫌悪が、ぬるくなったビールの苦味と一緒に喉の奥に広がった。
やがて、崎戸は深く、深く息を吐き出した。そして、テーブルに突っ伏すようにして、肩を震わせて乾いた声を漏らした。
「……もういいぜ。もういいよ、お前、性格悪すぎるだろ……」
「お前ほどじゃないさ、先生」
「やめろよ、マジで……」
崎戸は顔を上げ、自嘲するように力なく笑った。憑き物が落ちたような、ひどく人間らしい、情けない笑顔だった。神は死んだ。目の前にいるのは、私が昔からよく知っている、見栄っ張りで冴えないただの友人だった。
私は自分の手元にあったESを裏返し、その白い背面にボールペンを走らせた。
「いいか、崎戸。面接官はお前の全知全能の視点なんて求めてない。お前が文芸サークルを三ヶ月で辞めた時の惨めさとか、学食でうどんを啜りながらくだらない文学論を語ってる時の熱量とか、そういう『ただの崎戸』の話を聞きたいんだよ。それっぽい単語で踊るのは、もうやめろ」
私は裏返しのESを彼の方へ押しやった。崎戸はしばらくその白い紙を見つめていたが、やがて「……ちっちゃいな、ちっちゃいな、俺の実人生」とポツリと呟き、私の手からペンを奪い取った。
「すみません、お兄さん! こっち、生ビール二つ追加で!」
私が店員を呼ぶと、崎戸は「おい、まだ面接中だろ」と言いながらも、拒絶はしなかった。
私たちはそれから、終電の時間が迫るまで安酒を酌み交わした。白紙の裏面に、彼の本当に書きたいこと、泥臭くてカッコ悪い等身大のエピソードを、ああでもないこうでもないと笑いながら書き殴った。
居酒屋を出て、冷たい夜風に吹かれながら駅へと歩く。
私たちはきっと、少しばかり自意識をこじらせすぎたのだ。愛の終わりも、人生の結末も、最初からすべて理解したような顔をして斜に構え、傷つかないための鎧を着込んでいた。本当はただ、あのサイトの連中みたいに、何も考えずに無邪気に踊っていたかっただけなのかもしれない。
「なあ、あのラノベ風のやつ、続き書かないのか?」
改札の前で、赤い顔をした崎戸が不意に聞いてきた。
「書かないよ。あれはもう完結してる」
「そっか。……まあ、品性はなかったけど、悪くなかったよ。悔しいけど、ちょっと踊らされたわ」
崎戸はそう言って、照れくさそうに片手を挙げ、改札の向こうへと消えていった。
一人になった私は、ポケットに手を突っ込み、夜の街へと踵を返した。イヤホンを耳にねじ込み、お気に入りの騒がしい音楽を再生する。アルコールが回った身体は軽く、アスファルトを蹴る私の足取りは、ほんの少しだけ、不恰好なダンスのステップに似ていた。
しいなここみ様
日頃は某サイトにてお世話になっております。
「あつまれ自信作企画」が面白そうだったので、ニヤニヤしながら参加させていただきます。




