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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-26 音楽祭と妹 “After...”


ありがとうございました、と俺達は一礼して舞台から下りた。

はあ~、やっと音楽祭からの束縛から逃れられたぜ。

あれこれいろいろやってきたが、今回のようなことはもうゴメンだ。死ぬ。


「お前ら、俺の予想の遥か上を行く演奏をかましてくれたな」


舞台から下りたところにクラス担任は腕組みをしながら立っていた。

そのとなりには、玉城先生。


「演奏、ものすごく上手だったよ~

 やっぱり相当練習したのよね、それだけのレベルの演奏をするぐらいだから」


「兄にどうしたらいか聞いてみたら、

 『俺が練習の監督をしてやる』って言い出して、結果的にこうなりました」


チカは照れを隠すためか、視線を砂の地面に落として言った。


「良いお兄さんじゃない」


「とんでもないですよ!

 あいつ、みんなで学校でまず何をやりたいかって相談してたら、

 突如彗星の如く現れて現れてあたしの個人情報(スリーサイズ)を暴露しようとしてきたんですよ!」


「ふうん、お前って言えないぐらい《小さい》のか?……あべっ!!」


はい、俺、見事にバチンと平手で頬をぶん殴られました。


「コウ、今日一日あんたと一緒にいて、

 ちょっと見直したと思ったけど、あんたやっぱり相変わらずの性格ブスね」


「痛ってえな……人間、そう簡単に性格は変わんねえよ、よっぽどのことがない限り」


チカがむっとした表情で俺を睨みつけていると、

観客のアンコールサインが聞こえてきた。マジ勘弁してくれ。


「どうやらお前ら、相当気に入られたらしいな。

 時間はあまりないぞ。出るなら行ってこい」


担任はにやりと笑って言った。

もちろん、俺は出る気はない。

最近のコンサートとかライブでも

アンコールなしで終わってしまうことなんかよくあるのに、

そういうサービスを求めてきてるわけだろ?

誰か贅沢という言葉を彼らに教えてやって……「コウ!何ボーッとしてんの!行くわよ!」


うえええええ!?出んのかよ!

俺はチカに腕を掴まれて舞台の上に引っ張り出された。

それと同時に沸き上がる拍手。

ああ、後でこれぜってえにトラウマになるわ。


ステージの上に立つと、麗香がマイクを持った。


「アンコール、ありがとうございます。

 全部最初から通すのには時間がかかりすぎるので、

 一、二曲が限界ですが、宜しくお願いします」


また拍手。

観客から麗香に対して可愛いぞーなどという、

演奏と全く関係のない野次が飛んでくる。

そして麗香、その一言一言に反応して照れんなよ……


少しして、麗香はマイクを持ったまま俺達に集合をかけた。

円形状に集まっての臨時会談だ。


「ねえ、何の曲やればいいのかな?」


と、麗香。


「知らねえよ、観客にアンケートでもとって、

 一番人気のある曲やって終わりでいいんじゃね?」


「あ、それいいかもしれない」


「コウ、たまにはいいこと言うじゃん」


なんか知らんが俺の口から出任せの適当に言った案が何故か採用され、

麗香がアンケートを取りはじめた。





その結果、当然の結果といえば当然なんだが、麗香の曲、

“A Beauty Sunset”が一番人気があった。


「じゃあ、始めます」


麗香は言ってマイクを所定の位置に戻し、立ち位置についた。

それにつられて俺達も動く。

俺も含めなんだが、人が動いてからしか自分も動かないとは、なんとも受け身な人間だ。





それはともかく、この曲が終わった後、麗香が軽く暴走しはじめた。


「次の曲は、この曲のつづきの曲です」


俺はそんな曲など聞いてなかった。

俺だけじゃない。

チカも、ジョーも、そんな曲なんて練習どころか聞いたことすらない。

だから俺達はポカン顔をするほか、やることが思い付かなかった。

零雨だけは仮面をつけているの如く、どんな状況下でも表情を変えない。


ジョーがマイクを持っている麗香に向かって歩きだし、ヒソヒソと何かを喋った。

ジョーの表情からして恐らく「そんなの練習してねえぞ」的な講義に違いない。


麗香はそれにヒソヒソと何かを答えると、

ジョーは納得したように二、三度深く頷いて元の立ち位置に戻った。



麗香はマイクを持って続けた。


「この曲は、まだ誰にも聴かせてません。

 ここにいるバンドのメンバーも知りません」


観客は再びどよめきだすと同時に、

未知の領域を探検するような、そんな期待に溢れた顔をしている。


……ん?麗香が作曲しててて、未発表の曲って―――!

「精神が狂うかもと自己封印したあの曲」じゃねえのか?

俺は麗香を止めるべく、舞台の最前線に立つ麗香の肩を掴んだ。


「おい、麗香!

 それは例の『危ない曲』じゃねえだろうな?

 そうならやめろ。

 近所のガキも大勢いる。

 みんながとち狂ったら、後で収拾がつかなくなるぞ……ぁ」


麗香は「大、丈、夫」と、俺の額を人差し指で突きながら答えて笑う。


「公衆の面前で小突くなよ……イチャイチャしてるとか勘違いされちゃ困るだろ」


「ちゃんと危険なところのメロディーは変えてあるから」


「一応お前耳付いてんだろ始め俺の話を聞けよ……というか、誰が演奏するんだよ」


「私一人で出来る曲だから」


結局、ちぐはぐな会話しかできなかった上に、

俺は言い負かされてジョーと同じく、元の立ち位置に戻ることとなった。


「これは私一人で演奏する曲です。

 良かったら聴いてください。曲名は“After...”」


麗香はそう言って電子ピアノの前に立った。

俺達は所定の位置でただ何もせずボーッっと突っ立っていることだけが仕事である。


日は沈んでしまい、空はディープな青紫の空が広がっている。

なるほど、夕焼けの次は夜空だからな。

曲は電子ピアノ一台で夜空そのままの美しさを表現、観客は黙って静かに聞いている。

感傷的な曲だ。

しかし書き直したとはいえど、麗香の曲の中に聴いたら精神があーだこーだとか、

少なくとも俺が聴いた限りではそういうストレンジ要素は一切合切含まれていない。

一体どうなってる?



内なる俺が首を捻りに捻ってもげそうなぐらい捻って考えたが、

結局のところ演奏終了までに解は見つけられなかった。

俺達はステージを降りた。

まあ、答えが分からなくともいい問題だ。恐らく。

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