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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
スパイラル・トレイン
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第4話-7 スパイラル・トレイン 2日目―記憶のカケラ


「もう、コウくんっ!起きて!朝だよ!」



そんな声が聞こえた気がした。

いやいや、まだだ。まだそんな時間じゃないはずだ。

これといって明確な根拠はないが、まだ布団の中にいていい時間だ、多分。



「もーっ!いつまで寝るつもりなの!?」



そんな声とともに掛け布団が引き剥がされたような涼しさを覚える。

(※実際に引き剥がされてます)

まあこれはこれで快適だ。

いくら冷房の効いた車内といえど、夏は夏、

掛け布団をかけて寝れば幾分かは暑くなるっつうもので……



「どうしたら起きてくれるのかなぁ……こうしたら起きてくれるかな?」



突然、胸に重圧がかかり、さすがの俺も異変に気がつく。



「ぬおおおおおっ!?」



異変に気がつくと同時に体中を巨大な衝撃が襲う。

全身が痙攣しているような感覚に陥る。



目が覚めた。



「あ、やっと起きた」



やけに麗香のしたり顔が目についた。

そしてにこやかに、「おはよう」と言う。



「……さっきお前、俺に何した?」


俺は寝台車のベッドから上半身を起こす。


「起こしただけだけど?」


「嘘つけ。今さっきただならぬ感覚が全身を襲ったんだが?」



麗香の頭上に電球が光った。



「ああ、これのこと?」



麗香の両手にバチバチと放電音。

そしてニヤリと口角を上げて笑う。

正直、そんな笑い方をされると怖い。



「……それは?」


「72,000V、600Aの電流」


「・・・?

 まったく理解できないんだが……」


「……じゃあ、もう一回やるよ?」


「は?」



麗香は有無を言わさず俺をベッドに押し倒すと、麗香の腕が俺の胸を圧迫する。

ただならぬ非常事態が迫ってきているということを、

第六感がスピーディーに俺の脳に送信し続けているが、この状態じゃまさに手も足も出ない。



「こうやってね……」


「こうするの♪」



「ぐおおおおおおっ!」



分かった、麗香は俺に高圧電流をぶっ放して俺を昇天させるつもりだったんだな?

起こすにしちゃ、激し過ぎる。つうか、生きてるだけで奇跡だ!



「分かった?」


「分かった。とうとう俺を殺しにかかるんだな?」


「違うよ!誰がコウくんを殺そうっていうの?

 そんな人がいたら私が消してあげなくちゃ……」


「お前だお前!

 俺に高圧電流ぶっ放して、こんがりと焼き上げるつもりだったんだろうが!」


「え?私?」


「そうだ、お前だ。

 俺を感電死させるつもりだろ」


「……そんな死に方もあるんだ」


「律儀にそこで学習してんじゃねーよ」


「そんな死に方があるなんて知らなかった。ごめんね♪」


「軽く謝られてもだな……」



こっちは九死に一生を得てるわけで、下手したらサスペンスドラマよろしく、

「夜の寝台特急殺人事件!旅行中の高校生謎の『感電死』」と、

新聞の一面を華々しく飾る可能性だってあった。

そんなやすやすと謝って済む問題じゃないってやつだ。

まあ被害者が幸運にも理解者である俺だから許せなくはないが。



「……その起こし方、今後絶対にするなよ?」


「分かってるよ」



俺は携帯電話を取り出し、現在時刻を確認。



「……あと一時間寝てても問題ねえじゃん」



現在時刻は午前六時半。列車の到着時刻は午前九時だからまだ余裕がある。

ちなみに匠先輩によるとこの電車の中で朝食は食べないそうだ。

朝食をとると予算オーバーになるから、

別途コンビニかなんかで朝食を買って食うらしい。

だからなおさら寝てても問題はない。

……もう寝るつもりはないが。


麗香はカーテンを開ける。

外の明るい日差しが車内に入り込み、俺は思わず目を細める。

早朝から太陽がはしゃいでる子供のように、ギンギンの光線を放つのはいただけない。



「……お前はいつもいつぐらいの時間に起きてるんだ?」


「うーん、寝てないって言った方が正しいと思う」


「寝てない……か」



麗香が寝てない、というか寝ないのは、

寝るという行動自体必要のないものだからだと理解した。

それに、どの世界で異常が発生するか分からない以上、

寝るということはその対応が大きく遅れるということを示す。

もしそれがその世界の致命的な欠陥であれば、悠長に寝ているなんて考えられないだろう。



「お前の場合は寝てないというより『寝れない』んじゃねえのか?」



麗香は窓の外を眺めながら静かに頷く。



「私は気絶したり、寝たりするってのは、形だけはできるの。

 でも、本当に気絶したり寝たりするわけじゃない。

 私の“内部”はしっかりと常に監視を続けてるの。二十四時間休まずね。

 だから、さっきコウくんを起こしてて思ったんだ、『うらやましいな』って」


いくらうらやましいからといって、

腹いせに俺を高圧電気ショックでたたき起こすのはいかがわしいと思う。

まあそこはいくら頑張っても越えられない壁だからな……

かわいそうといえばかわいそうではあるが、

これは誰にもどうしようもできないことで、せいぜい嘆くことぐらいしかできない。



「じゃあお前は夢を見たことが……」



俺はそこで口をつぐんだ。

またもや俺は麗香に辛い思いをさせるところだった。

どこまで俺は無神経なんだ。

俺と麗香は基本的構造から違う。

俺は人間で麗香は感情を持ったプログラムだ。

寝ることができない彼女がどうして夢を見れるのか。

少し考えれば分かることを、

わざわざ口に出して聞くようになった俺の低脳さを恨む。



「……ねえ、夢って何?」



そんな俺の懺悔を気にしないというように麗香は振り返り、

純真な目で俺を見つめる。



「んー、一言で言えば『物語』だ」


「寝ている間にお話が浮かぶの?」


「まあ、そんなとこだ。

 物語っつっても、何の脈絡のない、カオスの集合体みたいなもんで、

 眠りが浅い時に見ることが多い。起きる前の三~四十分まえぐらいとかな。

 不思議なもんで、数分に思えるときの夢も、数時間体験してるような夢も、

 大低の場合は目覚めたらすぐに忘れちまう。

 もしかしたら、夢を見てたということすら忘れちまってるかもしれねえ」


「忘れちゃうんだ……」


「全部が全部ってわけじゃないところがこれまた不思議なところでだな、

 インパクトの強い夢を見たときなんかは目覚めた後も覚えてることがある。

 ま、そうでもなけりゃ、『夢をみる』なんて言葉は生まれねえわけだし――」


「……もしかしたら私、見たことあるかも」


「…………マジで?」



麗香は大きく頷いた。

有り得ない。理屈的に考えて麗香が夢を見ることは不可能だ。

二十四時間営業のシステムが夢を?いろいろと矛盾してる。



「見たことあるかも、というより、見たって言えると思う」


「どんな夢なんだ?

 差し支えない範囲で構わない、教えてくれ」



一応聞いてみる。



「えっと――




***


何の用事だったのかは覚えてないけれど、何か大切な用事だったと思う。

とっても大切な用事というほどでは……ううん、とっても大切な用事だったかもしれない。

どれほど大切な用事だったのかは、覚えてないから計りようがないけれど、

とにかく大切な用事だった。はず。


私はステージ0にいる。


私はそこから別のステージに出掛けようとしていた。

つまり、大切な用事は、他のステージでやらなきゃいけないこと、なんだね。

ステージからステージへの移動は一瞬。

転送先の座標を指定して、実行コマンドを送信するだけだから。

転送にかかる時間は本当にわずか。

秒で表そうとすると、0.0000000000000000000……って並べてもまだ足りないぐらい短い。

ほぼゼロ秒、といってもいいと私は思う。


私は出発前に、別のステージにある何かを捜していた。

そして、そこに行って何かをしようとしていた。

大切な用事だから、時間がないから、早く“何か”を見つけだして、そこの元に行かなくちゃ。


――私は検索プログラムを呼び出して、その“何か”の場所を見つけた。

自分を転送するために、転送用のプログラムに、その座標を入力する。

この転送プログラム、私あまり使ったことがないから、ちょっとドキドキする。

でも、そんなことは言ってられない。

どうしてかは覚えてないけれど、時間がないから。

覚えてないことばかりで、私って情けないよね。

管理人として失格かも。違う。“かも”じゃないよね。失格だよね。


座標の入力を終えて、最後に実行コマンドを入力。

私の転送が始まる。


転送はほんのわずかな時間だけれど、

私はその転送路の隅に、

不穏な影みたいなものが隠れているのを見つけて、転送を中止して、転送路に降り立った。

転送路に異常があったら、

早い目に直しておかないと、後々使いたい時に使えなくて、困っちゃうかもしれないからね。


私はその影みたいなものに近づき、

まずこの不穏な影が何なのか、プログラムコードの解析をしてみることに。



……何これ。

解析結果を見て驚いたのは覚えてる。

でも、どうして驚いたのかは、これも覚えてない。思い出せない。

肝心なところが思い出せない。一番大切なところが。

解析結果の断片だけでも思い出すことだできたら……

そう私は思う。でも、私の記憶からは何も反応がない。だから覚えてない。


突然、その影が動いた。


***




「…………中途半端なところで終わるんだな」


「……ごめん」


「謝ることはない。これは夢なんだろ?

 途中でぶつ切りになることだってある」





口ではそういう俺だが、引っ掛かる点がいくつかある。

麗香が夢を見た、という時点ですでにおかしいことなのだが、

それを述べる前に、まずこの夢について整理しておこう。

面倒な作業だが、これをしておくと後々楽に物事が進むはずだ。やって損はない。



麗香はステージ0からどこかのステージに急いで移動しようとしていた。

移動先は、どこかのステージの“何か”。

移動中、不穏な影らしきものを見つけた。

それが何か、途中で調べることにした麗香だが、解析結果は覚えていない。

不穏な影が移動するところで、夢は終わった。



簡潔にまとめると、こんな感じだろう。

まず、“どこか”のステージに行って“何か”に関係することをする、という点だ。

次に、急いでいたという点。

そして、これが一番の不可解な点なのだが、不穏な影らしきものとは何なのか。


この麗香が話した夢のシチュエーションは、

昨夜の零雨がどうのこうのといっていた話のシチュエーションと酷似している。

あくまで仮説でしかないのだが、

“どこか”にステージ6を、“何か”に零雨を代入すると、

話がそのまんま現実にぴったりと繋がってしまう。



麗香はステージ0からステージ6に急いで移動しようとしていた。

移動先は、ステージ6の“零雨”。

移動中、不穏な影らしきものを見つけた。

それが何か、途中で調べることにした麗香だが、解析結果は覚えていない。

不穏な影が移動するところで、夢は終わった。



これは単なる偶然なのか?

偶然にしちゃ、話が合い過ぎてないか?

そもそも、麗香が夢を見るということ自体ありえないことだ。






   麗香の……記憶の欠片(カケラ)







その可能性は高い。


もしこれが昨夜、麗香の身に起きたことだと仮定する。

麗香のプログラムが停止し、記録が消えた理由が影の仕業だとしたら……


さらに論理は飛躍するが、なにかしらのプログラムのバグが影となり、

その影のバグが他のプログラムをバグに誘い込むものだとしよう。

バグに誘い込まれた麗香は、バグに捕まってしまう。

麗香自身にバグが影に誘発されて発生し、それを感知した麗香は、

自分が影と同様に、他のプログラムをバグに誘い込むことがないよう、自らを終了させた。

その際、再起動時にバグが再発するリスクがあるため、再起動することのないよう、

自己再起動機能を切にして救援を待った。


そう考えられないだろうか。

いや、超現実的な仮説であるということは理解している。

だから俺はこの仮説すべてその通りのことが起きたとは思っていない。

しかし、麗香が夢として語ってくれた中には、現実との共通点がある。

ただの夢とするにはリアルとの共通点が多すぎる。



「ねえ、コウくんってば!」


「……あ?ああ、悪い、ちょっと一人の世界に入り込んじまった」



麗香はムスッとした顔で俺を睨む。



「コウくんってたまにそうやって考え込むことが多いけど、何を考えてるの?」


「たまに考え込むことが多いって、矛盾してるんだが」


「で、何を考えてるの?出来たら教えてほしいなぁ」



言うべきか、それとも言わざるべきか。

もちろん俺の選択肢は

→いう

 いわない

だ。


俺は今までの考察を麗香に話した。



「う~ん、私自身が覚えてないから、正解とも不正解ともつけられないんだけど……

 確かに私が夢を見るなんて、よく考えたらおかしいよね」



麗香は眉間に手を当てて考えこむ。


「私が記憶を失ってる間に何があったのか、ちょっと時間があったら調べてみるね」




列車は予定通り、午前九時に終着駅に到着した。

扉が開いて一番乗りでホームに飛び出したのはやはり美羽だった。

俺が列車から降りると、もわっとした熱風が全身を包むのが感じられた。

そして夏の風物詩、蝉も毎年のことだが残り一週間の短い夏を謳歌している。


「着いたね~」などと中身のない会話を交わしながら改札を出た俺達は、

近くのコンビニで朝食を調達し、近くの公園の木陰の中にあるベンチで食べる。


俺はおにぎり二つとお茶、それと適当なサイドメニュー的なものをいくつか買った。

今思えば、サンドイッチ買えばこんなにたくさん買う必要がなかったと後悔する。

肉も挟んであれば野菜も挟んであるし、一応の栄養素は摂れる。

なんであの時俺はサンドイッチの目先の値段ばかり気にしてしまったのか……


おにぎり各種百五十円

サイドメニューの野菜類各種百二十円

ドリンク類(500ml)各種百五十円etc……



こんなに買わなくとも、


サンドイッチセット各種三百円

ドリンク類(500ml)各種百五十円


のシンプルかつお得な値段で食えたのに。



「匠、この後どうするんだっけ?」


チカは兄に尋ねる。


「今日と明日は九州の観光名所を巡ってだな、四日目はパアッと遊ぶ」



何ともざっくりした計画だ。

まあ、秒単位でスケジュールを作られるよりはマシか。

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