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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
スパイラル・トレイン
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第4話-5 スパイラル・トレイン 1日目―緊急事態(後編)

今までは適当に操作してここに来たが、ここからは失敗は許されない。

だがな……どのボタンを選択すれば良いのかが分からん。


やたらと選択肢があるから困る。

いくつボタンがあるのか数えてみると、十六もある。

どれもやたらと小難しい単語が並んで、

中には何のボタンなのかまったく理解できないものさえある。


どうしたものかとしばらく悩んでいると、PCからピーという音が。

もしかして制限時間内にどれか選ぶ必要があったのか!?


……と、思ったらなんてことはなく、右下に「新着メッセージ」の文字。

新着メッセージ?いや、冷静に考えれば明らかにおかしいだろ。

俺が今日初めてログインしたのだ、新着メッセージが来るはずがない。

大衆向けのメールサービスならば「ようこそ」メールが来ることも有り得るが、

ステージ0へのアクセスが許可されているのは、

推測ではあるが俺と零雨と麗香の三人だけだ。

ということは、

俺にメッセージを送り付けてきたのは零雨か麗香のどちらかと限定できる。

ああ、あとUSERの可能性もあるか。

とにかくメールはウィルスの危険も考えられなくはないが、開封してみることにする。



【件名:0176(S)

 内容:なぜここに来た?

   ここは世界の中枢部分。

   用がなければ早急にログアウトしろ。

   返信無ければ百八十秒後、接続許可を取り消す。】



零雨……からのメッセージ?

強硬な姿勢ではあるが、文体はどこか零雨っぽい。

0176って書いてあるし、零雨なんだろう。

これはチャンスだ!零雨と意志疎通が図れる!

メールを開けるかどうか考えていて時間を潰してしまったがために、

残り時間は一分あるかないかぐらいしかない。急いで返信をしなくては!

えーと、返信ボタンはどれだどれだ?

あ、あった!ぽちっと。


【件名:麗香が……

 内容:動かなくなったから助けようと思ってきた】


よし、送信!


二秒後、返信が来た。早っ!!

メール相手が相手だから納得はいくのだが、一瞬で返事が返ってくるのはやはり不思議な感じがする。

0176の後についてる(S)が地味に気になるが、それはあとで聞こう。


【件名:0176(S)

 内容:ステージ6の修復が完了した。

   そっちに戻る。

   何もしないで待て。】



これを読み終わった途端、人の気配がしてふと顔を画面から引き離すと、

ベッドの上で上半身を起こして俺を見ている零雨がいた。


「あ……お帰り」


「…………。」


「すまんな、勝手だけど、零雨(お前)の荷物いろいろ探させてもらった」


零雨は澄んだ目で俺をじっと見つめて言う。


「……あなたは構わない。

 ……ただし、中身については……極秘事項として……行動してほしい」


「そりゃ当然だ、いちいち言わなくても分かる」


「……そう」


「ところで零雨、さっきのメールの件名についてた(S)が何となく気になったんだが、ありゃなんだ?」


「……Secondary(セカンダリー)System(システム)の……頭文字」


「そのセカンド何とかっていうの「SecondではなくSecondary System」」


「……悪い。

 で、そのセカンダリーシステムとやらはどういう意味?」


「……『二次システム』」


「二次?」


「……一次システムは麗香。

 彼女が……あらゆる事象に対しての……決定権を持つ。

 私は……彼女のバックアップ。

 ……だからセカンダリシステム」


零雨はそう説明した。

音楽祭で零雨がチカと衝突したとき、その尻拭いをしたのはどこの誰だ?麗香だろ?

バックアップされてんのは零雨の方じゃねえかと、

満を持して渾身の突っ込みを入れたいところなのだが……我慢だ、我慢。



「ところで、零雨。

 麗香は今どういった状態なんだ?」


零雨はおもむろに俺が操作していたパソコンを取り上げると、

なにやらカタカタとキーボードで入力を始めた。

そしてくるりとPCの画面を俺に向ける。


「……彼女の状態。」


そう零雨は言った。



プログラム名 s0-v3.0a

稼働率    0%

稼動状態   緊急停止

備考     要再起動(自己再起動機能:切)

       記録領域にデータ不整合のエラー



……。

麗香に一体何があった?

プログラムが緊急停止するということは、相当重度のトラブルがあったと推測できる。

それにしてもなぜ自己再起動機能が無効になってるのかが不思議だ。

もしもチカやジョー、匠先輩の目の前で緊急停止してぶっ倒れることがあれば、

それだけでも大惨事といえば大惨事なのだが、

きちんと自力で再起動できるならば「ちょっと立ちくらみしちゃって……」とでも

適当に言い訳できるだろうに、なぜ自己再起動機能を有効にしなかった?


「……零雨、麗香を起こせるか?」


「……安全を確認するまで……待って」


零雨はパソコンのキーボードを叩きだした。

まあそうだろう。

何も問題がないのに緊急停止することはまずない。

そんなバグがあれば、麗香は頻繁に再起動しなくてはならなくなる。


「零雨、お前ならパソコンなんて使わなくても大丈夫だろ?」


キーボードを叩きながら零雨はうなずく。


「何でパソコンを使うんだ?パソコンを使ったほうが効率がいいのか?」


零雨はキーボードを叩きながら俺の目を見る。

さすがはブラインドタッチ入力の達人。


「……かえって効率は落ちる」


「ならなぜパソコンを?」


「……あなたに現状を正しく理解してもらうため。

 このソフトウェアは……麗香が作成した。

 ……語彙数の少ない私よりも……多彩な表現が可能な麗香が……このソフトウェアを

 作成したことで、……私の口頭での発信より、……コンピュータの画面を通して……

 発信するほうが……あなたが齟齬なくより正確に……理解できると考えた。

 ……また、人間は耳で情報を受け取るより……視覚的に情報を受け取る……ほうが

 より得意だ……という……データもある」


「それを一言で言えば?」



零雨ははたりとPCのキーボードを叩くのをやめた。

そしてうつむいて黙り込む。

俺の質問に対して最適な答えを探っているのだろう。

少しして零雨は顔をあげ、再び視線を俺に向けた。


「………………百聞は一見に如かず」


「それでいい。

 長々と説明するよりそっちの方が端的で分かりやすい」



零雨は再びPCの画面に視線を戻した。




……五分が経った。




「零雨、まだ終わらないのか?」


「……彼女のプログラムの……動作履歴に……今回の異常に該当する記録が……存在しない」



――つまり、何も異常がなかったのに停止したと?

俺がそう聞くと、零雨は首を横に振った。


「……ただ、彼女の動作履歴は……不正。

 途中から……データが欠損している。

 ……原因は不明」


「それは、今回麗香がこんな状態になるまでの途中の道のりが“消えた”ということか」


「……そう。

 ……欠損箇所を……詳述する。

 ……今日の正午から……現在までの麗香の記憶が……存在しない」


「つまり――記憶喪失、なのか?」


「……非常に近い」



原因は分からないが、麗香は記憶喪失もとい記録喪失状態にある。

それは、麗香が今日俺の家に集合した時に、

チカからもらった日焼け止めのこと、駅のホームで待ちぼうけしたこと、

部屋割りで一悶着(?)したこと、同じ個室になったチカと談笑していたこと、

そして、麗香が今現在、零雨とジョーの個室にいる理由も、覚えていない状態だということだ。



「問題はそこだけなのか?」



零雨はゆっくりと頷く。



「……実のところ、俺も麗香ももうあまり時間がねえんだ。

 俺はジョーに、麗香はチカに、それぞれ断って部屋を抜け出してきた。

 それからもう結構時間が経ってる。

 チカやジョーに怪しまれる前に、さっさと部屋に戻っておかねえとやべえんだよな」


「……やべえ?」


「ああ、悪い、問題が起きそうって意味だ」


「……学習した」


「でだ、これまた急かすようで悪いんだが、

 できるだけ早く麗香を起こしてくんねえか?」


「……起動だけなら数秒」


零雨は再びPCのキーボードを高速で叩きだした。

そして最後に、キーボードの中で一番大きく、

よく使われるボタン――Enterボタンを一段と大きく、バチン、と叩いた。


「……麗香に何か問題があれば……私に連絡して。

 いつでも……対応する」


「ありがとさん」



俺がそういい切った時、麗香が目を覚ました。



「おはよう、麗香。

 目覚めの気分はいかがかな?」


「……あれ?ここは……どこ?」


「寝台特急、電車の中だ。

 もうとっくの昔の話になるが、日も暮れたぜ?」


「……ぇっ、えっ、ええ――っ!!」



麗香はあわてふためき、カーテンのかかっていない暗闇の車窓を見て愕然とする。



「どうだ?タイムスリップした気分は」


「えっと、えっと、なんで私ここにいるの?

 ついさっきまで私、旅行かばんに服詰め込んでて……

 それで……今日着て行く服何がいいかなって考えてて……それで……」


「はいはい、ご苦労さん」



麗香は改まって正座し、俺を見上げる。



「ねえ、コウくん、真剣な質問なんだけど、

 この電車は行きの電車?それとも帰りの電車?」


「安心しろ、行きの電車だ」


「よかったぁ~、初めての旅行だから、すっごくた楽しみにしてたの。

 気がついたら家路だったとかじゃなくてよかった~」


「金出して旅行行って、家路の記憶しか残ってないとか寂しすぎだろ」



ホッと胸を撫で下ろす麗香に、零雨が一枚の紙を渡した。

そこにはカラフルなQRコードみたいなものが紙一面にふちなし印刷されている。



「……本日正午以降の、私が知る……あなたの言動および……おかれた環境のすべて」


「あ、ありがとう」


「零雨、その紙とインクはどこから?」


「……合成した」



ああ、そうですかい。



「麗香、現在時刻なんだが……」


「大丈夫、ここ()に書いてあるから」


「ああ、そう」


「……ねえ、コウくん、一つお願いがあるんだけど」


「何だ?」


「今晩、一緒に寝てくれる?」


「…………は?それって誘ってんじゃねえだろうな?」


「違うよ!零雨ちゃんが、

 『万が一同じことが起きたとき、迅速に対処できるよう、

  しばらくの間コウの近くにいろ』って。

 ほら、ここに書いてあるでしょ?」



その奇妙な言語、というか模様で描かれた紙、

お前らは読めるんだろうが、当然平凡人の俺は読めねえ。



「すまんな、読めん」


「あ……そっか」


「でもそうなると美羽はチカの部屋と一緒になるよな?

 チカ本人が美羽と寝ることを許してくれるなら俺は構わないんだが」


「……そうだね」


「ま、今回のお願いについては特別に俺が善処してやる。

 お前はチカの所に戻っておけ。

 チカが心配してるぞ」



麗香は俺を見てクスクス笑う。



「……なんだよ、文句あんのか?」


「コウくんもやっぱり、男の子だね」


「はあ!?誰がお前なんかに――!」

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