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【連載15年目到達】マジで俺を巻き込むな!!【はよ完結しろ】  作者: 電式|↵
スパイラル・トレイン

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第4話-11 スパイラル・トレイン 4日目-回想

時は飛んで四日目の朝。

二泊した草原の中にぽつりと佇むストレンジホテル(俺命名)のチェックアウトを済ませ、

レンタカーに荷物を詰め込んでホテルを出た。



「昨日の卓球はすごかったね」



クルマの助手席に座り、シートベルトを装着したチカが言った。



「おかげで臨時の出費が出ちまったけどな」



運転席の匠先輩がそう言って苦笑する。



  ***


昨夜は天体観測はせず、風呂上がりに全員で卓球という王道まっしぐらコースを堪能した。

卓球で使うボールはピンポン球と呼ばれることは知っているだろう。

ホテルの卓球台をレンタルするにあたって、

そのピンポン球もレンタルされたものを使ったんだが、

ホテルのオーナーは一体どういう趣向をお持ちなのか、

ピンポン球にイカツイ男の顔が、アメコミ調で、

しかも黒のマジックを使って手書きで描かれていた。

さすがにこれには引いたね。

だってそうだろ?

確かに物理的には試合にはなんら影響を与えない、

正確にはわずかな影響しかない落書きだが、

プレイヤーの気持ちとしては、回転しながら飛んでくる男の顔を

ラケットで打ち返すのは気が引けるし、それよりも第一に集中力に欠ける。

まあそれは皆同じこととして我慢したが。


しばらくのんべんだらりと特に目的もなく、

ゆる~りと男の顔を打ち返すなどして卓球っぽいことをしていたが、

本気で戦ったら誰が一番強いのか決めようぜと突然ジョーが言い出し、

誰が一番卓球が強いのかを決めることになった。


「どうしてそう一番になりたがる?」と、ゆとり教育で培ってきた

“お手々つないでみんなが一番、一人一人はオンリーワン”の究極的ハト思考を

遺憾無く発揮する俺を尻目に、というか俺の言葉は普通にスルーされて

トーナメントが開催されたのだが、結局決勝まで勝ち残ったのは零雨と麗香だった。

「はじめての卓球」と言いふらしながらラケットを持った二人は、

あれよあれよと俺を含め周りの人間を圧倒し、

連戦圧勝の破竹の勢いというに相応しい高レベルな戦いを繰り広げ、

決勝戦ではどちらが勝つかの簡単な賭けが行われた。



ジョー=零雨に五百円

チカ =麗香に五百円

匠先輩=零雨に千円

俺  =面倒だから賭けない

美羽 =倫理規定(年齢制限)により不参加



結果から言うと、勝敗はつかなかった。完全なる引き分け。

先攻の麗香が放ったサーブを零雨が打ち返すことで始まったゲーム。

打ち返すごとに男の顔が描かれたピンポン球の速度は、徐々に上がっていき、

あっという間にプロプレイヤー顔負けの速度まで到達した。

もし俺がピンポン球の顔だったなら、打ち返される時むちゃくちゃ痛いだろうなと、

どうでもいいことを思いながら見ていたが、

俺の横で見ていたジョー、チカ、先輩の反応は違った。

あまりのハイレベルの戦いに驚き入りながらも、

自分の賭けているプレイヤーに勝ってもらおうと懸命に応援している。


最初のサーブ開始から十分が経っても、0対0のままラリーは続き、

気がつけば周りには数少ない他の通りすがりの宿泊客が集まり、

二人の戦いにくぎづけになって立ち見している。

卓球は本気でやれば体力なぞすぐ持って行かれるのだが、この二人の体力に物理的限界はない。

涼しい顔をしながらプレーする二人に、

観戦していた宿泊客のオッサンが匠先輩に、この子達はプロかい?などと聞き出す始末。


開始から十五分が経ち、周りの宿泊客も数が大分増えてきた。

何事かとホテルマンが駆け付ける事態にまで発展したが、それでも二人の戦いは止まらない。


そして開始から二十分。

応援するのも疲れた匠先輩がぽつりと言った。


「もうそろそろ決着をつけてもいいんじゃないか?」


そうですね、そろそろ決着をつけましょう、と麗香が言い、

ピンポン球の打ち返す速度がさらに上がる。

零雨の打ち返す速度も上がっていき、ピンポン球が机にぶつかる音も変わってきた。

カッカッカッカッカからカカカカカカカ、ガガガガガガガガガガガと異常とも言える音に変わっていく。

もはや人間の展開できるレベルの戦いじゃねえ……



そして、ゲーム終了の瞬間(とき)が訪れた。



バキッ


嫌な音がした。零雨のラケットの根本が折れたのだ。

野球でバットが折れることはあるが、卓球でラケットを折ったのはおそらく零雨が世界初だろう。

ギネスに認定してもいい。


麗香の球を打ち返せなかった零雨のラケットからこぼれたピンポン球は、

宿泊客(ギャラリー)の頭上を飛び越え、

一定の距離を飛んだところで急速に減速、壁に跳ね返ってボールは落下した。



ア然。


沈黙が空間を覆った。

宿泊客の一人が我に帰ってピンポン球を拾い、俺に渡してくれたのだが、

ボールは傷つき、ボコボコになって、一部ひび割れが入っていた。

どれだけすさまじいエネルギーだたのかを物語っている。

誰かが描いた男の顔も、ラケットに打ち返されるときに擦れて所々が剥げている。



「これは……引き分け、だな」


匠先輩はラケットが折れたでは仕方がない、と溜息をついた。

そして訪れた貸し出し道具の返却の時間。

ボロボロになって帰ってきた道具を見て、係の人が言った。


「弁償してもらいます」


  ***



そう、匠先輩が言った臨時の出費とは弁償代のことだ。



「それにしても、二人ともあんなに動いたのに、よく体力が持ったね」



と、チカ。

それを聞いた麗香が、あ……と小さく声を上げて自分の侵したミスに気がつく。


「どうしたの?」


助手席のチカが振り返って麗香に聞く。


「ううん、何でもない」


「それならいいけど……」



「先輩、今日の予定は何でしたっけ?」


ジョーが聞く。


「今日は……そうだな、昨日、一昨日と観光したが、

 この中に観光だけじゃ満足しない人間が一人いるだろ?」


匠先輩はミラー越しに美羽の姿を見つめ、優しく尋ねる。



「美羽ちゃんはどこか行きたいところはある?」



「遊園地!!」



「と、そういうことだ」


クルマは草原の中のアスファルトのくねくね道を軽快に走り抜けていく。

作者は卓球、というよりも球技全般が苦手です(=w=;)

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