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決裁印は嘘をつく

作者:ぽむぽむ
最新エピソード掲載日:2026/11/03
東栄銀行港南支店の融資課に勤める馬淵敬一、39歳。2026年9月、彼が担当する町工場・柏原製作所に、突然、融資2億4000万円の一括返済請求と新規融資停止の通知が届く。堅実な経営を続けてきた会社は、知らぬ間に巨額の保証債務を負ったことにされ、信用格付けを引き下げられていた。社長の柏原佳織は契約を否定する。ところが、不審な決裁記録には、馬淵自身の名と印影が残されていた。

身に覚えのない承認は、誰が、何のために行ったのか。部下の佐野菜摘、荻野良太と調査を始めた馬淵は、同様の処理が12支店33社、関連融資104億円に及んでいることを突き止める。被害企業の資金繰りは悪化し、柏原製作所の機械にも仮差押えの手が伸びる。38人の従業員とその家族を守ろうとする佳織も、厳しい決断を迫られていく。やがて重要なデータが消され、馬淵は職務を停止され、協力者たちも疑いの目にさらされる。

真相を追う先に浮かんだのは、権力者として恐れられる常務・郷田康臣と、馬淵が心から信頼してきた監査部長・有働克典。かつて父の鉄工所が倒産した過去を持つ馬淵にとって、今回の事件は、銀行員になった理由そのものを問い直すものでもあった。過去の内部通報と消された操作履歴を追ううちに、記録の改ざんと企業買収を結びつける疑惑が浮上し、恩師と敵の輪郭が逆転していく。だが、真相に迫る記録を守るには、10月8日午前0時に予定された記録媒体の廃棄を止めなければならない。

馬淵は、立場も利害も違う人々と手を組み、巨大な組織の内部で証拠をつなぎ直していく。守るべきは銀行の体面か、目の前で暮らしを失おうとしている人々か。そして、正義を信じる自分の判断は、本当に正しいのか。欠けた認印に残る小さな白い隙間を見つめながら、馬淵は「承認」と「責任」の意味に向き合っていく。組織の嘘と人間の弱さを暴く社会派金融サスペンス。
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