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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
スパイラル・トレイン
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第4話-16 スパイラル・トレイン ?日目-Spiral・Train

「どうも、助かったぜ」



俺は生首に噛まれた部分をさする。

結構痛かった割には特に異常はなさそうだ。

少しすると、みじん切りにされた彼の姿がだんだん透明になっていき、消えてしまった。



「で、お前達はここに何をしに――」



そこで俺は言うのをやめた。

零雨と麗香が何をしにここへ来たのか、分かり切っていたからだ。

それはバグを消去しに来たことにほかならない。



「……いや、それよりも、さっさとこの超カオスワールドから脱出しよう。

 “彼”も倒したんだし、もうここには用はないだろ?」



こんな意味不明な世界とはおさらばして、早くいつもの世界の朝日を拝みてえ。



「うん、脱出プログラムを起動させるからちょっと待ってて……」



麗香はそう答えたものの、一瞬で顔を暗くした。



「……プログラムが効かない」


「それは……脱出できないってことなのか?」


「そういうことになる、わね……」


「どうしてプログラムが効かなくなるのかは知らんが、どうにかならないのか?」


「原因は、この世界のシミュレートプログラムが書き換えられたからだと思う。

 多分、私が彼の頭を潰したと同時に、シミュレートプログラムを書き換えられたみたい。

 そこまで彼が考えていたのかは分からないけれど……あくまで一説だけど、 

 彼と同じようなバグがまた発生したとき、私達のような『駆除する側』の存在が邪魔になる。

 だから意図的にプログラムを書き換えて私達をここに封じ込めて、

 同類が発生した時に、その同類の生存確率を上げようとしたのかもしれない」


「消される間際の最後のあがきってわけか。

 はぁ、自己中なのか、仲間思いなのか……いずれにせよ、どこまでも往生際の悪いやつだ。

 その生存本能に敬意を表してやりたいね」


「一応、書き換えられたプログラム解析し直して、作り直してみれば、脱出できるかもしれない。

 零雨ちゃん、解析をお願いしてもいい?」



腕が刀のままの零雨は、ゆっくりとうなずいた。



「零雨、そろそろ腕も元に戻したらどうなんだ?」


「……戻せない。

 シミュレートプログラムが変更されたことで、組成の組み替えが行えなくなった」



つまり、零雨はしばらくはその姿のままでいるということだな?

……少しかわいそうだが、そういうことなのだから仕方がない。

ガタゴトと揺れる列車の中で、

俺と麗香は大人しく零雨がこの世界のシミュレートプログラムを解析し終えるのを待っていた。



「麗香、お前は解析しないのか?」


「一人がやっても二人がやっても、作業が終わるまでの時間は変わらないから。

 私がやってもよかったんだけど、ほら、零雨ちゃん、腕があんな状態でしょ?

 もしも何かがあった時に対応しやすいのは、手がある私の方だし、

 それに、解析中は無防備になるから」



だから、零雨ちゃんに頼んだの、と麗香は言った。

それからまたしばらく黙って解析が終わるのを待っていたが、とうとう零雨が声を発した。



「零雨ちゃん、終わった?」


「解析の続行が不可能」


「それ、どういうこと?」



解析が続けられない?どういうことだ?

麗香はその理由を聞くべく、零雨に耳を貸し、ヒソヒソ話をしている。

零雨の話を麗香が話を理解するにしたがって、顔がどんどん青ざめてきている。


「うん……うん――

 ……じゃあ、それまでに何とかしてとめないと、私達みんな消えてしまうのね?」



麗香の問いに、零雨は大きく首肯した。



「……麗香、どんな悪いニュースなのか聞かせてくれ。

 俺も一応状況を把握したい」


「いいけど……」



麗香はあまり言いたくなさそうだが、聞いておかねばならない重要なことだと俺は思う。

俺は、麗香の説明を聞くことにした。



「えっとまず、この世界は、

 私達が管理しているステージ25のシュミレートプログラムに寄生して実行されている、

 いわゆる“不正な空間”なの」


「まあ、時計が奇妙な方向へ進んだり、ペットボトルの茶がなくならなかったり、

 通常では有り得ないことが起きてるからな、納得できる」


「でね、コウくん。

 通常のシミュレート空間はとてつもなく広いけれど、大きさは無限じゃない。

 空間の一番隅のほうでは、シミュレートしている物体が、

 シミュレート対象外のエリアに飛んでいってしまうことがあるんだけど、

 その場合は、ちゃんとその物体を対象のエリアに引き戻すプログラムが働いて、くれるから、

 シミュレート対象外のエリアに飛んでいってしまった物体が消えてなくなることは、まずないの」


「例えるなら、野球で場外ホームランされたボールが、また野球場に戻ってくるってわけだな?」


「そういうこと。

 でも、それは通常のシミュレート空間のお話。

 この世界では、引き戻すプログラムが存在しないの。

 だから、今コウくんが例えた例を使うと、

 場外ホームランされたボールは、二度と野球場に戻ることなく消えてしまう」


「だんだん展開が読めてきたような気がするが……それで?」


「……単刀直入に言うとね、この列車はあと4分ほどでシミュレート空間の隅に到達するの。

 つまり、それは私達が消えてなくなる、ということ。

 もしシミュレート空間の外に私と零雨ちゃんが放り出されても、

 消去されるのは物体としてのデータだから大丈夫。私達本体まで消去されるわけじゃない。

 でも、コウくんは私達とは違って、

 放り出されたら、そこであなたの存在自体が消えてなくなってしまう。おしまいなの」


「俺の人生もこのままいけば残り4分ってわけか。ハハハ……

 ……それまでの脱出はどうしてもできないのか?」



麗香は少しうつむいて力なさげに首を横に振った。



「脱出まではどれだけ急いでも、少なくとも30分はかかっちゃって……」


「列車の窓からでも飛び出したらどうにかなるんじゃねえか?」


「この空間は特殊な形をしていて、バネのようにスパイラル(螺旋)状の細長い形をしているの。

 列車が通れるだけの、最低限の空間しかない」



列車はそう言って、通路の窓にかかっているカーテンを一つ取り払った。

窓の向こうには、漆黒の闇が広がっている。



「この窓から1メートル先に、空間の隅があるの。

 この空間は、まるで地下鉄のトンネルのように細長くて狭い。

 飛び出すなんて、とてもできないわ」


「じゃあ、スパイラルトンネルの中を運行しつづけるスパイラル・トレインってわけか」



これでやっとこの列車の終着駅が分かったぜ。

……知らない方がよかったのかもしれないが。



「現状は理解できた。

 それで、打開策はあるのか?」


「この列車を、止める。3分以内に。」


「4分じゃなかったか?1分減ったぞ?」


「こうしている間にも時間は進んでるから――」


「早く言えよ、それ!

 こんなとこでのんびりシリアストークしてる場合じゃねえじゃねえか!」



時間は進みつづけるものであるという世界の超大前提を、

それこそ頭のどこかにホームランしちまった俺も俺なのだが、

何としてもこの列車を止めなければ!


「と、とりあえず、運転士に列車を止めてもらわないと!」


「この列車には、私達3人しかいないのよ。

 “私達で”止めるの。

 私は先頭車両に行って、パンタグラフ(終電装置。≦≧(こんなの))を破壊してくるから、

 コウくん達は別の方法でこの列車を止めて」


「お前がご自慢のチートを使って、

 運転室にでも入り込んで非常ブレーキでもかけてくりゃ、一発で終わる気がするんだが……」


「それが使えたら、とっくに零雨ちゃんの腕は元に戻ってるわよ!

 そうじゃないから、こうやって大変なことになってるんじゃない!」



麗香が珍しく声を荒らげて怒鳴った。



「そうだったな、悪い」


「とにかく、何としてもこの列車を止めるのよ!」



麗香はそう言い切って、先頭車両の方へと走って行った。

……で、俺達はどうやってこの列車を止めろと?

パンタグラフを破壊すりゃ、確かに加速することはなくなるだろうが、

と同時に車内の電気装置すべて、つまり自動販売機から列車の制御装置まで、

すべてダウンしてしまうことになる。

そんな中で、列車をどうやって止めろというのだろうか。

とんとん、と肩に冷たいものが置かれた。

零雨だ。



「今から列車を止める。手伝って」



そう言われ、零雨に連れて来られたのは、車両と車両の連結部分。

幌(蛇腹のあれ)で覆われている、あの狭い空間だ。

重いドアを開け、蛇腹の狭い空間に俺達二人は入った。

足元の鉄板が、カチャカチャと音を立てて動いている。

零雨は大きく腕を振り上げると、その幌を裂いた。

幌の隙間から、風が吹き込み、幌がひらひらと揺れる。



「零雨、何をする気だ?」


「ブレーキ管を切断する」


「ブレーキ管?」


「説明は後。あなたは私の身体を支えて」



零雨は四つん這いになって裂けた幌から上半身を大きく乗り出す。



「……このあたりか?」


「そう」



俺は零雨の足を押さえて車外に転がり落ちるのを防ぐ。



零雨は強風の中、次々と管を切断していくが、列車は減速する気配はない。



「零雨、ホントにこれでこのデカブツが止まるのか?」



騒音の中、不安になって俺は声を大にして聞く。



「切断したのは直通ブレーキ管、その他通信線と推測される。

 自動空気ブレーキの管ではない。

 自動空気ブレーキの管を切断すれば列車は必ず停止する」


零雨が答えた時、フッと車内の電灯が落ち、俺達は暗闇に包まれた。

麗香がパンタグラフを破壊したらしい。



「暗くなったな……懐中電灯、いるか?」


「用意している暇はない」



零雨は作業を続ける。


パァン、という大きな破裂音が聞こえ、

シュー、と空気の抜ける音が管から聞こえてきた。

零雨が自動空気ブレーキ管とやらを切断したようだ。


列車は管の破裂と同時に減速を始め、やがて停止した。



「零雨、やったな」



零雨とハイタッチしそうになるが、今零雨とハイタッチすると、

もれなく手がきれいに切断ないし血まみれになることを自覚し、途中でやめた。



「残り32メートル」



零雨は言った。



「それは、空間の端までの距離か?」


「正確には、この列車の先頭から32メートル先」



ギリギリセーフだったな。

もし零雨が切断するのがあと5秒遅ければ、

俺達揃ってこの世(広い意味で)からアディオスしていただろう。



それからしばらくして、足音が近づいてきた。麗香が戻ってきたようだ。

しかし、暗闇のせいで姿が見えない。


「ギリギリ間に合ったね」



足音の主はやはり麗香だった。



「う……麗香、焦げ臭いんだが、お前何してきた?」


「ああ、ちょっと、パンタグラフを壊すときに架線に触っちゃって……感電しちゃった☆」


「『感電しちゃった☆』じゃねえだろ……とりあえず、暗いから懐中電灯持って「ダメッ!!」」



壁伝いに懐中電灯を探していこうとする俺を麗香が呼び止める。



「なんでダメッ!!なんだよ、見えなかったら危ないだろ?」


「えっと……その……なくなっちゃったの」


「何がなくなったんだよ?」


「か、感電しちゃった時に服が焼けてなくなっちゃったの!!

 こんな姿、見られたくないから――」


「つまり……裸、だと?」


「ぅん……」



ああ、悩ましい。

俺は近くの部屋から懐中電灯と、触った感じ浴衣っぽいものを引っ張り出し、

麗香のいる辺りに戻ってきた。



「麗香、いるか?」


「ここだよ」


「……。」



俺と麗香との距離が予想以上に近かったため、少し驚いたが、

とりあえず持ってきた浴衣っぽいものを麗香に渡そう。



「触った感じ浴衣っぽいのがあったから持ってきたんだが……使うか?」


「あ、ありがとう」



ゆっくり麗香が近づいてくるのがわかる。



「俺の場所、分かるか?」


「見えないけれど、聞こえるから大丈夫」


「もう受け渡しできる距離か?」


「多分」


「ほらよ」



浴衣らしき布を持つ手を音がする方角へ差し出す。

すると、俺の手が麗香の何かに当たった。



「ちょっと!!どこさわってるの変態!!」


「ち、ちげーよ!事故に決まってんだろーが!

 大体、音で場所が分かってるとか言ってる癖して近づきすぎたお前が悪い!!」


「ちょっと、私に責任転嫁!?

 言っておくけど、タッチした罪は重いわよ……ああ恥ずかしい」


「プログラムのくせに恥じるなよ……」


「何、プログラムは恥ちゃいけないワケ!?」


「……い、いいからとにかく早く今渡したやつ着ろよ!

 懐中電灯が使えねえじゃねえか」









「……麗香、着替えは終わったか?」


「うん」


「じゃ、懐中電灯をつけてもいいな?」



カチッと、スイッチを押し上げ、懐中電灯の電源を入れると、電球の光が静かになった車内を照らしだす。

ああ、やっぱ光があるってありがたいもんだ。安心する。



懐中電灯の光は、麗香に当たり、男物の浴衣を着た彼女の香の姿が映し出された。

どうやら俺が持ってきたのはXLとか、いわゆる大きいサイズの浴衣だったようで、

浴衣の袖が麗香の腕の長さより長くて腕が袖に隠れてしまっているという、典型的なぶかぶかの状態での着用である。



「……ちと大きすぎたか?」


「ううん、これでいいよ。ありがとう」


「そうだ、零雨、早速なんだが解析の続き、お願いしてもいいか?」



続いて懐中電灯の光を零雨に当てる。



「既に開始している」


「そうか。

 あとどれぐらいでここから脱出できるか零雨、分かるか?」


「約30分程度で全工程が終了する」


「それは喜ばしい知らせだな」



そこまで言うと、さっきすっきり起きたばかりであるにも関わらず、

突然強烈な睡魔に襲われ、何が起きているのかすら理解できないまま、意識を失った。

感想・評価をくださると、作者のやる気が上がります。

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