十九人目
最新エピソード掲載日:2026/10/24
二時の巡視に出ると、空き部屋のはずの7号室の戸が開いていた。
使っていない車椅子に、色の抜けた紺のカーディガンを着た、痩せた老女が座っている。玄関も非常口も施錠され、ブザーは一度も鳴っていない。
老女は窓を見たまま言った。「沢井さん、カーテン」
襟の裏に縫いつけられた名前は「小野寺トシ」。この施設で十一年夜勤を続けてきた沢井が、顔と一緒に覚えている入居者十八人の中に、そんな名前はなかった。
同僚の村田さんには、老女が見えない。それなのに、押した車椅子は声が出るほど重かった。
その夜の四時。三年前から職員が二人がかりでないと起こせなかった1号室の山岸さんが、ひとりで起き上がり、窓の外を見ていた。
「さっきのばあさんがな、起こしてくれた」
紺の上っ張りの人が、みんなの部屋を順番に覗いて回っている。
何かしてほしいことはないか、と聞きながら。
使っていない車椅子に、色の抜けた紺のカーディガンを着た、痩せた老女が座っている。玄関も非常口も施錠され、ブザーは一度も鳴っていない。
老女は窓を見たまま言った。「沢井さん、カーテン」
襟の裏に縫いつけられた名前は「小野寺トシ」。この施設で十一年夜勤を続けてきた沢井が、顔と一緒に覚えている入居者十八人の中に、そんな名前はなかった。
同僚の村田さんには、老女が見えない。それなのに、押した車椅子は声が出るほど重かった。
その夜の四時。三年前から職員が二人がかりでないと起こせなかった1号室の山岸さんが、ひとりで起き上がり、窓の外を見ていた。
「さっきのばあさんがな、起こしてくれた」
紺の上っ張りの人が、みんなの部屋を順番に覗いて回っている。
何かしてほしいことはないか、と聞きながら。