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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
スパイラル・トレイン
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第4話-2 スパイラル・トレイン 1日目―旅立ち

ピンポーン


「……はい」


「…………私」


翌日。


このようにして俺の家に一番早く訪れたのは意外にも零雨だった。

俺が玄関のドアを開けると、零雨一人だけが突っ立っている。

零雨は「ちょっと海外に一~二週間ほど出張するんです」と言わんばかりの

黒のごつくて渋いキャリーバッグと、それと全く似合わない

女の子っぽい、かわいらしいベージュのショルダーバッグに荷物を詰め込んできていた。

四泊五日の旅にしては少々、いや、かなり荷物の量が多い気がする。

ショルダーバッグ自体もかなりのサイズで、

一泊二日ぐらいの軽旅行ならばこれ一つで十分、という大きさだ。



「……ちょっと荷物、多すぎやしないか?」


オッス。ぐらいの軽い挨拶をしようとドアを開けるまでは思っていたんだが、

さすがにオッス。で済ますには荷物が多すぎた。


「……必要最低限の……装備」


「どうやったらその量で必要最低限の装備って言えるんだよ?」


「……旅先でのあらゆる事態を……想定した結果の……必要最低限の……装備」


「どんな想定をしたらそうなるんだよ……」


「……窃盗、誘拐、ゲリラ(Guerrilla)。……氷河期、隕石、「もういい!」」


氷河期ってなんだよ氷河期って!

隕石もよっぽどの悪運(ラッキー)がない限り直撃しねえし!

地味な疑問だが、なぜゲリラだけネイティブ発音?


ネイティブはともかく、

零雨は旅行先に自宅を持って行くぐらいの装備をしているという認識でいいだろう。


「……まあいい、とにかく中に入れ」


俺は零雨を家に上げた。


リビングの時計は午後四時を指し示している。

集合時刻は午後四時半だから零雨はかなり早く家に来たことになる。


「あ!零雨姉ちゃんだ!」


リビングでテレビを見ていた美羽が零雨に気がつき声をかけた。


「お姉ちゃん、美羽と一緒に旅行に行くんだよね?」


零雨はゆっくりと頷く。

これは彼女のイエスと答えるときのテンプレの答え方だ。


「いっしょに楽しいおもいで作ろうね!」






約束の時間の十分前には、既にメンバー全員の顔が俺の家に集まっていた。


俺、チカ、ジョー、零雨、麗香、美羽、そして最高責任者の匠先輩の七人だ。

参考までに、男女比は三対四である。



「日焼け止め、ちゃんと塗っておかないとね……」


俺の家の中で堂々と日焼け止めを塗りたくりはじめたチカ。

それは家を出る前にやってこい。


「麗香はもう日焼け止め塗った?」


「日焼け止め……?」


「えっ、まさか持ってきてないの!?」


麗香は首を横に振った。


「うん……持ってない」


「ちょっとそれヤバイよ!

 ……ほら、あたしの日焼け止めの予備あげるから。

 せっかくきれいな肌してるのに、紫外線に曝すなんてもったいない」


チカは麗香に新品の日焼け止めを投げ渡した。


「あ、そうそう。

 それ、ちゃんと肌に合うか試してから使わないと、

 あとで大変なことになるから気をつけて」


麗香は眉で富士山を作って苦笑いした顔を俺に向ける。


《ホントはいらないのに貰っちゃった……》


麗香はチカに気がつかれないようそっと俺にジェスチャー。

なら貰うなよ。



「零雨は?日焼け止め持ってる?」


零雨も首を横に振る。


「あんたたち、日焼け止めなしで旅行に行こうなんて勇者ね」


チカは苦笑いを浮かべて零雨にも日焼け止めを……

てかいくつ日焼け止め持ってきてんだお前は!






さて、今回の旅の移動手段は鉄道だ。

移動手段については匠先輩なりのこだわりがあるらしく、

「旅行と移動は違う」ということだ。

なんでも、新幹線や飛行機を使っての旅行はただの移動に過ぎず、

旅を楽しむならば道中も楽しめ、だそうだ。

夕方に旅行に出発することから勘がいい人は予想がついてるかもしれないが、

移動には寝台特急を利用する。

列車の中にベッドがのってるアレだ。

俺の家から電車を乗り継いで一時間程のターミナル駅。

ここで乗車する電車が来るのを待つ。


「ねえお兄ちゃん、あのボタンはなに?」


美羽が興味を持ったのはプラットホームの柱に付いているボタン――――SOSボタンだ。


「ああ、あれか?」


「何のボタンなの?」


「あれを押すと地球環境維持に貢献できる。要するにエコだ」


「へぇ~」


「ハハハ、おいコウ、妹に嘘教えるなよ。

 本気にしてるぞ」


ジョーがそう言って笑う。


「いや、俺は嘘なんかついてねえって!

 現にあのボタン押したら電車が止まってエコじゃねえか」


「そりゃ、そうだけどさ……意味違うし。

 それじゃ、SOSボタンのSOSはどう説明する?」


「ストップ(Stop)・温暖化(Ondanka)・促進(Sokushin)だが?」


「上手いこと当て嵌めやがったな……」



突然、零雨がSOSボタンに向かって歩きだした。

まさか……!


「ちょっ!零雨っ!やめっ!」


ボタンを押そうかとする間一髪のところで俺の手が零雨の手を弾く。


「……あのさ、これ冗談だから本気にすんなよ?」


「……?」


「いや、『?』じゃなくてさ……ちょちょちょいっと待ったやめろマジで!」


またもやボタンを押そうとする零雨を俺は慌てて羽交締めにして阻止。


「だから、冗談だからボタンを押すなって!

 押したら鉄道警察が手錠片手に追い掛けてくるだろうが!」


何もないのにSOSボタンは押したら絶対にダメだ。

周囲の迷惑になるだけでなく、法にも触れる。

俺は零雨をみんなの元へ帰した。



それからしばらく電車を待つが、

というか予定に余裕がありすぎてかれこれ一時間近くホームにいる。

どうしてこんなに余裕を持たせてあるのかは本当に謎なんだが、

まあバタバタしているよりかはマシだろう。

俺もこういう何もしない待ちぼうけタイムは好きだから、嫌とは感じない。

何も考えずに見上げる、

黄色に少しオレンジがかった、やまぶき色の空に浮かぶ雲は風情があっていい。

やっぱり俺には時間という概念があまり好きではないらしい。

時間に追われることのない縄文時代とか、

弥生時代に生まれれば良かったと思う今日この頃……


美羽はただ暇でつまらないだけの時間に感じているようで、

俺の手を汗で湿った小さい手が手が握っているのだが、

その手が俺をあっちこっちに引っ張ろうとする。

動き回りたいらしい。

だが間違って線路に転落でもされたら大変なので俺がしっかり手綱は持っておく。



麗香は八月ももうすぐ終わりだというのに、夏休み風情全開だ。

リボン付きの麦わら帽子をかぶって列車がホームに滑り込んでくるのを待っている。

チカはホームのひさしが作る日陰に隠れ、

西日がどんどん日陰を侵食していく度にどんどん残り少なくなっていく日陰へ逃げる。

そんなに焼きたくないならこんな計画なんて立てないで、

冷房の効いた家でゆっくりしておけば良かったものを。


匠先輩は耳に∩形ヘッドホンをつけてミュージックプレーヤーの音楽を聴いてノリノリ。

漏れてくる音にキンキンの高い声が混じっていることから、

やっぱ匠先輩の例の趣味の音楽なんだろう。

ジョーはというと、近くの売店で買ってきた

ペットボトルのお茶を少しずつ啜りながら、携帯電話をいじくっている。

零雨は俺に制止させられた後は大人しくなり、

ホームのベンチに腰掛けてどこか遠くを見るような目をしながら待つ。


美羽が俺の手を強くぐいぐいと引っ張った。


「何だ?」


「のどかわいた」


暑い中での水分補給は重要だということぐらい知っている。

俺は皆に断って美羽と売店に行く。


「えっと、そんじゃ美羽、

 ジュース全般、コーヒー、おしるこ、コーンスープ以外のどれか好きなのを選べ」


「えーっと……ぜんぶお茶しかないじゃん!」


「スポーツドリンクは選んでいい」


美羽はうーん、と一通り考えた末、紅茶を選んだ。

どうしても甘いものが欲しかったとみた。

そこで俺は売店のおばちゃんにペットボトルの紅茶とお菓子をいくつか買った。

合計で六百円ぐらいの出費だ。


「お兄ちゃんだけ(お菓子買うなんて)ずるい!」


「バカ、俺一人で全部バカスカ食うかってんだ。

 お前も食うに決まってるだろ」


久しぶりに空港で会った時のあの初々しさは何処へやら。

一月経ってみりゃ、こんなに図太くなっちまった。

俺の教育が悪かったのか?

……まあ、これぐらい気を許すぐらいになって初めて本当の兄妹って言えるんだろうが。


日も本格的に沈み始めようという頃になって、ようやく俺達が乗る電車がホームに入ってきた。

赤の筐体の長方形の電気機関車が尻尾を牽いて

タコ足配線のように複雑に絡み合うポイントをすり抜けて走ってくる。



俺達が乗るのは、寝台特急「あさがお」。

寝台特急は1950年代から70年代までは人気があったそうだが、

最近は衰退傾向にあるらしい。

俺達がこれから乗ろうという電車が、

十年後にはなくなってるかもしれないというのはちと寂しい気もするが、

輸送手段は時代とともに変化していくのは世の常。仕方あるまい。

なくなるのは惜しいからといって、まさか

(平安時代の輸送手段の一つである)牛車に乗って通勤・通学はしねえだろう。

それと同じだ。

ちなみにこの寝台特急「あさがお」、夏休み限定の臨時列車だそうだ。

俺達に割り当てられたのは、二人用の個室三つと、一人用一つの四つ。



切符の管理はすべて匠先輩がしてくれているのだが、

行きだけで一人当たり乗車券、特急券、寝台券その他諸々五枚の切符が必要で、

往復七十枚もの切符を管理しなくてはならないらしい。

考えただけで目が回るぜ……


「じゃあお前ら、俺は一人の部屋でいいから話し合ってどの部屋にするか決めな」


匠先輩は俺達にその五枚の切符を俺達に配ると、

自分の荷物をさっさと部屋に運び込んでしまった。


寝台特急の客車の通路は狭く、一人通るのがやっとなので、

他の乗客の迷惑にならぬよう、

俺達は二人用の個室に匠先輩以外全員集合、

部屋割りの臨時会議を開催することにした。

……それにしても今になって疑問に思うことがある。


なぜホームであんだけ待ちぼうけの時間があったのに、部屋割りの話を誰もしなかったんだ!?


そんな俺の愚考をよそに、会議は着々と進んでいく。


「まず、コウは妹と一緒じゃないとダメだろ?」


ジョーがまるで俺が美羽なしでは生きて行けないような言い草だったから、

俺はムカついて言ってやった。


「別にお前がこいつの世話するならそれでもいいんだぜ?

 喉渇いただ、お腹すいただ、一緒に遊ぼうだ、

 そういうのを一挙に引き受けてくれるなら逆に俺は大歓迎だ」


「そんなこと言って~、ホントは妹のこと好きなんじゃないの?」


チカまでそんなことを言い出した。


「実の妹が大好きとかそんな奴がいるならそいつの顔が見てみたいもんだ」


「えー!それを美羽ちゃんの前で言う?普通!」


「ハメやがったな……」


「お兄ちゃんは、美羽のこと……きらいなの?」


美羽は不安そうに俺を見上げる。

ああ嫌いさ、とスカッと言いたいいところなんだが、

美羽にとってみれば、

旅行が始まって初日に「お前のことは嫌いだ」なんて言われたら、

旅行どころの問題じゃなくなるのは明らかだ。


「嫌いだったら、

 お前がこっちにきたその日のうちにお前をお袋んところに返品してる」


「じゃあお兄ちゃんが、いま美羽といっしょにいるってことは、

 お兄ちゃんは美羽のことがすきなんだね!」


「残念ながら正解のようでそれも違う」


「じゃあお兄ちゃんは美羽のことどうおもってるの?」


「さあな?」


「教えてよ~!」


「これは教えてもらうもんじゃない、自分で感じ取るものだ」


美羽にはこんな分かったような口を利いたが、正直なところ、俺にも分かんねえ。

ガキっぽいところは嫌いなんだが……

美羽のことどう思ってるの?と聞かれた時はドキリとした。

不満そうな顔をする美羽だが、それが俺が今できる最大限の解答だ。


「とにかく、コウくんは美羽ちゃんと一緒なんだよね?」


部屋割りの話に麗香が話を戻す。


「まあな」


「じゃあ、零雨と麗香、俺とチカの割り当てかな」


ジョーは零雨と麗香がいつも一緒に行動していることを

考慮に入れての割り当てを考えたようだが、チカがそれに反論した。


「えー!あたし『こんなの(ヽヽヽヽ)』と一緒に寝るとか有り得ないんだけど!」


「俺はコレ扱いかよ……」


「夜中に何してくるか分かったものじゃないわ!」


「ひでえ……俺は何もしねえよ……多分」


「ほら!今『多分』って言った!鬼畜!」


「そういう意味じゃねえって……」


俺にもそういう意味でしか取れなかったのだが、そういう意味とはどういう意味?


「そんなに不安なら今一人部屋にいる匠先輩をこっち(二人部屋)に連れてきて、

 兄妹仲良く寝ればいいじゃないかよ」


「アレは絶っ対に嫌!

 あんなオープンドスケベ、被害に遭う確率120%よ!

 あいつのベッド下ほどおぞましいものはないわ」


「じゃあチカは誰とならいいんだよ?」


「男子以外なら誰でも♪」


「……なんかさ、(ジョー)が全力でのけ者扱いされてんのは気のせい?」


麗香がジョーの肩を持った。


「私はそんなこと思ってないから」


「……ごめん、逆に懐疑心が生まれたよ」


まとまりそうにもないから俺が重い腰を上げてやることにしよう。


「とにかく、このわがままブスワカメは女子と一緒になりたいんだろ?」


「誰がブスって?」


「いや、図形的なブスじゃなくて、もっと凶悪な性格の方のブスだから安心しろ」


「コウ……旅行が終わったらきっちり『精算』してもらうわよ」


「それはブスが治ってからにしてくれ。

 お前がおしとやかになってから精算しようじゃないか」


「どういう意味よ!」


「性格が丸くなってからってことだ」


「あたしがおばあちゃんになってからとでも言いたいの!?」


「別に今から性格が丸くなるならそれでもいいんだぜ?

 そっちの方が世のため人のためになる」


「悪者扱いしないでよ……」


チカの心理的耐久値の限界が見えてきたから、

ここらでジョーの仇討ちはやめておこう。


「で、だ。

 チカと一緒になるとしたら……麗香がいいんじゃねえか?

 零雨は基本的に何でもいいタイプだし。

 零雨、異論はあるか?」



零雨は俺の問いに対して首を横に振って答えた。



「じゃあ部屋割りは決まったな」


俺と美羽、零雨とジョー、チカと麗香、そして匠先輩。

この四グループに決まった。


一応一泊目の部屋割り設定です。

PC完全製作(笑)なので、

背景を透過色にして緑の背景になじむようにしてみました。

挿絵(By みてみん)

背景を青に変えても透過色だから大丈夫!

透過色って、便利ですね。




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