妹が欲しがったのは、私の未来でした
「お姉ちゃん、その青いドレス私に頂戴!」
幼い頃から、妹のリリアは私の持つすべてを奪ってきた。
お気に入りのリボン、大好きな絵本、誕生日にもらったペンダント。
私が大切にしているものほど、リリアは「私にちょうだい!」と強引に横取りしていった。
けれど、私はリリアを責めることができなかった。
なぜなら私は、生まれつき胸に刻まれた『死の呪印』のせいで、二十歳まで生きられない運命だったからだ。
(どうせ私は、長く生きられない。それなら、私のものくらい全部リリアにあげよう)
私はいつだって、淡い笑みを浮かべて譲り続けた。
成長するにつれ、リリアの強欲さは増していった。
私が体調を崩すたび、親族が送ってくれる高価な薬まで「私が貰うわ!」と奪い去る。
周囲の人たちは「なんて恐ろしい妹だ」と囁き合っていたが、私はただ、残された時間を静かに過ごすことだけを望んでいた……
そして、私の二十歳の誕生日の前夜。
私の身体は限界を迎え、指一本動かすことすらできなくなっていた。
意識が遠のく中、部屋のドアが静かに開く。
入ってきたのは、リリアだった。
リリアは私のベッド脇に腰掛けると、私を見下ろした。
今までに見せたことのないほど、冷たい瞳をしている。
「……お姉ちゃん。いよいよ明日で二十歳ね」
私は声が出ず、ただ薄く目を開けることしかできない。
リリアはそっと手を伸ばし、私の胸元の『死の呪印』がある場所に、手のひらを置いた。
「私ね、ずっと我慢していたの……お姉ちゃんから奪いたい一番の宝物を」
(……一番の、宝もの?)
リリアは小さく微笑むと、私の耳元で低く囁いた。
「お姉ちゃんの『未来』も、私に頂戴ね」
その瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなった。
一瞬の激痛の後、私を縛り続けていた重苦しい感覚が、身体から抜けていくのが分かった。
代わりに、リリアの手のひらを通じて、温かい生命力が入ってくる。
(なにかが……入れ替わっている?)
私の視界に、リリアの胸元が眩しく発光しているのが見えた……
光が収まった時、リリアの胸元には、私にあったはずの『死の呪印』が浮かび上がっていた。
そして、私の胸から呪印が綺麗に消え去っていた。
「り……りあ……? なに、を……」
かすれた声で聞く私に、リリアは口元にかすかな笑みを浮かべた。
その顔は、酷く蒼白だった。
「これはね……禁術『因果の転嫁』……誰かが大切にしていた物を奪い続けて、運命を丸ごと入れ替える術なの……」
リリアは息をつきながら、続けた。
「私が奪ったペンダントも、薬も……全部、この術の儀式に必要なものだったの。……お姉ちゃんは優しすぎるからさ。私がずっといい妹でいたら、死ぬときに未練が残っちゃうでしょ……? だから、嫌われ者になりたかったの……」
「だめっ……! 戻して、リリア!私の呪いよ!」
私の身体は溢れ出す生命力で動き出していた。
起き上がり、崩れ落ちるリリアを抱きしめる。
「嫌よ………なんでそんなこと……!」
「だって……お姉ちゃん、ずっと『外の世界を見たい』って言ってたじゃない……」
リリアは弱々しく私の頬に手を伸ばし、泣きそうな顔で、それでも笑った。
「私が欲しかったのはね、お姉ちゃんが諦めていた……これからの未来なの。……お願いだから、最後のわがままを、通させて……」
………それが、リリアの最後の言葉だった。
翌朝、私は二十歳の誕生日を迎えた。
体は驚くほど軽く、窓を開けると澄み切った青空が広がっていた。
私の手元には、リリアが残した一冊の古い日記がある。
ページをめくると、拙い文字でこう記されていた。
『お姉ちゃんの病気を知った。神様は意地悪だ。
でも大丈夫。私がぜんぶ奪ってあげるから。
お姉ちゃんの痛みも、悲しみも、死んじゃう運命も。
ぜんぶ私のものにして、お姉ちゃんには綺麗な未来だけを
残してあげるんだ』
私は日記を胸に強く抱きしめ、涙で霞む空を見上げた。
そしてリリアが「似合わない!」と奪った、あの一番鮮やかな青いドレスを着た。
「リリア、見ていてね」
私は屋敷を出て、ずっと憧れていた外の世界へ足を踏み出す。
美しい海、高い山、賑やかな街並み−−これから私が目にするすべての景色を、心の中で妹に語りかけながら生きていく。
きっと誰よりも輝かしいものに……してみせるから
妹が欲しがった、私の未来




