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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-END 音楽祭と妹 みんなが待ってる

音楽祭終了直後、俺と麗香は音楽祭の後片付けの為に担任に呼ばれた。


「あたしらは先に帰ってるから、片付けが終わったらそのまま家に来て」


チカは別れ際、俺達にこんなことを言った。

なんでも、音楽祭成功の打ち上げをやるらしい。

俺としては後片付け(これ)が終わった後、

そのまま帰宅してベッドに飛び込みたいところだ。

だが面倒なことに美羽は匠先輩が持ってる。

俺が美羽を置いて自宅に帰ることはさすがにできない。

そんなことすりゃ、今後しばらく続くであろう兄妹生活に亀裂(クラック)が入る。

もともと俺は美羽のようなガキは嫌いだ。

嫌いだからといって険悪な空気の中、一つ屋根の下で同じ釜の飯を食うつもりはない。

仲良くとはいわんがそれなりの仲は保持しておきたいというものだ。



「音楽祭の後片付けとか、めんどくせえ。

 つうか自分のゴミぐらい自分でごみ箱にもってけってんだ低脳野郎め」


俺は愚痴りながら

ごみばさみで校庭に散乱したゴミを掴んで麗香の持つゴミ袋に放り込む。


「そこまで言わなくてもいいんじゃないかな?

 もしかしたら気がつかないうちにゴミを落っことしたのかもしれないじゃない」


「……だとしたらこの近所は相当数のドジっ子で構成されていることになる」


「え~?そう?」


はさみを動かしながらテントを片付けている生徒の間をくぐり抜けると、

グラウンドの中の開けた場所に出た。


「いくら人がうっかりを起こすのは仕方ないといっても、この数はさすがにねえだろ」


そこには大量のゴミがごみ箱のゴミをぶちまけたようにグラウンドに散らばっていた。


「……ひどいね」


「ああ。……そんじゃ、これ(ゴミ)は見なかった、ということで」


「コラ、コウくん!

 『ゴミはちゃんと片付けないと』いけないでしょ?

 先生から頼まれてOKしたのに、放棄するつもり?」


踵を返して立ち去ろうとする俺の腕を、麗香に掴まれた。がっちりと。

元はといえば、ゴミ拾いは頼まれたんじゃなくてお前が自ら申し出たわけで、

もうちょっと楽な手伝いを希望していた俺まで

同じバンドのメンバーということで担任に道連れにされた揚句のこの惨状だ。

(チート使えば)麗香一人で十分なところを、わざわざ俺まで付き合わされているのだ。


「……へいへい分かりました、やればいいんだろ、やれば」


俺はゴミを袋にはさみでひたすら入れるが、俺がせっせと入れても入れてもゴミは減らない。


「……なあ麗香」


「うん?何?」


「これぐらいのゴミ、お前の例の能力でパパパッと掃除できねえの?」


「ダメ」


俺がぼそりと呟くと、麗香は首を振った。


「なぜ?」


「人がいるから、むやみやたらに使うわけにはいかないの」


「零雨は人前であんな曲芸をやっててか?」


「あのね、零雨ちゃんのあの技は、

 確かにボール一個一個の軌道を計算して飛ばしていたけど、

 理屈的にいえば、練習すればコウくんでも出来る技でしょ?」


「それはそうだが……

 地球が滅ぶ日までずっと練習しつづけたとしても、俺にはまずできないだろうな」


「そう?私は出来ると思うけどなぁー」


「俺の身体能力的に無理だ」


「……話を戻すね。

 零雨ちゃんのやったことは理屈的に説明できるけど、

 今コウくんが私にできないかって言ったのは超常現象の類になる。

 そういうのは、ほら……ね?」


「……分かったことにしておこう」



そうこうしているうちに、

他の後片付けにまわっていた生徒は仕事が終わり、

友人とともにバカ騒ぎしながら学校をあとにしていくのを見たのも、

かなり前のことになってしまった。


しかし俺達のゴミ拾いは主に完璧主義の麗香のせいでなかなか終わらず、

まだグラウンドの半分を掃除しただけに過ぎない。

時計を見れば午後八時をさしている。

校舎の明かりも職員室の一部―――見回りの先生専用の部屋だけしか灯っていない。

虫の静かな透明の鳴き声が虚しく聞こえてくる。



「それにしてもお前ってさ、」


「うん?」


「俺達と初めて会った時と比べると、変わったよな」


「そう?」


「自覚はないのか?」


「うーん、あんまりだけど……そんなに変わった?」


「だいぶな。

 今日昼飯食ってる時にお前が

 『ジョーの気持ちも考えてみよう』なんて言い出した時、俺は確信した。

 お前は変わった。

 いや、変わっている、変化していると言った方が正しいのかもしれん」


「どうして?

 どうしてそれが私が変わったっていうことに繋がるの?」


「…………あのさ、お前バカだろ」


「……へ?」


「お前は何をしに《ここ》に来た?

 自分の吹っ飛んだ感情プログラムを修復しに来たんだろ?

 修復の進行具合を把握してないって、

 いつ修復を終えるのかのめども立たねえじゃねえか」


麗香は黙り込んで目を閉じた。


「そうよね、常に把握しておかないとダメだよね……」





しばらくの間、沈黙の中で作業をしていたが、突然麗香がか細い声で聞いてきた。





「ねえコウくん、私のこと、嫌い?」


「は?……ん、いや、別に」


「ホントに?正直に答えて」


「だから別になんとも」


「本当は私のこと嫌いなんじゃないの?

 早く私とさよならしたいんじゃないの?」


「どうしたんだよ、急に」


俺はゴミばさみを動かす手を止めて聞いた。

麗香に目を向けると、彼女は俺から視線を逸らして俺に横顔を見せることしか許さない。


「だって……!

 ……コウくんがあんなこと言うから」



麗香が今回のように俺を忙しい中、音楽祭に引っ張り出したのは正直に言うとムカつく。

だが俺は麗香に対して嫌いだという感情はない。

麗香が俺のどの発言を根拠に俺が麗香を嫌いと考えていると考えているのか、俺には分からなかった。



「ぁ…でもやっぱり、コウくんの言ってることは正しいかもしれない……」



麗香は独り言のように言った。



「私は、人間(ひと)じゃない。

 どこにも存在しないはずの“存在”。

 好きになるにも嫌いになるにも、その対象が存在しないとそんな気持ちにはなれない。

 だからもともと存在しない私に対して何とも思わない。

 何とも思わないから私がコウくんにどんなことをしても一緒にいてくれる……

 そうだよね……うん、納得」



麗香は寂しく笑う。



「ごめんね、変なこと聞いちゃって。掃除、早く終わらせよっ」


「……はぁ~、このバカは全っ然分かってねえなぁ。

 あのな、――――……・・・。」



月明かりに照らされた麗香の目からキラリと流れる水―――泣いている。




「……泣いてんじゃねえよ」


「私ね、……わからないの

 自分が“いる”のか“いない”のかわからないの」


「お前がいなけりゃ俺はここでゴミ拾いなんてしてねえよ。

 今頃妹の世話に手を焼いてるはずだ。

 お前が元々物理(ハード)的に存在しようとしてまいと、

 結果的にお前は今ここに、俺の目の前にいる、存在してんだ。

 そもそも、お前が存在しねえなら俺も存在しねえじゃねえかよ。

 俺だって一応お前らの管理下にあるプログラム(ソフト)で動いてんだろ?

 ということは、チカもジョーも美羽も存在しねえよな?

 存在するものに対してしか感情を持てないならば、感情の概念はどこから来るんだよ?

 イデア世界か?そうじゃねえだろ?

 イデア世界が万が一あったとしても、それもソフト的存在でしかない。

 ……システムのくせして矛盾だらけの理論、ぶちかましてんじゃねえよ。

 それから俺がお前に対して何も感じていないなどという虚言をもう二度とかますんじゃねえ。

 次そんなこと言ったら、俺はお前との協力関係を切る」


「……ありがとう」


「チッ、せっかくたまにはお前のこと、

 人として評価してやろうと思ったのに、見事に空気をぶち壊してくれたな」


「……え?」


「なんだ、不満か?」


「ううん、すごく嬉しい」


「嬉しいのに泣くなよ」


「コウくん、『嬉し涙』、知らないの?」


「少なくとも泣き出した時は別の意味で泣いてたろーが。

 ……つかさ、そろそろやってくんね?」


「え?何を?」


「誰も見てねえから……よろしく」


「うん、分かった」


麗香は辺りをぐるりと見回し、周囲に視線がないのを確認すると、

俺にゴミ袋の口を持つように言った。



□の形に開かれたゴミ袋の中に、

グラウンドに散らばったゴミがどんどん吸い込まれていく。

無理な話だが、始めっからこうしときゃ、こんな遅くまで掃除しなくても良かったんだよな。



「これで一丁上がりっと……」


口を結んで俺はゴミ袋を肩に担いだ。

袋に穴はないから服が汚れる心配もない。


「サンタみたいだね」


俺の格好を見た麗香が言った。


「ゴミを担いでくるサンタクロースか?世界中のサンタ信者が聞いたら泣くぞ」


ましてや真夏のサンタクロースがゴミをプレゼントすることになれば、

この蒸し暑さ、腐敗臭もすさまじいだろう。

生ゴミ、それもきちんと水の切ってない生ゴミなんかプレゼントされたら、

それは即阿鼻叫喚の地獄絵図フェスティバル開催の合図だ。


「そうかもね」



ゴミ捨て場にゴミを放り込むと、後ろから声が聞こえた。



「あら、あなたたちまだここにいたの?」


声の主は玉城先生だ。


「今日は先生が見回りの当番なんすか」


「ええ、さっき校庭を歩いてくる人影が見えたから誰かと思って。

 ……もしかして、今までずっと掃除してたの?」


「まあ、そんなとこっす。

 主に麗香(こいつ)が完璧主義のせいで

 グラウンドの掃除がなかなか終わらなかったんすよ」


「えっと、神子上さん?

 先生が言うのもおかしいけど、そこまできっちりやらなくてもいいから」


「でも、命令は絶対「うおおおっと!メール来た!」」


命令は絶対とか、危なっかしいワードを軽く口にしやがってこいつ!

ちなみに、俺の携帯電話に着信があったのは事実で、

携帯を開くと「六十七件の着信」と表示されている。

あ、今また着信があって一件増えた。

こんなに大量のメールを送り付けてきたやつ、まあ想像はつくが一応確認しておく。

すると読み通り、全部チカだった。

受信ボックスには、





件名:早く戻って来い

件名:早く戻って来い

件名:早く戻って来い

件名:早く戻って来い(-_-#)

件名:早く戻って来い(-_-#)

件名:早く戻って来い(-_-#)

件名:早く戻って来い(-_-#)

件名:早く戻って来い(-_-#)

件名:早く戻って来い(-_-#)ボケ

件名:早く戻って来い(-_-#)カス

件名:早く戻って来い(-_-#)アホ

件名:早く戻って来い(-_-#)ウスノロ

件名:早く戻って来い(-_-#)ヘタレ

件名:早く戻って来い(-_-#)ブス

件名:早く戻って来い(-_-#)足手まとい

件名:早く戻って来い(-_-#)迷惑製造機

件名:早く戻って来い(-_-#)チキン

件名:早く戻って来いq(-_-#)p地獄に堕ちろ

件名:早く戻って来い(-_-#)本気で

件名:早く戻って来い(-_-#)そろそろ

件名:早く戻って来い(-_-#)殺すぞ

件名:早く戻って来い(-_-#)コラ

     ・

     ・

     ・

のおびただしくも美しい羅列。

こんだけ大量のメールが来たら逆に怖くて戻れやしねえ。

しかも途中からいわれのない罵倒が……

てか≦本気でそろそろ殺すぞコラ≧とか怖いんですけど!


「あ、私にも来てる」


麗香は俺に携帯電話の画面を見せた。

送信元はチカだ。


件名:後片付けまだ~?(^^*)セカセカ

件名:あとどれぐらい?

件名:コウ待ちなら放っときなよ

件名:いつ頃来れる?

件名:まーだーおーわーんーなーいーのー?


何なんだこの温度差は……

しかも着信たったの五件。

女の本性ここにありといっても過言ではないだろう。

少なくともチカにはピッタリと該当する。



「やっぱりみんな心配してるんじゃないの?メールまで送ってくるってことは」


画面を見ず、親からのメールと勝手に推測した先生は言う。

勘違いだと気がつかないまま、

話の受け答えだけは整合性がとれるなんてことはあるもんで、麗香は

「そうですね、早く戻らないと」

と答えた。


当然脅迫めいたメールが大量に送られてきた俺にとっては、

自分の身を心配されるのではなく、自ら心配する方が正しいのだが。



「そういえば、見回りは先生一人なんですか?」


「ええ、まあ」


「じゃあ何かあった時は大変ですね」


確かに、言っちゃ失礼かもしれないが、

もうおばさんである先生一人に学校の見回りをさせるのは大変だろう。


「このへんは治安がいいから、私一人でも十分なのよ。

 一時期、引ったくりとかゴロツキとかこの辺りに出てきた時があったでしょ?

 あの時はさすがに若い男の先生を含めた三人で順番に見回りしてたんだけど、

 最近は不思議とてっきり見なくなって。

 それで、もう一人でも十分だろうって」


この時俺は確信した。

この学校はセキュリティーが薄すぎると。

いくら治安が良くてもおばさん一人に学校のセキュリティーを任せるのは危険すぎる。


「さ、もう遅いから、早く帰りなさい。

 これは私が片付けておくから」


玉城先生は俺からごみばさみを取り上げると、俺と麗香の肩を持った。


「はい、帰った帰った!良い子は家で勉強しないと」


「うふふ……はい」


麗香はそう答えて俺の腕を掴んだ。


「コウ、ほら早く!

 早く“帰らないと”みんな待ってるよ!」


ははは……待ってる、ね。

俺にはチカが手をパキパキさせながら仁王立ちして待ち構えている姿しか想像できなかった。

第3話、「音楽祭と妹」では、ほのぼの系の話として書かせていただきました。

気がついてみれば、1話を書ききるのに平均2ヶ月かかっちゃってますね……

いや~、ここに書きたいことがよりどりみどりあって、

何を書こうかと迷っちゃいます。


書きたいことがあるなら

一部毎のまえがき、あとがき欄を利用したらいいじゃないか、


と、最初は思ってたんですが、

物語の合間に現実に引き戻すっていうのは、

やはり話に没頭したい方にとっては邪魔者、興ざめですよ……ね?

え?私のどうでもいい挿絵のほうがよっぽど興ざめだって?

……それはもう理解してます。はい。

目障りな方はお手数ですが、挿絵表示OFFでお楽しみいただけたらと思っています。

文体も赤ちゃんに鉛筆握らせて落書きしたようなとんでもないものですが、

それでも最初から最新話まで読んでくださる仏のような方もいらっしゃるわけです。

ああ、ありがたやありがたや。


えーっと、やっぱりここにいろいろ書きすぎるのもあれなので、

今回は読んでくださったお礼をさせていただきます。(またここに追記するかもです)

次話からは、ミステリーな物語が今頃になって本格的に始まる、というつもりで製作中です。



私のほうの活動報告にちょこちょこ小話、愚痴、質問、独り言を書いてます。

この小説についてのこぼれ話も、僅かながらあります。

タイトルにかかわる「大人の事情」とか……


たまに笑えそうで笑えない本当にあった話も載ったりします。

 

もし良ければユーザーページに一度遊びに来てくださいね。

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