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泣くと思っていましたか?

最終エピソード掲載日:2026/08/24
三年間、婚約者はわたくしを泣かせようとしていた。

母の手紙を、湿っぽいと言って燃やした。

婚礼の指輪の意匠を、別の令嬢に先に見せた。


そのたびに、あの方は翌朝わたくしの顔を確かめた。

何も出てこないと分かると、次のことを考えた。

泣けないのは情がないからだと、八つのころから言われて育った。


だからわたくしは、あの方が撒いた無礼を消して回った。

詫び状を書き、手当を払い、噂の火を消した。

三年で二十七件、侯爵家に醜聞は一度も出ていない。


春の夜会。

証人の並ぶ公卓で、婚約の破棄が告げられた。

広間の三百人が、わたくしの崩れる姿を待っていた。


あの方も待っていた。

泣けば冗談にできると思っていたからである。

わたくしは顔を上げて、こう尋ねた。


泣くと思っていましたか。

そのまま破棄を承諾し、翌朝、三年分の控えを侯爵の机に返した。

詫びを書く者は、その家にもういない。


泣かないことを欠けていると呼んだのは、いったい誰だったのか。
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