第5話-A3 Lost-311- エリア311と謎のシステム“ELVES”
なんかかなり乱雑になってしまいました。
※主人公がいろいろ毒を吐いていますが、気にしないでください。
あなたは決して悪くありません。
ふと気がつくと、真っ暗だった。
いや、ただの真っ暗闇ではないようだ。
俺の周囲上下左右360°すべての方向に無数の小さな光の点が美しく光り輝いている。
そして俺の身体はふわふわと宙に浮いている。
……浮いてるだと?
いや、確かに俺は宙に浮いている。
これは一体どういう状況なのだろうか。
ジェイミーの“Welcome to my world”の言葉の後に
ここにいるということは、ここがジェイミーの世界ということになる。
暗闇の中光り輝く無数の点、宙に浮いている俺という状況を考えると、
ここは宇宙空間なのではないかと推測できる。
ただ、気圧ゼロ、酸素がないはずの宇宙空間で目玉が飛び出ることなく、
こうやって普通に息ができているというのは、どういうことなのだろうか。
宇宙に地球並の気圧と酸素濃度があれば、
そりゃ宇宙線の被爆、つまり放射線被爆を防ぐ防護服は必要だろうが、
放射線被爆を無視するならば今の俺のように宇宙飛行士が半袖の私服という軽装でも大丈夫なはずだ。
言い換えれば俺は今現在僅かずつではあるが、被爆しているということになる。
痛っ!!
俺の頭に何かがぶつかった。
咄嗟にぶつかってきたそれを捕らえると、それは今さっき電源を切ろうとしていた俺のパソコンだった。
ハハハ……何というカオス。
宇宙空間を漂うパソコンは、周辺機器と本体とが繋がれているコードをまるでタコの足のようにくねらせている。
俺はパソコン本体をたぐり寄せ、目の前を飛んでいるマウスを掴んだ。
赤く不気味に光る俺の光学式マウスのセンサー面に手を当て、
マウスを少し動かして操作すると、真っ暗だったパソコンの画面が復帰した。
黒画面に白文字というデザインは変わらず、表示されている内容だけが変わっていた。
***Emergency program***
“***緊急プログラム***”
Create substance
“物質生成”
O2 20%
N2 80%
The pressure of 1 atmospheres
“1気圧の圧力”
Range
“範囲”
150m×150m×150m
****************
……とりあえず、なぜ俺が呼吸できているのかという謎は解けた。
何とも信じがたいが、このパソコンが150m四方に1気圧の大気を生成しているらしい。
零雨と麗香の闇改造されたPCはやはり普通のPCではなかったようだ。
そして、PCの画面の隅に、
英語で“持続可能時間 残り16時間”と悪夢のカウントダウンが始まっていた。
つまり、あと16時間もすれば、大気の生成ができなくなり、瞬く間に俺は窒息死というわけだ。
ここは大気の生成を続けながら零雨と麗香に連絡を取るべきだろう。
俺はそのウィンドウを最小化し、麗香が以前俺のパソコンに入れたプログラムを起動させる。
画面の隅では、常に持続可能時間が秒単位で表示されている。
プログラムを起動させると、
以前麗香を助けようと足掻いた時に俺が零雨のパソコンで起動した例の画面が表示される。
とにかく、これであの時のように救難メッセージを送らねば、俺はここで冥土行きだ。
Input security code ―> ****
インプットセキュリティーコード、つまり暗証番号を入力しろということだ。
*が四つあるから四桁、暗証番号は確か、0176だったはずだ。
オッケー、暗証番号の入力はパスできた。
次に現れたのはログインのユーザーを選択する画面。
で、次はログインするユーザー名の選択だ。
*Login*
Adachi mitsuhide
0176
0301
俺の名前のユーザー名ををクリックすると、
英語での表示から一変、慣れ親しんだ日本語の表示に変わった。
よしよし、順調だ。
次に接続先を選ぶ。
「ステージ0」と「接続しない」の二つが用意されていたから、
とりあえずステージ0の方を選択しておいた。
ハードウェアアクセラレータ起動中
起動率|■■■■■■■■■■|100%
ハードウェアアクセラレータ起動完了
プライマリシステム3.0aと同期中
プライマリシステム3.0aが見つかりません
セカンダリシステム1.7fと同期中
セカンダリシステム1.7fが見つかりません
接続に失敗しました。
再接続を試みます
プライマリシステム3.0aと同期中
プライマリシステム3.0aが見つかりません
セカンダリシステム1.7fと同期中
セカンダリシステム1.7fが見つかりません
接続に失敗しました。
システムが見つかりません。
動作を決定してください。
システムが見つからない?そんな馬鹿な……
前はちゃんと繋がったじゃねえか!!
見つからないって、一体どうなってんだよ!!
持続可能時間を見ると、一気に20分も減って残り15時間40分になっている。
どうやら他の作業を同時にやらせると、持続可能時間が大きく減るらしい。
これは無駄なことはできないな……
俺に与えられた選択肢は、
「接続を中止する」
「再試行する」
「システムを再検索する」
の三つだ。
接続を中止して保身にまわったとしても、
15時間以内に零雨と麗香が救助に来る可能性は薄いと考えた方がいいだろう。
この選択肢は没だ。
再試行したところで、もう既に二回も接続に失敗している。
三度目の正直ということわざもあるが、やはり失敗して持続可能時間だけが減る、ということだけは避けたい。
とりあえず、一番下のシステムの再検索をかけてみようではないか。
システムの再検索を選択する。
システムの情報を取得中
取得完了
現在地の情報を取得中
取得完了
お、すんなり行ったぞ。
しばらくすると、画面に取得結果が表示された。
システム名:ELVES
現在地:エリア311
…………は?
システムの名前がエルベス?s0じゃなくてか?
現在地もステージじゃなくてエリア311になってる。
これは柔軟な思考回路を持ってこの状況の整理に取り組まねばならないだろう。
まず、このPCの情報を完全に信用して考えるならば、ここはステージでなはい。
そして、ステージの管理プログラムである彼女達と繋がらない。
ここで考えられるのは、彼女達が管理するステージという領域の外側に俺がいる、ということだ。
そして、この空間の管理プログラムの名前はELVES。
空間名はエリア311。
全くの別世界に俺はジェイミーという謎の存在によって飛ばされたと考えると、話のつじつまが合う。
全くの別世界、つまり、異世界。
ステージとは全く違う世界。
麗香はステージは30まであると言った。
そして、ステージは42まで増えるだろうとも。
俺はそれが世界のすべてだと思い込んでいた。
ステージとは違う全くの別世界なんぞ、想像をしたことすらなかった。
さて、まあよくある普通の異世界モノのファンタジー小説だと、
気がつけば草原にいましたなどというような始まり方をするが、
人間が生きていけるような環境の星に偶然にも怪我することなく降り立ちました、というのは、
ご都合主義の塊ではないかと俺は思う。
いや、別ににそれが悪いと言っている訳じゃなくてだ、
逆にファンタジーの王道的な始まり方で俺はいいんじゃねえかと思っている。
面白い作品も多々あるしな。
リアルな異世界の飛ばされ方をするなら、
まず始まりは俺のように広大な宇宙空間にポツリ、というのがセオリーではなかろうか。
……まあ、小説で俺と同じように異世界の宇宙空間に飛ばされるような奇特な主人公がいれば、
その主人公の99%は異世界に入った瞬間に窒息死、
宇宙の藻屑となるのが関の山、そこでジ・エンドなのだが。
小説は小説、現実は現実だ。
現実世界の俺は、ご都合主義的に、
PCが大気を生成してくれているから99%の中には含まれず、
こうやって生き延びているのである。
あー、どうせ異世界に飛ばされるなら気がつけば草原にいましたパターンが良かった。マジで。
現実厳し過ぎるって。
おっと、あまりウダウダとしてられねえ。
タイムリミットは確実に迫って来ている。
PCが俺に与えた選択肢は、
「ELVESに接続する」
「中止する」
の二つだ。
一応、管理プログラムがELVESということは分かったし、
そこに接続してみる価値はあるだろう。
俺は「ELVESに接続する」をクリックした。
持続可能時間、残り14時間57分。
減りが無茶苦茶速えええええ!!!!
ちょ、これ、生き延びられんのか俺?
やっぱ俺は99%の一部になってしまうのか?
ELVESに接続中
接続完了
ELVESに同期中
同期完了
パッと画面が切り替わり、グラフィカルなメニューが表示された。
どうやら接続に成功したようだ。
しかもメニューが日本語という超親切設計じゃねえか!!
メニューの中に、≦天体検索≧なるものを発見した。
これを上手く利用すれば、地球と似た環境の惑星を探し出すことが出来るかもしれない!
ヨッシャアッ!
早速クリックして、検索する天体の条件を入力し、検索をかける。
検索ボタンを押すと、結果表示までの残り時間が表示された。
検索完了まで残り1時間らしい。
あと1時間、持ってくれよ、俺のPC!!
*******
……眠い。
検索完了まであと20分なのだが、俺に疲労という名の強烈な睡魔が襲ってきた。
部活の勧誘を避けながらの学校生活、結構体力的にも精神的にも疲れてきてたらしい。
タイミングが悪い時に限って疲れが押し寄せてくる。
――zzZ……!
寝たらダメだ、寝てしまったら、寝てる間にPCの持続時間が限界に到達、
そのまま永遠の眠りにつくことになっちまう。
中に浮いているパソコンを離すまいとしっかり握っているマウスのコードを放しそうになる。
マウスとかキーボードとか、最近はコードレスタイプが流行ってるみたいだが、
俺のパソコンはコードタイプで良かった。
ちょっとだけなら寝ても問題ないだろうという悪魔の囁きを振り払い、
寝ないように自分の身体を叩いたりつねったりしながら20分を耐えた。
検索結果 1件ヒット
惑星管理番号 2857519 適合率94%
おっ……出てきた。
惑星管理番号……ハハハ、どっかのSF映画みたいだな。
2857519をクリックすると、その星のモデルが表示された。
大陸の形は当然違うが、地球そっくりの風貌、言うことなしだ。
モデルの下に、「惑星2857519へ移動する」というボタンがある。
もしかして、この星に行けるのか?
俺は躊躇いもなくそのボタンをクリックした。
と同時に、俺は妙な安堵を覚えてしまい、ついに寝てしまった。