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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
スパイラル・トレイン
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第4話-13 スパイラル・トレイン ?日目-1:27amの恐怖

途中、目が覚めた。

目を開けると暗い部屋が目に入った。

どうやら、夜中に目覚めたらしい。

夜中に起きることは誰にでも経験があることだろうが、

旅の疲れを感じて早めに寝たはずの俺が夜中に起きるなど、不可解な事象だった。

本来ならばいびきでも立てて爆睡しててもいいはずだ。いや、そうでない方がおかしい。

まあ、実際に起きてしまったことには変わりはない。


暗い部屋の中を、列車の周期的振動と音だけが部屋を支配している。


俺は部屋の壁から発する緑色の光を見た。


ありゃなんだ?


身体を起こして目を擦ってよく見てみると、それはただの備え付けのデジタル時計だった。


「なんだ……」


時計は≦1:27am≧と:を明滅させながら表示している。

1:27am。

俺の感覚的に、この時間はまだ深夜の時間帯に当てはまる。

まあ世間一般にもそういう認識であろう。

匠先輩が好んで観てるという「深夜アニメ」とやらも、

夜中の3時ぐらいにやっているそうだから、その時間帯までは深夜といえる。

雑談はともかく、まだ夜明けまではたっぷり時間がある。

そこで俺はもう一回ベッドに潜り込んで夜明けを待つことにした。






また、夜中に目が覚めた。

なんだよ、こんな時に限って眠りが浅いとか、マジ勘弁してくれよ。

せっかく起きたのにまた寝てしまうのが少しもったいないと思った俺は、

喉が渇いていたのもあり、就寝前に一本購入していたペットボトルのお茶を飲み干した。


その時、身体に不自然な力が加わっていることに気がついた。

どうやら列車は長いカーブに差し掛かったようだ。

運転手も大変だな、こんな夜中でも運転席に座って列車の安全運転を励行してんだろ?

飛行機は自動操縦機能があるから、パイロットは操縦桿を常に握りつづける必要はない。

だが、自動操縦機能がない電車の運転手は途中で居眠りとかしないのだろうか?

まあ、居眠りしてもらったら大惨事確実だろうから、

運転手が定期的に交代するとか、なにかしらの対策を練っているに違いねえ。

まあ思慮に耽っていても夏の夜は長く、そう簡単には明けてくれない。

俺は再びベッドに潜り込み、今度こそすがすがしい朝日が拝めるよう願いながら目を閉じた。






スッキリとした感覚とともに、目が覚めた。

だがそれと同時に俺は落胆することになった。

夜はまだ明けてはいなかったのだ。


三回目。


俺は不眠症を患っているわけではない。

だがなぜか夜中に目が覚めてしまった。

さて、どうしたものか……

もうスッキリと目が覚めちまったから、もう寝て夜明けを待つことは出来ない。

こんな夜中に、とはいってもまあ、あと一~二時間もすれば夜は明けるだろう。

苦痛の時間が始まるな、こりゃ。


俺は備え付けの時計を見て、夜明けまでの概算の時間を求めた。



≦1:27am≧



……ん?

最初に起きた時と時間が変わってない……?

この時計、壊れてたのか。

この部屋に入ってきたときは気にも留めなかったから、気づくも何も分からなかったが……

とりあえず、口が渇いた俺はペットボトルのお茶を飲み干し、携帯電話を取り出した。

正確な時刻は何時だろうか、何か暇潰しになるものはないか、

この二つの欲求の充足を俺はコイツに求めた。

暇つぶしになるようなものについては、

行きにちょっとはまった携帯ゲームでいけるだろう。


携帯電話を開けると、現在時刻が表示された。


≦1:27am≧


……。

壁に備え付けてある時計と同じ時刻だ。

どういうことだ……?

あの壁のデジタル時計は壊れていることは確実であるから、

この携帯電話の現在時刻を信用せざるを得ない。

まさか一分以内に三回も寝て起きてを繰り返すことはあるまい。

両者とも奇しくも同じ時刻を示しているが、携帯電話の時間はそのうち進む。

だが、この携帯電話の方の時計も壊れてしまっているのではないかと、

一抹の不安も覚えているのも確かだ。

何せ、壊れた壁時計と同じ時刻を示しているのだからな。

その不安を打ち消すため、俺は携帯電話の時刻表示が切り替わるのを待った。



1、2、3、4、5、6、7、8、9――

――55、56、57、58、59、60――

――61、62、63、64、65、66、67、68、69、70――

――95、96、97、98、99、100、101、102、103。



おかしい。

時刻が切り替わらない。なぜだ?

俺が切り替わる秒数を一秒ずつ数えていた。

人間がカウントするのだ、確かに多少なりとも誤差はあるだろう。

しかし、だ。100秒を越えることはどんな無謀なカウントをしても有り得ない。

この時計も壊れちまってたのか?

だとすると、一日は1440分だから、

1440の二乗分の1の確率で二つの時計が壊れたことになる。

1440の二乗。

携帯電話の操作はできる。

電卓機能でその答えを求めた。


1440×1440=2,073,600


2,073,600分の1の確率。

そうやすやすと当たるような確率ではない。

だが、ここで実際に起きている。

この運が宝くじに向いていたら、小金持ちぐらいにはなれただろうな、ハハハ……

それよりも携帯が壊れたとなるとだるいな……



ここまで考えた時、俺はある一つの矛盾を発見した。

時計のこととは全く関係がないのだが、見過ごしてはおけない、非常に不可解な事象だ。

それは俺がペットボトルの茶を二回飲み干しているということだ。

俺はペットボトルのお茶を一本しか買っていなかった。

ということは、俺がペットボトルの茶を飲み干せるのは当然一回ポッキリのはずだ。

なぜ、俺は二回もペットボトルの茶を飲み干すことができたのだろうか。


俺はペットボトルの茶を手にとった。

飲み干したはずのペットボトルの中には、

いつの間にか茶がちゃぷちゃぷと音を立てて、入っていることを俺に伝えている。



おかしい。おかしすぎる。

非常に低い確率であるにもかかわらず、同じ時刻に壊れた二つの時計。

そして、何回でも飲み干せるペットボトルの茶。

俺は隣で寝ているはずの麗香に助けを求めて目をやった。


…………いない。


もぬけの殻だ。



「……麗香?」



俺は一人つぶやき、麗香を探すため部屋を出た。

誰かの顔が見たい。他の乗客の顔でも構わないが、出来れば顔見知りの顔が見たい。


通路は消灯時間を過ぎても、

夜中にトイレに行く人のために常時点けられているため、明るい。

辺りをぐるりと一周見回すが、誰の姿も見えない。

俺は、麗香が行きそうな所を探すことにした。


トイレに行っているのか?それとも、また別の何かをしているのか?


しばらく寝台車両の通路を歩き、自動販売機が置いてある車両にたどり着いた。

この車両は、公衆の休憩室になっており、

自動販売機の他にも、テレビやソファー、小さな喫煙室が中に入っている。


「……あ」


そこに、人を見つけた。

麗香ではない。

どこかで見たことがあるような、セミショートの髪の、制服姿の男子高校生?

奇妙な風貌だ。

だが、奇妙な風貌だの、そんなことは今の俺にとってはどうでもいい。

俺は怪しむどころか、むしろ人に会えて安心していた。

彼はソファーに座ってうつむいている。


「あの……」


話し掛けても微動だにしない。

俺は構わず続けた。


「ここに俺と同じぐらいの年の女の子、来ませんでしたか?」


「………………。」


「あの、すみません」


「………………。」



何度話し掛けてもその青年は反応しない。

……寝てるのか?

そうかもしれない。

こんな夜中に一人でいるのだ、休憩室でくつろいでいるうちに、いつの間にか寝てしまっている。

そう考えるのが妥当だ。



「あの、もう夜も遅いですし、部屋に戻った方がいいんじゃないんすか?」



俺はその青年の肩を叩いた。

すると、その青年が急に俺に顔を向け、ニヤリと笑った。

な、なんなんだ、こいつ……

驚きのあまり後ろに一、二歩のけぞった俺を、

何が面白いのか理解できない恐怖の笑顔で見つめる。



「な……なんすか?」



俺の歯に青ノリでもついてんのか?

……おもしろくない冗談だ。全くもってくだらん。

彼は俺から視線を離し、ニヤニヤしながら壁に掛けてある時計を見つめる。

それにつられて俺の視線も時計へと移る。


≦1時27分10秒≧


その時計は古いアナログ時計だった。

秒針が一秒一秒、正確に時を刻んでいる。

俺は再び謎の青年に顔を向けるが、青年は視線を時計に固定したまま動かない。


時計に視線を戻すと、秒針は誠実に時を刻んでいた。



……ある時点までは。



1時27分30秒に差し掛かった時だった。

秒針がまるで跳ね返されたように逆方向へカウントし始めたのだ。


28、29、30、29、28、27、26、25――


時計は一秒ずつ戻っていく。

一体何が起きているのか、さっぱり俺には理解できない。

ハッキリ言ってカオスだ。

呆気に取られている俺の横で、謎の青年はククク……と笑い声を漏らす。

これの何がおもしれえんだお前はよ!


1時27分0秒まで巻き戻った秒針は、またそこで跳ね返り、

また正常な方向へ時を刻む。


背筋に悪寒が走った。


青年も、時計も、尋常じゃない。

この古ぼけた時計に、秒針を逆にカウントさせるという、

とんでもない機能が搭載されているとは思えない。

この謎の青年にしても、何が面白くて笑っているのか理解できない。

異常なほど謎に満ちている。



チキンな俺は、もう我慢の限界だった。

俺は逃げるようにして、

いや、誰が見ても逃げる格好でその青年から、その時計から、そしてその車両から離れた。



今見たものが信じられない。

何がどうなっているのか、俺はその情報の断片も理解できない。

そもそも、時計が逆方向に時を刻む理由など、どこにもない。

もし、俺が壊れたと思っていた時計も、30秒で逆カウントを始めているとしたら……

それは二つの時計が同時に壊れる確率よりも起きる確率が低い事象、

というかほぼゼロに等しい確率だが、なぜか同時に壊れるよりも信憑性があった。


俺の寝ていた部屋に逃げ帰ってドアに鍵をかけ、部屋の照明をつけることも忘れ、

置いていた携帯電話を開き、暗闇の中零雨との連絡を図る。

操作をする指は震えている。


メールの送信先に零雨を指定し、

「ちょっと俺の部屋へ来てくれ」と、打って送信ボタンを押す。



送信中...



短いメールのはずだが、その表示が異常に長い。



送信に失敗しました。

電波状況が悪い可能性があります。

別の場所へ移動して再送信してください。



何とも絶望的な知らせだった。

行きは車内でもきちんと使えたメールが、使用不能になっている。

もしかしたら列車が電波塔から遠いところにあるからかもしれん。

俺は時間を置いて再送信してみることにした。






それから何度も送信を試みたが、同じエラーメッセージが出て送信できない。

メールが無理なら直接電話してみるべきだ。

部屋を出て隣の部屋に行けばいるのだろうが、

あの青年に出くわすかもしれないと考えると、どうしても部屋のドアを開けたくなかった。

零雨の電話番号を何とか入力し、通話ボタンを押して携帯電話を耳にあてる。



ププププププププププ……(接続音)


・・・。


沈黙。


接続する音が聞こえたまでは良かったものの、そこからコール音に続かない。

やはり、繋がらないのか?




ギャァァァァァァァアアアアア――――!!




咆哮に近い金切り声に似た大音量のノイズが聞こえ、

俺はぎょっとして思わず耳に当てていた携帯をベッドに放り投げる。

全身に戦慄が走る。


こんなノイズ、聞いたことがない。

そもそもこれって……ノイズ……なのか?

本当に金切り声じゃねえのか……?

……。

考えたくねえ。

もしこれがただのノイズだとすると、いや、ノイズと仮定しよう。

これがノイズじゃなくて金切り声とか、

よく分からん異形の怪物っぽい、臨場感溢れる咆哮ボイスだったらとかと考えるのは、

自分で自分の寿命を縮めることのように思える。


現実逃避してるだろうって?

現実逃避せずにこの場面を乗り越えられる奴がいるなら、主役、代わってほしいもんだ。

こんな最高にリアルなホラー、遊園地のお化け屋敷の比じゃないぜ。


話を戻そう。

この音がノイズだと仮定すると、

電話にちょっとしたノイズがはいることはよくあるが、

ある程度ひどくなってくると、普通、通話はぷつりと切れてしまう。

このノイズはアナログテレビの砂嵐の音よりタチが悪い。

こんな状況下ならなおさらだ。


投げた携帯電話は暗闇のベッドの上で液晶を光らせながら、

金切りのようなノイズを受信し続けている。

俺は嫌々携帯を拾い上げ、通話を切った。


とにかく、携帯電話が使えない。

あとは……嫌だが、零雨に会いに行くには直接部屋のドアを叩くしか方法はない。

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